嫉妬?
「そういえば、ナホ。私がここに来る時、他の騎士に引きずられていくボルクを見たのだが、お前は何か知っているか?」
何やら誤魔化すようにゴホンと一度咳払いをしたオリオン王は、振り返って思い出したように気になっていた事を菜穂に尋ねた。
「え、ボルク……? 誰ですか?」
その名前に心当たりのない菜穂は、オリオン王を見て首を傾げる。
「ボルクは、お前の部屋の前にいた騎士だ。念のため、お前を守らせていたのだ。茶色の髪に金の瞳の大柄な男だ。分からないか? 何があったのか、気絶していたのだ。信じられない、あのボルクが気絶など……」
「気絶した騎士……大柄な男……まさか……」
怪訝そうに眉を寄せて何やら考えているオリオン王をちらっと見ながら、菜穂は見る間に顔色を青くしていった。菜穂には心当たりがあり過ぎて、思わず頬を引き攣らせていく。
(うわーっ、どうしよう。私が適当に投げたもので、気絶させた人だよね……絶対……)
菜穂は、焦りながら不自然にオリオン王から視線を逸らした。
「おいっ、お前……何か知っているな?」
そんな菜穂の様子に気付いたオリオン王は、怪しそうに菜穂をじーっと見つめる。
オリオン王の鋭い視線から逃げるように俯いた菜穂は、ゆっくりと口を開いた。
「えぇっと、その……多分、そのボルクさんっていう騎士、私が気絶させた人だと思います……」
「何!?」
驚愕したように声を上げたオリオン王に構わず、菜穂はペラペラと事の顛末を話し出した。
「だって、目が覚めたら全然知らない部屋で、着ている服がスケスケで恥ずかしくて……そんな所に急に人が入ってきたから思わず悲鳴あげちゃって……まぁ、ヘレさんとクリュさんだから平気だったんだけど……でも、そこへ知らない男の人が入ってきたから、もうビックリしてパニックになっちゃったのよ! それで、手当たり次第いろんな物投げまくっていたら、偶然その男の人の頭に当たっちゃって……気絶しちゃったみたいな……? 後はヘレさんとクリュさんがその人を部屋の外へ運んでくれたんだけど……」
一気に話した菜穂は、顔を上げて恐る恐るオリオン王の様子を確認する。
すると、オリオン王が怖い顔で睨んでいたため、菜穂は身の危険を感じてタラーッと冷や汗を流した。
(何? 私、マズイ事しちゃったの? 騎士を気絶させるなんて、ヤバイ事なの!?)
菜穂は、オリオン王から発せられる殺気で、蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動けず固まっていた。菜穂とオリオン王の間に妙な緊張感が流れる。
そんな中、突然、その静寂を破る笑い声が部屋に響いた。
「ぷっ……うふふふふふふ……」
「笑うな、エウリュ!」
「申し訳ございません、陛下。あまりにも陛下がお可愛らしいものですから……」
「なん……!?」
口元を押さえてコロコロと楽しそうに笑うエウリュアレーを睨むオリオン王であったが、エウリュアレーの返答に絶句したように言葉も出ず、ピクピク額に青筋を浮かべる。
菜穂は、そんな二人を唖然と見つめた。
(王様が可愛い? エウリュさん、すごい! さすが、私の心の師匠だわ)
菜穂が尊敬した眼差しをエウリュアレーに向けていると、エウリュアレーはオリオン王と見つめ合ったまま軽く頷いた。
「分かりました。陛下の可愛らしさに免じて、特別に30秒だけ差し上げましょう。その間に、ナーオ様の誤解を解いて下さいませ」
「チッ、たった30秒か……」
「それ以上は駄目ですよ。陛下は非常識我儘な変態ですからね……」
「ぐっ……」
にこやかに微笑むエウリュアレーと、不機嫌そうに眉間に皺を寄せるオリオン王。
そんな二人の会話を聞きながら、菜穂はキョトンと首を傾げていた。
(30秒? 誤解って何の事?)
菜穂がぼんやりと二人を眺めていると、エウリュアレーが菜穂に視線を向けた。
「ナーオ様、陛下から大事なお話があるそうです。30秒だけですので、少し付き合ってくれませんか?」
「え? あ……はい……」
菜穂は反射的に頷き、それを見たエウリュアレーはお辞儀をして静かに部屋を出て行った。
「えっ? エウリュさんは先にいっちゃうの?」
思わず菜穂が心細そうに呟くと、オリオン王が面白くなさげな表情を浮かべる。
「随分とエウリュを気に入ったのだな」
「それは、エウリュさん、とっても素敵だから……尊敬しているんです!」
「ふぅん、それはそうと、ボルクの事だが……」
オリオン王の言葉に、菜穂は、王に睨まれていた事を思い出してサーッと青ざめた。
「あっ、それはごめんなさい。私、何も知らなくて……騎士であるボルクさんを気絶させてしまって本当にすみませんでした」
菜穂が慌てて頭を下げて謝ると、オリオン王は菜穂に近付きながら否定するように首を軽く振った。
「いや、ナホが謝る必要はないぞ。悪いのはボルクだから問題ない。先程、私が怒ったのは……ボルクが先に、お前のそんな姿を見たのが許せないと思ったからだ。神子であるお前の所有者は王である私だからな」
「はい? 何、その俺様発言!」
偉そうなオリオン王の告げる内容に、菜穂は、ヒクッと頬を引き攣らせてムッとしたように王を睨み付ける。
「私は誰のものでもないです!」
「いいや、俺のモノだ」
ニヤリと口角を上げたオリオン王は、力づくで菜穂の羽織っているカーディガンを落とすと、不意に菜穂の首筋に顔を埋めた。
「なっ!?」
「もう時間切れだからな。俺のモノだという証しだ」
「……痛っ!?」
菜穂は、首筋にチクッとした痛みを感じて思わず顔を顰めると、すぐにオリオン王は離れていった。
「その姿によく似合うな……」
微笑みを浮かべるオリオン王に首筋を撫でられて、菜穂は何故かぞくっと悪寒を覚えた。
(何、この王様!? フェロモンただ漏れ……。何ていう色気よ……。クラクラする。良い骨してるのに、近付き過ぎたらヤバイ感じがする……)
菜穂はドキドキしながら固まったようにオリオン王を見つめていた。
すると、オリオン王はフッと笑みを深め、菜穂の首筋を撫でていた手を滑らせていき、薄い布越しではあるが、胸の膨らみにそっと触れてきた。
「ひゃっ!? なっ、なっ……なにすん!?」
ビクッと過剰なほどに反応した菜穂は、真っ赤な顔して文句を言おうとしたのだが、途中でいきなり頬にキスされたため、ビックリして口を閉ざしてしまった。
「時間だ。それではナホ、また後でな……」
「なっ、なっ……なん……」
赤くなったり青くなったりと顔色を変化させながら口をパクパク開閉させている菜穂。
そんな菜穂を面白そうに眺めながら、オリオン王は耳元で何やら囁くと満足した様子で去って行った。
そうして、扉の締まる音で我に返った菜穂は、大きな声で叫ぶのであった。
「あの、俺様変態鬼畜王。悪かったわね、どうせ私は小さい胸よ! 何が『小振りな胸も悪くはない』よ。もう、何であんな奴が理想の骨の持ち主なのー!」




