9/30
第9話 落ちなかったシャンデリア
中央劇場には、八百人近い観客がいた。理由を伏せたまま避難させれば混乱する。かといって事故の可能性を隠すわけにもいかない。レオンの指揮で、観客は順番に外へ誘導された。エレナたちは天井設備を調べる。
「同じです」
セオが言った。新型光晶石。ARCANA旧型制御器。そして高負荷。グレンが固定金具へ測定器を当てる。
「振動が出てる」
まだ亀裂は小さい。だが確実に始まっている。
「あとどのくらいで落ちたと思います?」
ミアが尋ねる。グレンは首を振った。
「分からん。一週間かもしれん。一年かもしれん」
「そんなに幅が?」
「金属は時計じゃねえ」
エレナは固定金具を見る。今回は落ちなかった。負傷者もいない。新聞の一面にもならない。誰も、この夜に起きなかった事故のことなど覚えていないかもしれない。
「クロフォード」
振り返るとレオンがいた。
「全員出た」
「ありがとうございます」
「これでいいんだろう」
エレナは一瞬、意味が分からなかった。レオンが天井を見る。
「あなたたちの仕事は」
エレナはレオンが何を言おうとしたのか、理解した。
「はい」
エレナも天井を見る。
「これが一番いい結果です」
事故は起きてない。それだけだ。だから功績にもならない。それでもいい。事故調査官の仕事は、事故を解明することだけではない。次の事故を起こさないことだ。




