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家に着いたらすぐに自分の部屋に行きたかった。だけど何故か居間にお父さんがいて、つかまってしまった。
「おう貴志、今日はチョコ貰ったのか?知ってるだろ貴志、お父さんは製菓会社で広報部長をやってるからな、この日に向けてどれだけ仕事したかわからん、憂鬱な日々だったよ。だけど当日になってしまえば結果を待つだけ、今日は早く帰して貰えたんだ。ところで貴志知ってるか?2月14日は確かにバレンタインデーかもしれないが、女が男にチョコレートを送るなんて風習は世界中で日本だけなんだぞ。いまや風習というか慣例になってるが、そもそもこんな事をはじめたのは我々の先輩に当たるチョコレート業者で、チョコレートをいっぱい買ってもらおうとはじめたキャンペーンだ。こんなに定着するなんて本人も思っていたか知らないけど、『2月14日はチョコレート』ってのが優れたキャッチコピーだったってことには違いないな。『土用丑の日はウナギ』ってのが平賀源内が作ったキャッチコピーだってのと同じだな。ところがこのバレンタインってのが日本人にとっては風習どころか強迫観念になってる。男の子はチョコをもらえるか前の週からそわそわ、当日は放課後用もないのに残ったりなんかして。女の子だっていよいよ告白の時なんて腹を据えて、普段かあちゃんの台所の手伝いをしないような子が手作りチョコなんて作ってみたりするんだ、まあ、一番得をするのは我々製菓業者って訳だな。母さんもこんな我々の罠にはまるのはバカバカしいだろうから俺にチョコなんて買わなくていいからな。ただでさえこの時期はチョコに見飽きてるんだから。」
「またお父さんは理屈ばっかり言って。そんな事言ったって、女の子にとっては告白する絶好のチャンスだし、チョコもらって悪い気する男の子もいないでしょ?ねえ、貴志?」お母さんにそう言われてウンとだけ答えて貴志はすぐに自分の部屋に向かった。「貴志は相変わらず愛想のないガキだ。おおかたチョコレート欲しさに遅くまで残ってたクチだろ。ところで俺が母さんに初めてチョコ貰ったのは…」後ろからそんな声が聞こえてきた。




