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第11話 壊れていない暖房器


王都北区。事故現場となった邸宅は、完成してまだ四か月しか経っていなかった。白い石壁。大きな窓。新しい断熱術式。王都でも評判になった最新式の住宅だという。


玄関には王立騎士団の警備兵が立っていた。エレナが身分証を見せると、すぐに通された。屋敷の中は静かだった。一家四人はすでに病院へ搬送されている。死亡者はいない。それだけは幸いだった。


「暖房器はどこですか?」


エレナが尋ねる。


「寝室です」


案内役の騎士が二階を示した。ミアとともに階段を上がる。二階には四つの寝室があった。最初に倒れたのは母親。次に父親。その後、二人の子ども。全員が同じ夜に意識を失った。エレナは一番大きな寝室へ入った。壁際に暖房用魔導器が設置されている。新しい。外装に傷もない。グレンはすでに床へしゃがみ込み、暖房器の裏側を確認していた。


「どうです?」


「見た限りじゃ壊れてねえ」


「内部は?」


「今から開ける」


セオも制御術式を調べている。


「術式異常なし。遮断機構も正常です」


ミアが困ったような顔をする。


「じゃあ、何で倒れたんでしょう」


「それを調べます」


エレナは暖房器へ近づいた。手袋を外し、外装に触れる。残響視。視界へ淡い赤色が広がる。火属性。暖房器内部を循環し、熱交換部へ流れる。規則的。乱れなし。異常な逆流もない。遮断術式も作動している。エレナは手を離した。


「正常です」


ミアが目を丸くする。


「本当に?」


「少なくとも、魔力の流れには異常がありません」


「じゃあ暖房器は関係ない?」


「それもまだ分かりません」


グレンが暖房器の内部を開けた。部品を一つずつ確認する。


「摩耗もねえ。焼けもなし。詰まりもなし」


セオも頷く。


「術式上の欠陥も見当たりません」


ミアが腕を組む。


「でも四人とも倒れたんですよね」


「はい」


「食中毒とか?」


「病院の検査では否定されています」


「毒?」


「それも今のところ検出なしです」


「じゃあ……」


ミアが部屋を見回した。エレナも同じように見る。最新式の寝室。厚い壁。二重窓。床にも断熱術式。冬でも暖かく、外の冷気をほとんど通さない設計。エレナは窓へ近づいた。開ける。ほとんど音がしない。外からの風も弱い。


「ずいぶん静かですね」


「新築ですからね」


ミアが答える。エレナは窓枠を見る。隙間がない。徹底している。


「この家、換気はどうしていますか?」


ミアが瞬きをする。


「換気?」


「空気の入れ替えです」


「窓を開けるんじゃないですか?」


「冬に?」


ミアが黙った。エレナは暖房器を見る。次に窓を見る。暖房器は正常。家も正常。どちらも、それぞれの基準では。だが事故は起きた。


「他の寝室も確認しましょう」


四室すべてを調べた。暖房器の型式は同じ。だが一つだけ違いがあった。一家の中で最も症状が重かった人物。十二歳の長女。彼女の部屋は、暖房器から最も遠かった。エレナは部屋の中央に立った。


「おかしいですね」


ミアが言う。


「暖房器が原因なら、一番近くにいた人の方が重くなりそうなのに」


「普通はそう考えます」


「違うんですか?」


「まだ分かりません」


ミアが少しだけ嫌そうな顔をした。最近、この返事に慣れてきたらしい。エレナは長女の部屋を見る。窓。壁。扉。すべて閉じれば、外気が入る場所はほとんどない。そしてこの部屋だけ。窓に追加の防音術式が施されていた。


「ミア」


「はい」


「建築図面を取り寄せてください」


「暖房器じゃなくて、家の?」


「家のです」


「事故調査局って、家まで調べるんですね」


「事故に関係するなら」


エレナはもう一度、正常な暖房器を見る。


「壊れていないから、安全とは限りません」



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