第23話 禁止操作をした生徒
王都魔法学院。爆発が起きたのは、実技棟三階の第二演習室だった。廊下には焦げた匂いが残っている。窓ガラスは半分以上が割れ、壁には黒い焼け跡。演習室の扉は、救助のために外されていた。
「負傷者は?」
エレナが尋ねる。
「生徒一名。命に別状はない」
レオンが答えた。
「ただ、右腕と肩にひどい火傷をおっている」
「他には?」
「軽傷が三名。教師一名、生徒二名」
エレナは室内を見る。中央には実習用の大型魔導演算器。複数人で術式を入力し、魔力の流れを学ぶための設備だ。その正面だけが大きく焼けている。
「事故時の状況は?」
「実技授業中。担当教師が別の班を見ている間に、一人の生徒が禁止されている入力をした」
レオンが言う。
「目撃者もいる」
「その生徒が負傷者?」
「ノア・フェルド。十六歳」
ミアが資料を確認する。
「問題行動の記録がありますね」
遅刻。授業妨害。無断で術式設定を変更。教師への反抗。過去半年で注意処分四回。
「かなり……」
ミアが言いかける。
「扱いづらい生徒みたいですね」
エレナは資料を閉じた。
「それと事故原因は別です」
「はい」
ミアもすぐに頷く。王宮事故から三件。さすがに学んでいる。グレンが演算器の外装を外す。
「爆発したのは出力変換部だな」
セオが制御盤を確認する。
「入力記録が残っています」
「読めますか?」
「かなり」
術式記録紙が引き出される。事故直前。通常授業では許可されていない高出力命令。入力者識別。ノア・フェルド。
「本人の操作で間違いないですね」
ミアが言う。
「そう見えます」
エレナは演算器へ触れた。残響視。強い魔力が視界へ流れ込む。赤。青。白。複数属性が一度に走る。少し吐き気がした。強い残響。事故から時間が経っていないため、まだ濃い。エレナは呼吸を整える。
「大丈夫ですか?」
ミアが尋ねる。
「平気です」
再び見る。通常入力。その後。突然、高出力の火属性命令。術式が跳ねる。出力変換部へ集中。そして爆発。
「ノアの入力は確認できます」
エレナが言った。
「じゃあ原因は――」
ミアが止まる。エレナを見る。
「……まだ、ですね」
「はい」
セオが入力記録を睨んでいる。
「でも今回はかなり明確ですよ」
「禁止操作をしたことは?」
「事実です」
「爆発の引き金になった?」
「おそらく」
「なら、他に何を調べるんです?」
エレナは制御盤の側面を見る。安全遮断術式。高出力入力を検知した場合、強制的に演算器を停止する装置。
「これです」
セオも見る。
「安全遮断?」
「禁止操作をする人が誰もいないなら、そもそも必要ありません」
グレンが笑う。
「なるほどな」
エレナは安全装置を見る。
「人は間違えます」
意図的に規則を破ることもある。だからこそ。重大事故につながる設備には、その先の防壁が必要になる。
「高出力入力が入ったとき、安全遮断は作動しましたか?」
セオが記録を探す。数秒。眉が寄る。
「……作動記録がありません」
「故障?」
ミアが尋ねる。
「調べます」
ノアは確かに禁止操作をした。それは動かない。だが。それだけで爆発する設備だったのか。エレナは焼けた安全装置を見る。
「生徒の操作だけで、終わらせないでください」




