第13話 新しい家ほど、危ない?
再現試験室の一角に、小さな部屋が作られた。壁。扉。窓。すべて事故現場と同等の気密性能。その中央に、問題の暖房器と同型機を設置する。
「試験開始」
セオが暖房器を起動した。室温が上がる。一時間。二時間。目立った変化はない。エレナは測定器を見る。残留魔力濃度がごくわずかに上昇している。
「増えていますね」
ミアが言った。
「はい」
三時間。四時間。六時間。数値はゆっくりと上昇し続ける。
「止まらねえな」
グレンが言う。
「通常なら拡散するはずなんです」
セオが数値を確認する。
「でも逃げる先がない」
十時間後。残留魔力濃度は、暖房器メーカーが想定した通常環境の六倍に達した。
「人体への影響が出る数値ですか?」
ミアが尋ねる。
「分かりません」
エレナが答えた。
「これまで、この濃度まで蓄積することを想定していなかったからです」
「じゃあ?」
「医務局に協力を依頼します」
検査用の小型生体模型を用いた試験が行われた。一定濃度を超えると、魔力感応器官の働きが低下。さらに高濃度では、意識障害に似た反応が出る。事故現場の一家が示した症状と一致する。
「原因、これですね」
ミアが言った。エレナはすぐに答えなかった。
「何です、その顔」
「まだ一つ確認します」
「また?」
「事故現場と同じ条件で、部屋ごとの差が出るか」
試験室を四区画に分ける。三つには小さな排気導路。一つにはなし。さらに防音術式を追加する。同じ暖房器。同じ時間。試験開始。結果は明確だった。排気導路のある部屋では、濃度上昇は緩やか。完全密閉された区画だけが急速に上昇した。長女の部屋と同じだった。
「これなら説明できます」
エレナが言う。
「暖房器からの距離ではありません。換気性能です」
ミアは試験結果を見つめる。
「でも、なんか変ですね」
「何が?」
「暖房器は正常なんですよね」
「はい」
「家も設計通り」
「はい」
「誰も変な使い方をしていない」
「そうです」
ミアが困った顔をした。
「じゃあ、誰も間違えてないのに事故が起きた?」
エレナは少し黙った。
「そういう事故もあります」
古い暖房器。新しい家。どちらも設計通り。どちらも基準を守っている。だが。二つの基準は、互いの存在を想定していなかった。エレナは王宮のシャンデリア事故を思い出す。古い制御器。新しい光晶石。今回も同じ。単独では安全。組み合わせると危険。
「新しいものが危険なんですか?」
ミアが尋ねた。
「違います」
エレナは首を振る。
「古いものが危険なわけでも、新しいものが危険なわけでもありません」
問題は。変化する社会に、ルールが追いついていないこと。
「組み合わせを、誰も調べていなかったんです」




