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 中央の大穴から夜闇の柱が立つ頃、僕達は射撃訓練を引き上げ、銃の分解掃除を済ませると外はすっかり真っ暗。

 ステーブ教官と別れた僕達は、腹を減らせて食堂へ急いだ。



ガラガラララ

「おい、こんなとこで寝るな……」……「なんだ、お前ら生きてたのか」「バカ野郎死んでたまるか、おめーこそよく……」……


 食堂のアルミ戸を開けると、あちらこちらから大勢の喧騒が聞こえてくる。

 順番待ちの列に並び食堂の様子をざっと見渡すと、普段宿舎を利用する東京側の人間以外にも、地元の住人の探索者パーティーが大勢いた。

 宿舎の食堂は、ダンジョン住民も使える。昼間の防災無線を聞いて、最も情報の集まる宿舎食堂へ集まってきているのだろう。


 僕達は、座る場所をようやく見つけて、ゴーク猪のシチュー定食を頂く。


「うっま」「美味しいなあ」「やったーゴーク猪だー」「フウフウ、はい兄様あーん」「辞めろサラ」


 ゴーク猪が最も脂を付ける秋に捕らえた肉を冷凍庫で熟成させた味は、東京でも食べたことのない美味さだった。

 ダンジョンにくる時の楽しみの一つだ。


ピコンッ!


 腹ペコの僕達が、極旨シチューをおかずに丼飯をがっついていると、ダンジョン専用の携帯にメールが入ってきた。

 丼飯からご飯をかき込みつつ、スマホを操作している月宮班長がつぶやく。


「あいたー、ご飯の途中なのに緊急招集じゃない、皆急いで第3ブリーフィングルームへ行くわよ」


 僕達は、人使いが荒いと文句を言いながら急いでご飯をかきこむと、食堂を後にする。 



◆◇◆


 ブリーフィングルームに到着すると、10人ぐらいが中にいた。社長とスティーブさんが真っ先にこちらに振り返る。他の人も知った顔、僕達と同じ陸上自衛隊系民間軍事会社の『止水』の人達が居る。


「よおカナン、背がまた伸びたな、サラちゃんも綺麗になった」


「あ、お久しぶりです桜木一曹」


 僕が桜木さんと呼んだ、右目に眼帯を貼り付けて笑っているオジサンは、れっきとした陸上自衛隊の自衛官だ。

 僕の育ての親である辻輝(つじき)豪座(ごうざ)の元部下だった。子供の頃、散々戦闘の基礎を叩き込んでくれた人だ。

 現在は、陸上自衛隊の精鋭集団、第一空挺団出身から選抜された特殊作戦群から出向している民間軍事会社『止水(しすい)』と呼ばれるグループの隊長さんで、現在ダンジョン側の防衛責任者でもある。


「これで全員揃ったな」


 桜木1曹が部屋の中を見渡す。


「単刀直入に言う。カピバラ隊の一班が、都内からダンジョン5階層に堕ちた要救護者を発見後、失踪した。二班の隠密加護を使って要救護者と一班の救助を行う」


「えっ」


 二班のメンバーは、絶句したが、桜木1曹は話しを続ける。


「現状は、一班が都内からダンジョンに堕ちた都民を発見直後、『テケテケの追跡を受けているので救援を要請する』と通信、その後程なく連絡を絶った。魔境観測では生存反応があるが、通信は断絶している」


 僕達は、静かに桜木1曹の話しを聞いていた。

 テケテケは、本来7階層以下の深層階に出没して、夜闇や、暗闇に一体化する厄介なモンスターだ。いままで多くの探索者がテケテケに倒されてきたと言われている。

 だけど、カピバラ隊の1班は、ダンジョン探索が始まった当初からのベテランが揃っている、超越者もいるし能力も経験も高い。テケテケが相手でも遅れは取らないはず。


 5階層の地図を囲んで一班の位置までの攻略ルートと、脱出の手順を確認する。僕自身も何度か探索に入った場所なので、あまり心配は無いけど、5階層に居ないはずのテケテケが出てきたのは気になる。


 全体のブリーフィングが手早く終了すると、桜木1曹が腹の底から響くような声で号令をする。


「カピバラ隊は、夜間戦闘用の装備を整え、一班と要救護者の救出に向かえ。止水(しすい)はバックアップ要員として五階層の神殿付近で待機。バックアップ機材も用意する。各自準備にかかれっ」



 僕達は自分の装備を整えながら、来栖社長から作戦の概要を受けた。


「全員装備を整えながら聞いて欲しい、今回の敵はおかしな所が多い。5階層にいないはずのテケテケ。経験豊富な一班が連絡もできなくなる状況。クエストが近づいている事。色々ときな臭いねえ、今回はケチケチしないで夜間戦闘装備はフル装備で行く。そこの箱からダンジョンの遺物(アイテム)も身代わり系、全部出して分配しておきな」


「え、ほしたらサーマルビジョンもええんかな?」


「良いわよ、今回は制限なし。電池も新品にしていい。」


「社長ありがとうございまーす」


 ケチの社長には珍しい。


「私はジムニーの運転と魔鏡でモニタリング。スティーブはガンナーを任せるわ。もう一台のジムニーは、止水の人間が運転するからそのつもりで」


「「了解」」


「じゃあ、スティーブと私は車の準備をしてくるので、装備を準備しておいてね」


「「了解」」


 僕達は急いで装備を整えた。


・M4A1カービン。

ホロサイト、サーマルビジョン。IRライト(200ルーメン)、高照度Ledライト、レーザーサイト。フラッシュハイダー。


・タクティカルベルト

ガバメント1911ナインティーン・イレブン高照度LEDライト付き。デューティホルスター。ガバメント予備マガジン4本。M4予備マガジン2本。サプレッサー。ダンプポーチ。オタク棒(長時間)3本。ソイジョイ3本。ポーション他簡易メディカルキット。


・呪符プレート入りタクティカルアーマー。

M4予備マガジン5本。ガバメント予備マガジン4本。チタンナイフ一本。知り合いの鍛冶屋に打ってもらった山刀1本。モトローラ無線機。オタク棒(長時間)6本。水500CC2本。リチウム電池CR123A 6本。メディカルキット(ポーション、止血スライム、圧縮包帯、止血剤、増血剤、他)。地図。羅針の糸。身代わりの干し首3。囮ホヤ3。他。


・カーボンヘルメット

GPNVGナイトビジョン。バッテリーパック。IRマーカー。


・骨伝導インカム


・バックパック

静音仕様クリスベクター。ベクター30連マガジン3本。サバイバルキット。予備食料。水500CC4本。ワセリン。



 今回は、怪我人が出ている可能性があるので、メディカルキットを多めに持っていく。

 銃も普段なら、メインアームとハンドガンの2つだけど、現地がどうなっているのか分からない。予備銃として昨夜使ったクリスベクターも、バックパックにパウチ止めして持ち込む。

 桜ちゃんは、買ってもらったばかりのフルオートショットガンAA-12を、メインアームにして、特殊弾頭の詰まったマガジンをあちらこちらに装着している。


 彼女達は、着替えるついでにスカートの中に手を入れ、股間と内ももにワセリンを塗りながらお喋りをしている。

 男がここに1人いるのに全く考慮してくれない。非常に居づらい上に、妹のサラは『兄様わたしの股間にワセリンを塗ってもらえないだろうか』とか言ってくるので、勘弁して欲しい。


 僕は1人、廊下の隅っこで着替えながら、長距離行軍時の股ズレを防ぐワセリンを塗っていた。



 準備は完了して、ジムニーを改造したバギーに乗り込むと、神殿の門の間から五階層行きの門を潜る。

 門の先には、漆黒の夜闇がさざ波のようにうねる世界が拡がっていた。

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