#9 『開花』
【前回まで】
フィーナを連れて逃亡するゼンはまずフチネを目指した。
道中でフィーナに魔法のような能力である禍動についてを教えていく。
その難しさや複雑さに悩むフィーナだが、青空授業は途中で止まる。
森の中で魔獣に囲まれたゼンとフィーナ…
敵はおよそ100体 ーー
魔獣ほど厄介な動物もいないーー
この言葉は冒険者にとって当たり前の共通認識だった。
魔族と魔獣の違いは『知性』にあると言われているが、それはたぶんに言語を持つか持たないで棲み分けがされている節がある。
では、魔獣に本当の意味で知性がないのか?
と言われれば、これには疑問が残る。
なぜならば言語はなくても、
魔物には動物的な勘が備わっており、
簡単に言えば狡猾である。
殺せると思えば襲い、負けると思えば戦わない。
これが魔族との大きな違いであろう。
魔族はそう言う意味では無邪気にできていて、
自己の強さを誇示することに無上な喜びを感じ、
勝てない相手だろうが純粋に挑んでくる。
むしろ、彼らは仲間の助けを借りずに戦うことを名誉としていたため、
常に一対一、或いは一対多数を好んだ。
魔獣はその点抜かりなく勝てると本能で感じた数で仕掛けるのだった。
実際に魔族との戦闘で逃れることはあっても魔獣に囲まれれば勝つことしか危機は乗り切れない。
矛盾はするが魔物は知性がない故に、
徹底的なリアリストと言った方が正確かもしれない。
ゼンが刀を抜きフィーナの前に立つ。
その数ざっと100匹ーー
(なんだこいつら…見たことがない)
魔物の種類の数は現代も意見が様々に別れており、
2,000とも200,000とも言われている。
つまり定まっていない。
毎年のように未知の魔獣が次々と現れるため、
それゆえに対処法がわからないのも魔獣の厄介な所以でもあった。
ゼンが一閃のもと円を描くように一気に切り伏せる。
すると彼らの血なのか体液なのかわからない液体が飛ぶ。ゼンは腕で顔を覆うと先日のケイミューとの戦いで負った傷に付着した。
そして何体も切り伏せていくが戦い方を変える。
(キリがない……)
ゼンは地面に手をつき、ゼンの周りから外に向かい炎の禍力で森一面を焼き尽くす。
敵が丸焦げになり倒れたのを見届けたあとゼンはそのまま地面に倒れる。
実は先ほどから目眩が襲っていた。
「はぁはぁ…もしや…さっきの奴らの…血…?」
ゼンの推察の通り、この魔物の血は有害で傷口を通じて血管から侵入すると、死に至らしめるのだった。
しかしこのことが判明したのこの時から2年後のことで、いまはゼンも知らない。
「先生!!」
膝枕で寝かせて手を握ろうとすると既に手先は紫色になっていた。
「そんな…なんで…」
「お…そらく…だが…毒だ……」
弱々しく教えるゼン。
「じゃ『回禍』だよ!回禍して!」
泣きそうに訴えるフィーナにゼンはうつろな目で優しく微笑む。
「すまん…解毒はかなり複雑で…俺も…イメージが……出来ない…」
「そんな………」
「大丈夫だ……町までもう少しだ……そこで薬草を調合して……うぐっ……」
突如苦しみ出すゼンの手を両手で握る。
フィーナは握った手を自分の頬に当てて涙をひと粒、またひと粒とこぼして小さなうわ言を呟く。
するとゼンも見たことがない色をした禍動がフィーナを包み、その禍動がゼンの全身を覆う。
その回禍はゼンすら経験したことがない。
あたたかくて心地よかった。
その間ほんの数十秒であったが、
ゼンは深い快眠をしたように、全ての負のものが浄化されていく気持ちになった。
気づけば毒どころか先日の戦いで負った傷、疲れも全てなくなっていく。
「こ…これは……」
驚くゼンにフィーナが抱きつき涙を流す。
「先生!ううっ…良かったよ!もうダメかと…」
ゼンの関心は傷が治ったことよりもフィーナの力にあった。
「お前…どうして…?」
「わかんないよ!でも…先生が死んじゃうと思って、『先生が苦しむ全てを治したい』って、お願いしたら…なんか……出た!」
「なんか…出た…?」
「……色々雑な説明だが、治すイメージならこんなに鮮明に作れるのか!?」
(そういや…あの小屋であいつずっと俺を看病してたな…もしかして俺の回禍じゃなく、フィーナの回禍で……まさか……だが!)
ゼンは呆気に取られながら確信した。
(――俺は間違ってたのかもな…学校が定めた、一律の教育。右を向けと言われれば右を向き、誰もが同じように炎を、氷を、具現化させる訓練)
(それができない奴は『才能がない』と捨てられる….)
脳裏をよぎったのは、職員室でモイスが言った言葉だった。
(『みんなひとりひとり、違うんだからさ』――)
やはりフィーナは落ちこぼれじゃなかった。
この世界の教育システムが、
彼女の持つ「人一倍強い優しさという特性」をすくい取れなかっただけだ。
長所を、その人間の本質に合ったイメージを極限まで伸ばせば……
たとえ戦闘力が最低の禍動士でも、誰にも真似できない唯一無二の禍動士になれる! ーー
ゼンは小さく息を吐いた。教師になって2年。生徒は教えるものだけでなく、生徒からもちゃんと教わっていたのかもな、と。
「……先生?」
不安そうに覗き込んでくるフィーナの頭に、ゼンは優しく手を置いた。
「……悪かったな、フィーナ」
「え? なにが?」
「いや、お前がアホなのは変わらないが……何度でも言うよ。お前は落ちこぼれなんかじゃない。」
「へ……っ?」
「これからは、お前のやり方で教える。……ホーリーなんとか、だっけか。実戦で名前は呼ばせないが、お前がそのイメージで一番力を出せるなら、心の中でいくらでも叫べ。その代わり、死ぬ気で特訓するからな」
「……うんっ!!」
ゼンの温かい言葉に、フィーナは瞳を潤ませ、二人の間に確かな絆が結ばれた――その時だった。
『ブモオオオオオオオッッ!!!』
「「え?」」
二人が同時に振り返ると、地面に転がっていたはずのカエルのような魔獣が、深い眠りから覚ましたようにあくびをしている。
気のせいか肌はツヤツヤになっている。
呆然と立ち尽くすゼン。
「……おい、フィーナ……効果範囲は……?」
「ごめん………なにそれ…?」
「うん……まだ教えてなかったな……」
そんなやり取りの中、魔物たちはムクっと立ち上がり
(え?俺たちなんか生き返ってね?)
と言っているかのように顔を見合わせていた。
「まずいぞ…完全に俺以外も全員治ってる…」
カエルが2人を見据えた。
「やばい…い…いっ…今のうちに逃げるぞっ!!!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
―― フィーナの禍動士としての開花
ーー ゼンの教育者としての成長
前途多難な教師と生徒の旅はまだまだ続く。
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【次回予告】
ゼンたちが逃げた学校のその後、パニックになった学園の事後処理、ゼンとフィーナの捜索を、
あるひとりの秀才に国は託した。
第10話は、明日 7月13日(月)の20:00頃に投稿予定




