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【毎日投稿/全45話完結予定】パンドランディング 〜まじめ+天然+バカ+毒舌=4人が織りなす壮大謎解きアドベンチャー〜  作者: 小野兄子


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#10 『新星』

【前回まで】


逃亡したゼンとフィーナは小さいながらもお互い成長を続け、確かな信頼を築き上げていく。

しかし、そこに国は待ったをかける大きな権力がゼンたちの知らない間に迫りつつある。

時間はゼンたちが学校から逃亡した翌日に遡る。


かろうじて生き残ったグランドのケイミューと、彼が担いできた2人の重傷の騎士、そして冷たくなった校長の遺体が王宮に到着したのは、ゼンとの戦闘が終わってからわずか2時間後のことだった。


ケイミューは自らの治療は固辞し、他の2名の治療に専念させた。

夜が明ける前、その様子を耳にしたセレメントの王にして、14カ国の頂点に君臨する皇帝ネオマは


「ケイミューはおそらく自害する気だろう、思い留まるよう伝え、医師の手当を受けさせろ」


と予言者のように彼の心中を的確に察し、

配下に指示まで与えた。


余談だが、

皇帝陛下のお言葉を側近から耳にしたケイミューは失態を赦されたことよりも、

自分ごときの心情を察してくれた皇帝の慈悲に陽が昇るまで泣き続けたという。


次にネオマは、

禍学専門学校への対応を少し考えたが


「教育省でよく考えよ」


と、短く委任した。


困惑した側近だったが、

そのまま教育省の官僚たちに「考えよ」と指示をした。


教育省の官僚たちはこまった。


断片的な情報だけでは…と断りたい。

だが、依頼主が依頼主なだけに、善処すると返答した。


その後幹部のみを緊急事態として叩き起こし、眠いまなこをこすりながら苦慮した末、ゼンたちの罪を法務局を通じてこう創作した。


ー 校長をゼン教諭と教え子であるフィーナが共謀殺人をし現在逃走中。教頭が陣頭にて事態集結せよ ー


仕方ないにせよこの雑な方針が後にトラブルの火種となった。





事件翌朝、禍学専門学校では校長が100人殺されたような狼狽いぶりだった。


そして犯人はゼンと教え子というニュースは教員たちを震撼させた。


「ゼン先生に限って」


同僚の教師モイスを筆頭に、ゼンを知る教師は無実を訴えた、というよりは信じたいという気持ちで擁護した。


これに対して


「いいや、実際に俺はゼンに襲われた!奴はおそらく生徒であるフィーナとの不純行為を校長に咎められた上で凶行を犯した!」


と、当日見張り番だったベリテスが妄想を膨らませて主張し、ゼンをあまり知らない教員たちは


「それもそうか」


と、安易にベリテスの考えに同調した。


ただ、ベリテスにとって不幸だったのは、

後の調査で、大抵の見張り番の時は飲酒をしたり娯楽に興じていたことが露見し、減俸処分となる。


その結果ゼンを信じる層がかえって増してしまった。


更にフィーナを知る教師は


「虫も殺せぬあの子が殺人?」


と、国の雑な考えに笑ってしまった。


このように思わぬ形で事件の疑惑と闇を深めてしまったばかりか、


真実を求めたい!


と、学校全体が一丸となり教育局に対する抗議へと発展した。


相手が不気味な禍動士たちということもあり、

国は一から振り出しを余儀なくされ、

この件では珍しく慎重になっている皇帝陛下は大いに閉口した。


「この件を解決出来るのは…」


と側近が最後の手段として泣きついたのは、皇帝の頭脳と称された"内務局"だった。


内務局とは全ての省を統括する国の選りすぐりの官僚機関で、全世界で秀でた5人のみで構成される局である。


しかし、皇帝の寵愛を受けている若き局長ルミシスは、今にも床に着きそうな長い髪から覗かせた鋭い目で側近の頼みを丁重に断った。


内務局は先日起こった北部地方の山火事や、とある国の賄賂の事後処理に加え、予算案修正などを一手に任されていた。


(たとえ禍学専門学校であろうが、たかが一教育長が殺されただけじゃないか)


そう言いたげなルミシスに対し、側近はそっと耳打ちした。



「お耳を…」



「……実は、その少女の正体は──」



「…………!」


滅多に驚くことがないルミシスですら狼狽した。


「……たしかに、それは一大事です…が、しかしご覧の通りこのありさまで…」


と、頭を掻きながら包み隠さず局員の疲弊を伝えた。

だが、目にくまを作っているルミシスは交換条件を出した。


「それだけを担当させる臨時補充を認めてもらえないか?」


と言う。


王のネオマは少数精鋭信奉論者だが、『臨時』という条件ならばあるいは……と側近も頷いた。



ーー 内務局は王の頭脳であるため必然的に王へ直接進言することが出来る。


ネオマはどこで覚えたのか人心把握のお手本のような人物で、自分に近しい家臣の出身地やその家族の名前と誕生日、果ては結婚記念日など、すべて記憶しており、その都度なにかイベントがあれば、これを祝うことを忘れない。


それだけにネオマからすれば近しい者はなるべく最低限に抑えたいのであろう。


余談だが、その行動は若くして亡くなった先帝の父・ウッドにあった。


ウッドは家臣の進言よりも自分の直感を信じており、一時は悪政が重なり『暗君』と陰で揶揄され人心が離れたこともあった。


ネオマはその人々の機微を見ていたにちがいない。


「王たる者、政治は優秀な官僚がいればいい。家臣の意見が割れた時だけ聖断するのがちょうどいい」


と割り切っていた。この父との政治方針の違いの対照が、忠誠心を高めると確信していた。


『ウッド様の唯一の功績はネオマ様をお産みになったこと』


と、狙い通り、亡き父も"だし"に使うこの哲学で多くの信奉者を生んだ。



その王はと言うと、このルミシスの進言を


「苦しからず」


と述べた。


その時のやり取りの中で、


「臨時の人事に当てはあるのか?」


とネオマは側近に確認すると、


「ルミシス局長曰く、『シュト国に『ロータス』と言う若き警備局課長がいるので推薦したい』とのことでございます」


ネオマは小さい声で許可した。





肝心のロータスであるが、はじめこれを聞いて思ったのは


「只事ではない」


と、一度は辞退しかけた。

地方官に過ぎない彼は中央政治の裏側まではわからない。


(内務局が頭を抱えるほどの難問に自分ごときがのこのこと出て行って解決など出来ないだろう)


と思っていたが、執拗だったため、渋々出仕することになった。


ロータスは天涯孤独で、見送りは近所の子供一人だけが手を振るという寂しい門出だった。


元々ロータスは孤児でありながら奨学金を借りてシュトで一番の大学を主席で卒業した。

そしてシュト国で一番の名誉局である財務局に出仕した。


顔も整ったエリートであるが、元来変わり者のため、30歳を過ぎても碌な縁談話はなく、友人もいない。


職場では孤立気味で、とうとう『平和なシュト国では税金泥棒』と揶揄される警備局に左遷が決定した。


しかし転機がやってきたのがある連続殺人事件の解決だった。


平和な街に突如として発生した連続殺人事件は当初は魔族の仕業だろうと処理しかけたが、ロータスが待ったをかけた。


残された遺物から魔族に見せかけた犯行と突き止め、真犯人逮捕を一人で逮捕した。


その後の調べで犯人は狂人でシュト皇太子暗殺まで企んでいたことまで発覚した。

未然の逮捕という功績で最年少の課長にまで上り詰めた。


あまりのセンセーショナルな逮捕劇に新聞を内外問わず賑わせた。


これにより遠い首都セレメントにいるルミシスの耳に入ったのであろう。





『正式採用は10日後だが到着したら内々に出仕せよ』


ルミシスからの伝言に、ロータスは何頭かの馬車を乗り潰し、急いで王宮に向かった。


次の駅で馬車を待つあいだ、王宮の方角を近くの老人に訊ね、その方角に拝跪はいきし、勢いよく叫んだ。


「これよりこのロータス、皇帝陛下の安寧あんねいのため奉公つかまつります!」


街中での突然の大声に誰よりも驚いたのはこの老人だった。


よく聞き取れず王宮ではなく、娼婦しょうふ街の方角を誤って教えてしまっていたからである。


別に少しくらいの都会観光でもすればいいものの、生真面目きまじめな性格により予定よりも早く王宮に到着した。





内務局に到着したロータスが見た最初の光景は、5人の席に一つずつ山のように積み上がった書類を捌き、こちらを見ることもないが、それでも淡々とこなす内務局員たちだった。


「挨拶無用。ロータスだな?」


ロータスは「頷く」よりまず何故こんな量をたった5人で?と疑問を呈した。


「陛下のご命令だ。それに重要なのは王へどうご報告するかだが、そこまで出来るのは国中探しても我らだけだ……この間にも実は向こうの部屋にもどんどんと書類が積まれているよ」


その光景にロータスは冷たい汗を流した。


彼らの書き込む書状は速読で王に報告するに足るのか否かの判断をし、伝えるにしても不要な言葉をなるべく削り、更に多忙な王がすぐに判断できるようにするため客観的事実のみで数行にまとめ、法整備をし、更に行政化まで担っていた。


「それより」


と、長いまつ毛をあげてルミシスは本題に入った。


「こちらの願いは3つ。1つは本件の表向き解決策を学校側に提示して禍学専門学校を大人しくさせること。2つ、逃亡中のゼンという禍動士の生死問わず逮捕…」


「3つ目は?」


一瞬だけルミシスの手が止まった。


「同じく逃亡中の禍動士フィーナの即時抹殺を遂行して欲しい」 ーー


「罪状は?」


このルミシスの要望はおそらく皇帝陛下であるネオマの意向だろうから、そこは異論なかった。


ただ、ロータスがそう質問したのは皇帝陛下の鶴の一声で人をひとり殺せても、かならず罪状は必要だった。


あまつさえ学校側がゼンの冤罪を半ば訴えている手前、もしまたここで悪手を重ねれば、今度こそ禍学専門学校と戦いになりかねない。


禍動士は戦いのみ必要とされる集団のため、能力を知られることが命取りになる。


そのため能力の秘匿が原則基本となっており、国に忠誠を誓っている間は強力な将棋の駒でもあるが、もし敵になればこれほど不気味な存在もいない。


こういう事情から禍学専門学校は唯一の国営専門学校として教師の待遇は他よりも重きを置いてきたのだ。


ルミシスは変わらぬ口調で


「相談は欲しいが、貴殿に任せる」


と短く命じた。

【次回予告】


ロータスの計略とはいかに!?


次回は7月14日 (火)12時ごろ予定

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