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「寮の食堂の使用時間は朝五時から夜十二時まで。十二時過ぎたらコンビニでも行ったらええで!寮の中やったら、自由行動。でも犯罪は起さんといてぇな!対人やったら許す!使う人は滅多におらんのやけど、この寮管室フロアの奥に大浴場があってな、ここの使用は夜七時から十二時まで。使いたかったら使ってええからな。安全面は俺が保証する!ちょいちょい顔覗かせてるから安心してええで!揉め事やったら仲裁に入ります!!」
色々と話が脱線しながらも、寮の説明が最終段階まで来ていた。
というか、もう特に何もないと思うのだが、涼ちゃんの駄々でティータイムが始まってしまったのだ。
要の入れた紅茶をストレートで頂きつつ、お茶請けとして出されたスコーンを食べる。
これがまた絶品で、文句なしの味だ。
入学準備期間という、要と半同棲のような生活をしていたときも要の料理を食べていたのだが、これまた美味いのだ。
一体どこで習ったのだろうかと不思議に思い、問うてみれば全て流し読みしたレシピから自分でアレンジした創作だという。
「お前の安全は当てにならん。昔からお前は危険ごとばかり安全だと言って周りを振り回していただろ。しかも天然だから、誰にも止められないし。却下だ。暁乃様に大浴場を使わせるわけにはいかない」
「ちょ、酷くない!?酷いよね!要ってば、全然俺の事信用してくれてへんやん!そりゃ、確かに、昔は間違えて族のたまり場に足突っ込んでまったり、うっかり別の族の抗争に紛れちゃったりしたけどさぁ!さすがに、自分の監視下ではそんなことないよ!」
「ダメだ。お前は信用ならん。つか、そう言いながら一番危険なのはお前無気がするのは俺の気のせいか、杞憂かだといいんだけどなぁ?」
「そ、んな…ことはない!うん!多分!」
何が危険なのだろうか。
同性愛にしろ、暴れん坊にしろ、碌な事が無いのは確かだ。
身を引き締めるまではいかないが、ある程度、自己防衛の為に身構えていた方が良いのかもしれない。
「風呂はそんなに気にしないので、あまり使わないと思います。使う時は涼ちゃんに一声かけるようにしますし。それでいいですか?」
埒が明かないと覚り、どちらにも了解が得られるように言った。
元々、風呂や食事に時間をかけるという習慣があまり無い俺にとって、長風呂や湯につかることはあまり経験の無い事だからどうでもよかった。
興味を引かれる物でも無いし。
大体シャワーで済ませ、時間があったとしても風呂に浸かるのは十分程度だ。
「暁乃様がそうおっしゃるなら…しかし、何かあればすぐにでもこのバカを抹殺したのち、安全な場所へ戻しますから」
「それでいいよ。あと何かありますか?」
「んー…あとはほーんと、何もないと思うけどなぁ…まぁ何かあったらまた訪ねたらええよ!あきのん大歓迎!寧ろ来たってや!どうせ暇しかしてへんで!」
「分かりました。その内来ます」
「では行きましょうか、暁乃様」
「うん。あ、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると涼ちゃんは「達者でな~!」と手を振ってくれた。
が、別に長い旅路に出るというわけではないのでちょっと恥ずかしい。
別に周りに人がいないからいいけど。
正面玄関からフロア中心脇にあるエレベーターホールへと足を進めると、どこからか着信音が聞こえる。
「はい、要です」
他に人はいないと考えれば答えは簡単だった。
要はすっと、胸ポケットから薄い携帯を取り出すと耳へと当てる。
「はい…はい。分かりました。直ぐに向かいます」
ピッと切られた電話を見て、「何かあったのか?」と聞いた。
「理事長がこれから急な出張に行かれるとのことなので、直ぐに戻らなくてはいけなくなりました。暁乃様、お一人で行けますか?」
「俺は小学生じゃねぇぞ。一人で行ける」
「変な人間には付いて行きませぬようお願いしますよ?では、失礼します」
「俺は幼稚園児じゃねぇっつうの」
足早に去って行った要の背中に悪態をつく。
十六にもなって迷う事なんてない。
しかもここは学校の寮だ。
そう簡単に迷う筈が無い。
エレベーターが順に上からスムーズに降りて来ることを確認しつつ、寮の部屋番号を確認した。
0114と刻まれたカード。
「マネーカード…ねぇ」
現実味の無い金銭は確実に金銭感覚を麻痺させることだろう。この学校の階級がどれほどのものかは知らないが、おそらく日本でも有数の上層階級の子息が通っていることだろう。
「俺の限度はいくらなんだろうな」
端っから無駄遣いをする気の無い俺にとって、これはとてもくだらないものだった。




