第28話 間違いを事故にしないために
王都魔法学院爆発事故。最終報告会。学院側。保護者代表。設備管理部。事故調査局。そして負傷したノア本人も、本人の希望で出席していた。右腕はまだ吊られている。
「事故の直接的な引き金は」
エレナが説明を始める。
「生徒による禁止された高出力操作です」
室内がざわつく。ノアは俯いたまま。学院長は表情を変えない。
「ただし」
エレナは続ける。
「同じ操作を、安全遮断装置が正常な状態で再現したところ、演算器は自動停止し、爆発には至りませんでした」
次の資料。安全遮断装置。三年前から誤作動。交換申請三回。予算保留。手動解除。日常化。
「今回の事故は、一人の誤操作だけでは説明できません」
学院長が口を開く。
「しかし規則違反がなければ――」
「起きませんでした」
エレナが答える。
「安全装置が正常でも、起きませんでした」
誰か一つだけを選ばない。
「事故を防げた地点は複数あります」
ノアが顔を上げる。
「じゃあ俺は悪くないってこと?」
エレナは彼を見る。
「いいえ」
ノアの表情が固まる。
「あなたは、してはいけない操作をしました」
「……分かってる」
「そこは変わりません」
少し間を置く。
「でも、あなたが間違えたときに爆発させないため、安全装置がありました」
ノアは黙る。
「人は間違えます」
エレナは会議室全体を見る。
「規則を忘れることも、破ることもある。だから安全設備は、その間違い一つで人が死なないように作られます」
新しい勧告。安全遮断装置の即時交換。学院全設備の緊急点検。安全装置の手動解除記録を中央管理。解除状態での授業禁止。さらに。安全設備更新費を通常設備予算から分離。
「予算まで事故調査局が口を出すのですか?」
学院管理部の担当者が言う。
「安全設備が、式典や新校舎と同じ予算枠で後回しにされた結果を確認しました」
エレナは答える。
「同じ仕組みを残せば、同じ判断が繰り返されます」
会議終了後。廊下。ノアがエレナを呼び止めた。
「クロフォード調査官」
「はい」
「俺、処分されるよな」
「それは学院の判断です」
「あんたは決めない?」
「私は事故原因を調べるだけです」
「……変なの」
「何が?」
「俺がやったって分かってるのに、俺だけのせいにしなかった」
エレナは少し考える。
「事実が、そうではなかったからです」
「それだけ?」
「それだけです」
ノアはしばらく黙っていた。
「次は触らない」
「そうしてください」
「そこは普通に言うんだな」
「事故を増やしたくありませんから」
ノアが少し笑った。その日の夕方。事故調査局へ戻る。四件分の資料が机に並んでいた。
王宮シャンデリア。新築邸宅。郵便馬車。魔法学院。
すべて違う事故。すべて違う原因。そして。すべてにARCANA製部品が存在する。
ミアが紙へ四つの事故名を書き、その中央にARCANAと記した。
「ここまで来ると、偶然って言う方が難しくないですか?」
エレナは紙を見る。
「そうですね」
初めて。否定しなかった。
「じゃあARCANAが原因?」
「それもまだ違います」
「やっぱり」
「四件とも、ARCANA部品単体の欠陥では説明できません」
むしろ。正常に動いていた。長年。別の条件と組み合わさるまでは。
「共通点があるなら」
エレナは言う。
「ARCANAそのものではなく、ARCANAに何かが重なった可能性があります」
「何か?」
「それを調べます」
そのとき。局員が一通の緊急報告書を持ってきた。
「クロフォード調査官。指名案件です」
「指名?」
事故調査官を名指しすることは珍しい。
書類を見る。
企業名。
ハインツ魔導工業。
製造工場。生産設備暴走事故。負傷者一名。そして依頼者。ヴィクトル・ハインツ。
十一年間の婚約を解消した元婚約者の名前が、そこにあった。




