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月を仰げば。  作者: 水城
第一章
16/18

14



「と、とりま、ええんやな?ほんまにええんやな!?」


「しつこいですよ。俺は構わないです。相手が誰だろうと、俺は屈服しません」


未だに痛いのか顔をおさえつつ話す涼ちゃん。

実際鼻血が出ていたし、今でも真っ赤になっている。

そのうち、青いあざが要さんのパンチの形になって現れるんではないかと心配だ。

無論、嘘だが。


「うぅ…あきのんがそないこというならこっちとしては変更しようが無いからなぁ…もしもあれなら、いつでも来てええからなぁ…あきのんなら年中無休で大歓迎やで」


「はい。ありがとうございます」


「ほなら、えっとぉ…」


いくつかの書類の中から封筒を見つけ出すと、一枚のカードを取り出す。


「これが、部屋のカギや。失くさんようになぁ。結構失くすやつが多いんよ。失くしたら再発行まで一カ月かかるん。それに、部屋のカギごと変更しなあかんでなぁ。同室の奴にも迷惑かけてまうんよ。やで、絶対に失くさんように。ほんで、これはカギと同時にクレジット式の電子マネーになるんよ。まぁ使えるんは校内だけやけどな~」


泣き真似でもしているかのような、若干震えた声で説明をする涼ちゃん。

さっさとしろと言わんばかりに、要が睨みつけている。


「まぁ、こんなもんかな。あ、寮の門限は11時。ぶっちゃけ言えば、俺が寝る時間が門限。外出届は外出する前日までに届け出ること。外泊する時はそれなりの理由付けてな!ま、俺がチェックするだけやで緩いけど!」


けらけら笑う涼ちゃん。それは自分で言うものじゃないと思うが…。

相変わらずジトリと睨む要さん。

お調子者、能天気、呑気。

白眼視、鬼畜、暴力的。

ふと、何かが引っかかった。


「なぁ、かぁなめぇ…」


「気色悪い。なんだ」


「久し振りなんやしさ~お茶、淹れてくんね?」


「うぜぇ。甘えんな。自分で淹れろ」


甘える→お茶→反発→ティータイム。

どこかで見た事が有る、フローチャート。

記憶の中の情報をひっかきまわす。

何処で見た?何処で聞いた?何処で知った?


「あ」


「ん?」


「どうかされましたか?暁乃様」


一つ一つのパーツが組み合わさって行きついた先。


「思い出した」


急に判明した、あること。

もやもやとした何かが急に晴れ、声が漏れる。


「天邪鬼」


その単語を言った瞬間、二人が反応を見せる。

涼ちゃんはソファをひっくり返す勢いで体を後退。

要はソファから落っこちている。すごい姿勢だ。


「え、な、ななな、なんに…ね?あま、のじゃく?なんなん?それ。な、要?」


「そ、そうだな。なんなのですかね、暁乃様」


「?あれ、違った?ティータイムが何より欠かせない闘争心皆無の総長、スズナリと悪行を働きながら悪行を成敗する正義の味方の様な阿修羅、副総長のヨウ。これって、二人の事?」


約10年前に伝説となった、暴走族「天邪鬼」。

トップの二人は親しい関係であり、二人が高校を卒業するとともに天邪鬼は解散。

後に、天邪鬼を勝手に名乗る輩が増えるが、二人は全く干渉せず、遂に完全に消滅。

約5年にわたり、トップに居続けた伝説の族である。

今、ちゃんと生きているとすれば当時、18だったはずだから28くらいだろう。

つまり、今目の前の二人と相応の年齢だ。


ズリズリと這い上がって来る二人。

しっかりと腰を降ろし、今度こそきちんと座る。

要が咳払いをすると、涼ちゃんが話す。


「あきのんは目敏いなぁ。なんで分かったん?やっぱバレやすい?」


「いや、俺が知っていただけです。10年も前ですし、多分、今では知ってる人は少ないと思いますよ?俺はたまたま前に、そのことを知っただけなんで」


「たまたま、ですか」


「うん。だって、族関係でもやっぱり依頼があるから、その辺いじってる内に入って来たんだよ。まぁ知っておいて損は無いってだけで覚えてたんだけど、まさか本人に会えるとは思えなかった」


10年も前の話なんて、昔話がよっぽど好きでなきゃしないだろう?

または、天邪鬼に憧れて、今もなお伝説を追い続けている奴でなければ忘れるか、過去の思いでになるだけだろう。


「まったく、暁乃様には恐れ入ります。懐かしい話です」


「今となっては恥ずかしい思い出やなぁ。あん時はなんか、腐ってたから」


「この馬鹿に付き合わさたんです。急に夜中抜け出そうなどとぬかしまして」


「昔から仲が良いんだな」


「そやっガッ!!!」


「そんなことありませんよ。昔からケンカばかりしてます。まぁ当然私が勝ちますけど」


本日三度目。そして、今度こそは急所の鳩尾に渾身のストレート。


「ははっ」


笑いがこみ上げる。

退屈をさせない、この二人。伝説の最強コンビ、飴と鞭。

この二人の事が、巷にばれればまた、この周辺が盛り上がるのだろうか。


それもまた、一つの楽しみかもしれない。



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