第27話 三年間、誰も止めなかった
事故原因そのものは見えた。だがエレナには、一つ気になることが残っていた。安全装置の手動解除。それが三年間も続いたこと。
「最初に解除した人を探すんですか?」
ミアが尋ねる。
「いいえ」
「じゃあ何を?」
「どうして誰も止めなかったかです」
設備担当。教師。学院管理部。予算担当。順番に話を聞く。
最初の解除は、授業中に演算器が何度も停止した日だった。
教師が設備担当を呼ぶ。その場で一時解除。授業続行。
翌日も停止。また解除。
その翌週。解除したまま使う班が出る。
数か月後。誰も疑問を持たなくなる。
「最初は危ないと思いました」
ある教師が言った。
「でも何も起きなかった」
一か月。
三か月。
半年。
事故なし。だから。
「大丈夫なんだと思うようになりました」
エレナは記録する。
「安全装置が止まる方が困るんです。授業が進まないから」
別の教師。
「交換申請はしていました」
設備担当。
「でも予算が通らない」
「使用停止の提案は?」
「しました」
「結果は?」
「実習科目が成立しないと言われました」
「上へ報告は?」
「しています」
誰も完全には隠していない。誰も事故を起こしたいわけではない。一つの小さな例外が。いつの間にか普通になった。
「エレナさん」
聞き取りを終え、ミアが言う。
「誰か一人が勝手に切ってた方が、まだ分かりやすかったですね」
「はい」
「みんな知ってた」
「はい」
「でも誰も止めなかった」
「正確には、止めようとした人もいます」
設備担当。交換申請。使用停止提案。だが通らない。そのうち。本人も使い続ける側へ回った。
「こういうのも事故原因になるんですか?」
「なります」
部品の破損。術式の異常。魔力の流れ。それだけではない。人の判断。組織の慣習。予算。報告制度。それらも事故を作る。
「再発防止はどうします?」
ミアが尋ねる。
「安全装置を交換するだけでは足りません」
「新品にすれば解決じゃない?」
「別の装置で同じことが起きます」
安全装置が邪魔になる。一時的に解除。そのまま運用。異常が報告されても、重大事故が起きるまで予算がつかない。問題は第二演習室だけではない。
「学院内の安全装置を全部点検します」
「全部?」
「全部です」
「また増えた……」
「事故調査は――」
「だいたい面倒です」
今度はグレンまで一緒に言った。エレナは二人を見る。
「その言い方、広めないでください」
セオが書類を持ってくる。
「もっと面倒なもの、見つけましたよ」
「何です?」
「第二演習室の安全遮断器」
机へ図面を置く。内部部品。製造刻印。
ARCANA。
ミアが息を止める。
「四件目」
エレナは図面を見る。
今回も。ARCANA部品そのものが直接事故を起こしたわけではない。むしろ安全装置は、正常なら事故を防いでいた。問題は。劣化。解除。予算。運用。
それでも。
四件続いた。
「記録してください」
エレナが言う。
「はい」
「まだ結論は出しません」
「分かってます」
ミアはもう聞き返さなかった。




