第14話 事故原因は、家でした
事故調査局と住宅管理局、暖房器メーカー、建築会社による合同会議が開かれた。前回の王宮事故と似た光景だった。違うのは、今回は誰も明確に責任を押しつけられる相手がいないことだった。
「暖房器は規格を満たしています」
メーカー担当者が言う。
「住宅も建築基準を満たしております」
建築会社が続ける。住宅管理局も頷く。
「高気密住宅そのものに違法性はありません」
エレナは資料を見る。
「すべて、その通りです」
三者が少しだけ安心した顔をした。だが続ける。
「だから事故が起きました」
全員の顔が止まる。
「どういう意味でしょう」
住宅管理局の担当者が尋ねる。
「それぞれが、自分の基準だけを守っていたということです」
エレナは図を出した。暖房器。従来住宅。残留魔力。自然拡散。次に新築邸宅。高気密化。防音術式。排気経路なし。残留魔力蓄積。
「暖房器は、残留魔力が自然に拡散する住宅環境を前提に設計されています」
メーカー担当者が頷く。
「当時はそれが一般的でした」
「一方、高気密住宅は?」
建築会社が答える。
「暖房効率を上げるため、外気の流入を最小限にしています」
「つまり」
エレナは二枚の資料を重ねた。
「暖房器は空気が漏れることを前提にしていた。住宅は空気を漏らさないことを目標にした」
部屋が静かになる。
「どちらも、それぞれの世界では正しかった」
ミアが小さく呟いた。
「でも、同じ家に入れたら事故になった」
エレナは頷いた。暖房器メーカーの担当者が渋い顔をする。
「では、暖房器の設計を変更しろと?」
「一つの方法です」
「住宅側に換気設備を義務付けるべきでは?」
建築会社が反論する。
「それも方法です」
「どちらなんです?」
エレナは少し考える。
「両方です」
「両方?」
「今後の新築住宅には、魔導暖房器を使用する場合の排気基準が必要です。それと同時に、暖房器側にも高気密環境での使用条件を表示する必要があります」
「費用がかかります」
「事故にも費用はかかります」
エレナは淡々と答えた。
「今回は四人とも助かりました。でも次もそうとは限りません」
沈黙。誰も反論しなかった。会議終了後。ミアが廊下でエレナへ追いつく。
「エレナさん」
「何?」
「タイトル付けるなら、今回の事故原因って何になります?」
「タイトル?」
「報告書の原因欄です」
エレナは少し考えた。
「高気密住宅における暖房器残留魔力の蓄積」
「長いです」
「正確です」
「家が原因、じゃ駄目ですか?」
「駄目です」
「暖房器は?」
「それも違います」
「じゃあ何なんです?」
エレナは歩きながら答えた。
「環境と設備の不適合です」
ミアは難しい顔をした。
「事故って、思っていたより犯人がいないんですね」
エレナは足を止める。
「事故調査に犯人は必要ありません」
「でも分かりやすいじゃないですか。悪い人がいて、その人のせいだった方が」
「分かりやすさと正しさは別です」
それだけ言って、再び歩き出した。背後でミアが小さく笑う。
「やっぱりエレナさんらしいですね。」




