第25話 彼は確かに間違えた
事故調査局の再現試験室。学院から同型の演算器が運び込まれていた。
「ノアが入力した操作を再現します」
セオが言う。
「まず安全遮断を正常な状態で」
演算器起動。通常出力。そこへ事故時と同じ高出力入力。
警告音。
次の瞬間。術式停止。出力ゼロ。
「止まりました」
ミアが言う。
「当然です」
セオが記録を見る。
「このための安全装置ですから」
同じ操作をもう一度。停止。三回目。停止。爆発しない。
「次、安全遮断を事故現場と同じ状態にします」
グレンが安全機構を確認する。事故機では、切替金具が物理的に固定されていた。安全遮断が自動復帰しないよう、解除位置で留められている。
「これ、故障じゃないな」
グレンが言う。
「意図的に止めてる」
安全装置を無効化。再び事故時の高出力入力。出力が急上昇する。
「遮断なし」
セオが読む。
「変換部温度、上昇」
さらに数秒。緊急停止。
「ここから先は危険です」
試験終了。結果は明確だった。
「ノアの操作は事故の引き金です」
エレナが記録する。
「でも、安全遮断が正常なら爆発には至らない」
ミアが続ける。
「はい」
「じゃあノアは悪くない?」
エレナは顔を上げる。
「それは違います」
ミアが少し驚く。
「彼は禁止されていた操作をしました」
「はい」
「それ自体は事実です」
「でも事故は安全装置が――」
「二つを混ぜないでください」
ノアの行動。安全装置の無効化。どちらかを消す必要はない。
「彼は間違えました」
エレナが言う。
「そして設備側も、その間違いを事故にしないための防壁を失っていました」
セオが頷く。
「人間の誤操作まで想定して安全装置を付けるわけですからね」
グレンが固定金具を机へ置く。
「なのに邪魔だから切った」
「なぜ切らなければならなかったかも調べます」
エレナは答える。安全装置が過敏になった。授業が止まる。交換申請。予算がつかない。教師が解除。それが日常化。事故当日。ノアが禁止操作。爆発。
一つずつ。事故へ近づいている。
「エレナさん」
ミアが言う。
「もしノアが操作しなかったら、事故は起きなかったですよね」
「今回の事故は」
「だったらやっぱり、ノアが一番悪いって考える人は多いと思います」
「そうでしょうね」
「違うんですか?」
エレナは少し考えた。
「事故調査では、『誰が一番悪いか』という順位はつけません」
「じゃあ何を見る?」
「どこで止められたかです」
禁止操作をしなければ止められた。安全装置が動けば止められた。劣化した装置を交換していれば止められた。異常停止を正式に報告していれば止められた。予算申請が通っていれば止められた。
「事故までには、いくつも扉があります」
エレナは言う。
「その全部が開いてしまったとき、事故になります」
ミアはしばらく黙った。それから記録紙へ書き込む。
「ノアの誤操作だけじゃない」
「はい」
「でもノアの誤操作も消さない」
「はい」
「難しいですね」
「だから調べるんです」




