第七話 出発
翌朝、私達は別れを惜しみながらもココカラ村を出発した。
昨日おばさんから言われたことを皆あの後少し考えたようで、沢山の労いと謝罪と感謝の言葉をくれた。そして、初期では絶対手に入らない防具や武器、お金まで援助してもらい、見た目はすっかり中級冒険者クラスだ。
初期でこの装備はなかなか悪くないだろう。
私とルークはおじさん、おばさんをはじめ、村の人に沢山のお礼を言いながら、ココカラ村を旅立った。
次は、仲間獲得の為に僧侶のいるカイフク村。
何をするにもまずは回復、蘇生、状態異常回復!
凄腕の僧侶を仲間にすれば、痛い思いも最小限で済む。
私は足早にカイフク村への歩みを進め、ルークは黙って私の後ろを歩いていた。
そして、早足にどんどん先を行く私の背中に、ルークは控えめに声をかける。
「……良かったのか? こんなに早く出発して。もう少しくらい村に居ても……」
どう伝えて良いのか分からない、といったひどく気を遣った口調で言う。
どうやら私を心配してくれているらしい。
自分も命に換えても守りたいと思う妹を置いて村を出たくせに、こんな心配をしてくれるとは本当に良い人だ。だから、このゲームが好きだった。
まぁ命に換えても守るくだりは、私が聖剣を抜いてしまった事で無くなっているわけだけど。
でも、あの二人が、親もなく二人きりでずっと支え合って生きてきたことなんてよく分かっている。見れば分かるほど、二人の仲の良さは空気感だけで分かったからだ。
……そんな仲の良い兄妹を引き離してしまって申し訳ないけど、この世界の未来の為、私の為に頑張って欲しい。
私は心配そうなルークの声をハキハキとした口調で、辛気臭くなりそうな空気ごと打ち消した。
「いや! もう、時間との勝負だから! さっさと倒してさっさと帰りたいし。ルーク、頑張ってね!」
「えっと、勇者は光では……」
そんな戸惑い溢れた言葉はすっかりと無視をする。
ゲームでやったから知ってる、なんて言ってもゲームとはなんぞやから話さないといけないから面倒だし。
私はどんどんと歩きながら、ルークの戸惑いや言葉を無視して一方的に話し出す。
「これから仲間をどんどん増やして、さっさと魔王を倒しましょ。まずは僧侶! カイフク村に変だけど、腕は確かなのがいるから行こう!」
「うん……あれ、でもよくそんな人がいるって知ってるね」
「噂よ、噂! 噂になるほど変な人なの!」
「それって仲間にして大丈夫なの?」
「大丈夫!」
私は不安そうな声を発するルークを振り返り、グッと親指を立ててにっこりと笑った。
まだ不安そうな顔をしているが、ルークも渋々と頷いたようだ。
そもそもルークの人たらしなところに惹かれたんだし、ルークが居ればきっと僧侶だってパーティーに入ってくれるはず。
ゲームでだって、仲間になってくれたんだし。
それに、なんとなーく、ルークと僧侶の恋愛模様の匂わせもあったんだよなぁゲームで。
要はドタイプの男連れていきゃ、なんとかなるだろ大作戦だ。
そして、あの恋愛模様を間近で見られるのも楽しみだし、僧侶は色々な意味で絶対に要る。
私の足は自然と早足になっていた。
***
私達は長く時間をかけてカイフク村にようやく到着した。
ゲームだと一瞬なのに、モンスターを倒しながらだと三日はかかった。
私は疲れ切った顔で、うんざりとしながら愚痴をこぼす。
「カイフク村、やたら遠くない……?」
「そう? こんなものだと思うけど」
「そりゃ体力バグってるルークはそうだけどさぁ、10分くらいで着くと思ってたんだもん」
「いや、それこそ無理だよ」
私の発言に呆れながら言うルークに、ゲームだと10分程度だったんだと言いそうになったけど、ぐっと堪える。
こんなところでごちゃごちゃ話している場合じゃない。
とはいえ、へとへとで近くの切り株に腰を下ろして休憩させてもらう。
座った姿はさながら真っ白な灰のようだ。
私が長い溜め息を吐き、疲労を少しでも軽減させようとしているのに、ルークはもう早速村人に話しかけていた。
おい、私には休憩の時間も与えないのか。
「すみません、僧侶を探しておりまして」
「あぁ? 僧侶? ドミニク様のことか?」
村のおじさんは、この村で現在唯一の僧侶として名高い男性の名前を出した。
違う、その僧侶じゃない。
私は力無い声で、ルークに聞こえるように否定の言葉を告げた。
「ちがぁ〜う……」
私の様子をチラリと見て、ふぅとため息をつきながら、またおじさんにルークは向き合った。
「あの、腕は確かなんですけど、変わってる僧侶さんっていらっしゃいますか?」
「あぁ! なんだ、マニーの事か。マニーなら、今日なら教会にでも居るんじゃないか? でも……あぁ、あんたらなら大丈夫そうか。でも期待はしない方が良いぞ」
おじさんは、ルークの姿を上から下まで見て、うんうんと頷いた後に、雑にそう言った。
おじさんの言葉に、ルークの顔が強張る。
「……え?」
「とにかく、忠告はしたからな?」
おじさんは片手を上げ、仕事へと戻っていくようだ。
ルークは錆びついたロボットのように、ギギギっとこちらへゆっくりと顔を向ける。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
私がひらひらと手を振りながら、軽く返事をする。
ルークの顔は未だ不安そうなままだった。
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