第21話 二十年前に消えた会社
ARCANA魔導工業。王立商業記録院に残っていた資料は、思ったより多かった。創業四十八年前。主力製品。家庭用魔導器。公共照明設備。運輸用制御器。安全遮断装置。最盛期には王国第二位の魔導具メーカー。
「こんなに大きい会社だったんですね」
ミアが資料をめくる。
「グレンが、昔はどこにでもあったと言っていました」
「なのに今は聞いたことないです」
「二十年前に倒産しています」
倒産。正確には。二十年前に発生した大規模魔導事故をきっかけに、急速に信用を失った。巨額の賠償。契約解除。経営破綻。
「大規模事故って?」
ミアが尋ねる。エレナは資料の次のページを見る。王都東部。ARCANA中央工場爆発事故。死者三十七名。負傷者百二十一名。周辺建物多数損壊。
「かなり大きいですね」
「はい」
事故原因。ARCANA製中央制御装置の設計欠陥。安全装置が想定外の魔力逆流を処理できなかった。その結果、大規模爆発。会社は責任を認めた。製品回収。そして倒産。
「じゃあ」
ミアの声が少し低くなる。
「やっぱりARCANAって危ない会社だったんじゃないですか?」
「そう判断するには早いです」
「でも昔も大事故を起こしてる」
「今回の三件では、ARCANA製品そのものの設計欠陥は確認されていません」
王宮事故。旧型制御器単体は正常。新築邸宅。安全弁は事故原因ではない。郵便馬車。旧型魔晶石なら制御器は正常。
「二十年前の事故と、今の事故は分けて考えます」
「はい」
ミアが資料をさらにめくる。その手が止まった。
「エレナさん」
「何?」
「これ」
事故調査報告書。調査責任者。そこに書かれていた名前。オスカー・クロフォード。エレナの手が止まった。数秒。文字を見る。見間違いではない。
「……エレナさんのお父様ですか?」
ミアが小さく尋ねる。エレナは資料から目を離さない。
「はい」
オスカー・クロフォード。元・王立魔導事故調査官。エレナの父。十年前に亡くなっている。
「お父様も事故調査官だったんですよね」
「そうです」
「二十年前の事故を担当してたんですか?」
「知りませんでした」
本当に。父は仕事の話をあまり家へ持ち帰らなかった。事故について聞いても。子どもには必要ない。そう言っていた。
「エレナさん?」
「続けましょう」
「大丈夫ですか?」
「何がです?」
「いや、その……」
「調査記録に父の名前があった。それだけです」
そう言ってページをめくる。だが目が、文字を追う速度が少しだけ遅くなっていることを自覚していた。公式事故原因。ARCANA中央制御装置の設計欠陥。調査責任者。オスカー・クロフォード。報告書承認。魔導省。そして事故から一年後。オスカーは事故調査局を退職している。
「お父様、この事故の後に辞めたんですね」
「そうみたいですね」
「どうして?」
「分かりません」
また、その言葉。だが今回は。いつもより少しだけ言いにくかった。




