09
「急に参加して、食うだけ食って帰るとか最強の存在だったな」
「でも、楽しいまま終わらせることができてよかったです」
いまはもうお片付けを終えた後だ。
紙皿とかにしたので洗い物なんかもほとんどなくて楽でよかった。
「肇もすぐに帰って気に入らなかったけどな」
「参加してもらえて嬉しかったですけどね」
「でもよ、なんか余計なことを考えている感じがするだろ?」
「空気を読んでいると、そう言いたいんですか?」
「ああ」
仮にそうだったとしても参加する前から肇先輩はそんな感じだったから違和感はないけどね。
「まあいいか、連れ戻そうとはしていないんだからな」
「そうですよ」
「少し歩かないか?」
「え、寒いので嫌です」
ただ話すだけならお家の中でいい。
いまから外でしたいことなんてないし、もう暗いからそういう点でも出たくはない。
あ……物凄く困ったような顔をしているぞ……。
表情で揺さぶってくるなんて駄目だろう。
「分かりましたよ。それでも遠くまで行くつもりはありませんからね?」
「ああ、それでいいんだよ」
荷物を持って行くつもりはないみたいだ。
ということはそれで解散にするつもりはないということ。
もういい時間なのにそれということは泊まるつもりなのだろうか?
「家に着いたときにも言ったけど誕生日おめでとう」
「はは、ありがとうございます」
「まあ、去年もこうだったからそう変わらないよな」
「そうですね、れあ先輩がいたぐらいでそれ以外は去年とほとんど一緒でした」
去年だって自分から喜々として教えたわけではなかった。
隠せているつもりが隠せていなくてしつこく聞かれた結果、教えることになっただけでね。
恥ずかしさと嬉しさと、マイナス要素とプラス要素がごちゃ混ぜになって内が忙しかった。
「瞳」
「はい」
言いづらいことがあるとき先輩は頭をボリボリと掻く癖があるからそこだけハゲてしまわないか心配になる。
だから椅子に座っているときなどはついつい見てしまう連続だった。
「うん、髪の毛の方は大丈夫みたい」とね。
「それでも変わった部分もあるんだ」
「どこがですか?」
「瞳に対する俺の気持ち……とか」
ああっ、また……。
言いづらいとしてもなにか違うことにした方がいい気がする。
例えば頬を掻くとかどうだろうか?
それもそれでしつこく何回も重ねたら肌が傷ついてしまうけど髪がなくなるよりはいいはずだ。
「去年はどうだったんですか?」
「去年は異性の後輩って感じだな」
「はは、それはいまでもそうですね」
「でも、もうただの後輩としては見られないんだ」
まあ、不自然なぐらいに優先してくれていた人だからなあ。
なんで私を? とはなってしまうけどいちいち言わずに受け止めよう。
というか、いまのこの状態で先輩にどこかにいかれてしまったら精神的にきつい。
本当は相手のことを考えるべきだけどここは乗っかるしかないのだ。
相手も気に入ってくれていて、自分の方からも露骨に求めているなんて整いすぎた。
「必死に否定していたのは二つの意味で私に勘違いされたくなかったからなんですね?」
「いやそれはだって俺は友達として肇が好きでも特別な意味で好きじゃないからだよ」
「でも、親密度が高すぎたんですよ」
「ひ、瞳から俺に対するそれは……?」
肇先輩だって同じような感じだったのになんで差ができてしまったのか。
柔らかい表情を浮かべて対応してくれる肇先輩ではなくてどちらかと言えば無表情とかマイナスな表情でいることも多い先輩を気に入った理由は……。
「十九日におかしかったのは淳先輩のせいです」
「十九日……ああ、あのときか」
「自分がお家に上がらずに帰る選択をしたのに淳先輩と離れることになって勝手に寂しくなっていました」
やって当たり前の家事をやる気すら出ないなんてレアすぎた。
恋をしているときは他のことに集中できないなんて聞いたことがあるけどまさか私自身が経験することになるとは思わなかったのだ。
「じゃあ俺が行ったのは結果的に瞳のためになっていたのか」
「それはそうですよ、『明日とはなんだったのか』なんて考えて素直じゃありませんでしたけどね。淳先輩と一緒にいるといつも通りの私じゃいられなくなるときがあるんです」
ゲームセンターのときと同じで手を伸ばせば届く距離に先輩がいる。
内容が内容なだけに距離も感じなくてそのまま手を掴んだ。
「温かいですね」
「いいか?」
頷いたら「好きだ」と。
ただそれだけの言葉なのに分かりやすく影響を受けた。
でも、私としては抱きしめたくて「いいか?」と聞いてきたと思っていたけど違ったみたいだ。
ちゃんとそういう関係になってからしたいということなのかもしれない。
「私も淳先輩のこと好きですよ。ただ、あの女の人が現れたときは本当に応援していましたけどね。それだけに肇先輩に興味があることが分かったときは暴れたくなりました。気持ちがないなら淳先輩と出かける必要はなかったじゃないですか」
「いやあれも相談を持ち掛けたいからでしかなかったからな」
「その後もまるで気になっているみたいに一緒にいましたけど」
「だって俺といれば肇となんて簡単に話せるからな」
肇先輩なんて誰にでも優しくて普通に話しかければ相手をしてくれるのに……。
自らのイメージを悪くしてしまうようなこともなかった。
この人は全く気にしていないみたいだけどね……。
「そういえばいつから私のこと気にしていたんですか?」
「それは……去年からだけど」
「ええ!? それなのに私の目の前で女の人と仲良くしていましたよね!?」
なんて、普通に応援しておきながらこの反応はズルいか。
それでもこういうやり取りをできる方が先輩後輩という感じがしたのだ。
いちいちオーバーリアクションなぐらいの方がいいと思う。
「仲良く見えたか?」
「そのために空気を読んだじゃないですか……」
「ま、結局肇にしか意識がいっていなかったからノーカンな」
ノーカンて……先輩もズルいな。
「よく考えていたらあれは拗ねていたようにも見えるな」
「いえ、私としては相手の女の人のことを考えられない淳先輩に困りました」
あのときも考えたけど誰だって気にする。
「友達なら別だろ」
「駄目ですよ」
「じゃあ俺が汐見とか長門と話していたら駄目か?」
「いや全くそんなことはありません、私が話すときは問題になるんです」
「なんだよそれ……」
なんだよそれと言われてもこうするのが普通だ。
私とそのままでいたいなら「そうなんだな」ぐらいで終わらせる心を獲得してほしかった。
「瞳、なにか私に言わなければいけないことがあるわよね?」
「え、えっと、淳先輩とお付き合いを始めたこと……とかですか?」
「そんなの言うか言わないかは本人の自由なんだからどうでもいいのよ。私が言いたいのはどうしてれあにだけ誕生日のことを教えたのか、それだけしかないわよ」
そ、それも言うか言わないかは本人の自由のような……。
あ、だけど顔が、正しいことを口にしても解決はしない空気になっている。
「わ、私はれあ先輩にも教えるつもりはありませんでした。でも、三人で集まっていたときにれあ先輩が付いてきてしまったことによって――」
「ふむ、それなられあのせいということね?」
「れ、れあ先輩のせいにするつもりはありませんが……」
「それならいいわ。あと若生君と付き合い始めたのよね? おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
あれえ? やっぱり駄目なのかな、まだ手を掴まれたままだ。
そのまま指を絡めるようにして握られ、いつものように固まっていると「学校では私があなたを独占するわ」と本調子なのかそうではないのか分からない遥さんに。
「あなた、同性には興味なかったの?」
「全くないことはありませんでした」
「でも、若生君達のせいで邪魔をされてしまったのね」
あれこれ、れあ先輩にとっていいことなのでは……?
本当に無理なら冗談混じりにでもこういうことを口にしたりはしないものだ。
「やっほー」
「れあ、瞳を若生君に取られてしまったわ」
「あ、いま教えてもらえたんだ」
「はい?」
ひぇ!?
い、いやこれだって意識してすぐに動いていたわけではないのだ!
でも、なにかと来てくれて、物理的に距離が近い人で、何故かこういうことも言いたくなってしまう人でもあった。
「まあいいわ、私にはれあがいてくれるもの」
「おおっ」
「え、じょ、冗談……だよね?」
ここでそういう反応はいいね!
落下してからの急上昇で心臓は大暴れだった。
頑張れれあさんっ、ここは全力で乗っかるぐらいでいいんだ!
「冗談ではないわ」
「あ、で、でもっ、後輩ちゃんが若生君に取られていなかったら……」
「そんなことを考えても仕方がないでしょう? だってこれが現実なのだから」
ふふ、後輩はクールに去るよ。
そのまま先輩の教室に行ってみると偶然、一人でいてくれたから連れ出して真正面から抱きしめておいた。
「好きです」
「お、おう、なんか凄く嬉しそうだな」
「はい!」
とはいえ、このままではいられないからお礼を言って教室へ。
椅子に座ってからもドキドキしていて落ち着かない一日となった。
「うーん」
やっぱり変な拘りを持つとすぐには見つからないみたいだ。
これならまだ勢いで買って既に読み終えた本を読んだ方がいい気がする。
図書室とか図書館から本を借りて自分が持っておくのも気になると分かったことだし、しばらくの間はそうすることにしよう。
「お、雪だ」
珍しすぎて馬鹿みたいに空を見つめてしまった。
別に自分が笑われたわけでもないのに笑い声に過剰に反応してすぐにやめた。
いまは本屋さん以外に寄りたいところがないから帰ろう。
「おーい」
「肇先輩」
前の方から後ろの方から追いかけてきた。
まあ、お店が集まっているから休日になればみんな行くだろうし、違和感はない。
「今日も寒いねー」
「はい」
「あーいまから大丈夫……?」
「はい」
いつも三人でいるのにその中の二人の関係が変わったからやりづらいのかな。
なんかいますぐにでも「や、やっぱりいいや」と逃げてしまいそうだったからガシッと掴んで近くにあった喫茶店に入る。
おすすめを聞いてそれを頼んでから肇先輩の方を見る。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「僕は去年の時点で淳の瞳さんに対する気持ちを聞いていたからね。でも、いざ実際に二人が付き合い始めたことで一緒に居づらくなるとは考えていなかったけど……」
「気にしないでください。私も淳先輩も肇先輩がいるところでイチャイチャしたりはしませんから」
簡単に言うとこの前の先輩達みたいにはしないということだ。
相手に「もう帰っていいかな」となってほしくない。
「あ、それはいいんだよ」
「え、み、見せつけられたい趣味がおありで……?」
「だってそれは信用して見せてくれているということでしょ? 嬉しいんだ」
「わ、分かりました」
ま、まあ、人前でイチャイチャすることなんてそもそもできないけどね。
でも? 万が一そういう時間がきてしまっても気にならないということなら楽でいいのではないだろうか。
私が勝手に「肇先輩とはこういう人だろう」と決めつけてしまうのは問題になるものの、本人がそう動いているのであれば安心できる。
「あとこのこともちゃんと言っておくからね」
「私も隠すつもりはありませんよ」
「少しだけでも喧嘩に繋がるきっかけを作りたくないんだ」
ふふ、肇先輩は先輩が好きすぎるな。
そういう点でも仲間だ。
「僕も本当は……いや、やっぱりいいや」
「はい」
「おめでたいことだからここは僕が出させてもらうね」
取り上げてしまったうえにここでも抵抗するとバキバキに折ってしまうかもしれない。
だから大人しく奢ってもらった。
「淳の家に行く予定は――なかったんだね、じゃあ家まで送るよ」
やばい、肇先輩ではないけど少しやりづらくなってしまったかもしれない。
あと、こんななのに目の前で自由にやることなんかできない。
取り合げたことを責めてくれているのであればまだやりやすかったのに。
「お、二人で行動していたのか」
「淳っ」
「落ち着け肇」
う、嬉しそうだな!
ち、小さく縮まっておくことでなんとか空気を読もうとしたよ。
ただ、こういうときに先輩はやっぱり駄目で、こちらにも話しかけてこようとしてしまうことが問題だった。




