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勇者様助けて!私じゃ魔王は倒せません!~勇者より先に聖剣を抜いてしまったので、私が勇者になりました~  作者: minori


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第六話 大人


 ルークが旅立つとなり、ハジマリ村では小さなお祭りと見送りを行い、私たちはココカラ村へと旅立った。おばさんとおじさんに事情を説明するためだ。


 きっとおじさんもおばさんも私が急に勇者と報道され、動揺しているに違いない。

 早く説明しなければ……私の足は自然と速くなっていた。

 

「おい、光。早いよ」


「急いで、ルーク! おじさんとおばさんに説明しなきゃ、きっと心配してるの」


「なんだ、それなら……」


 ルークは私の体をひょいと担いで、小走りで走り出した。


「え、ちょっと!」


「俺、畑とかで鍛えてるから。多分、こっちの方が早いと思う」


 息を切らさず、淡々と小走りで走るルーク。


 さすが勇者。最初の体力から段違いという事なのか。レベルは最初1からのスタートだったが、ポテンシャルが私のような一般人とは雲泥の差なのかもしれない。


 本当にルークの言う通り、私が走ったり荷馬車に同乗させてもらったりしてようやく着いた二日の旅路を、ルークは1日で走り切ってしまった。


 ココカラ村の入り口に着くと、激しく言い争う声にルークがぴたりと足を止める。

 平和なはずのココカラ村でこんな事が起こるなんて。言い争う声のところへ近付くと、おばさんの怒鳴り声が聞こえた。


「あんた達、バカじゃないのかい! あんな子どもに魔王を倒してもらうだなんて。どうかしているよ!」


「マーサ、気持ちはわかるが16歳はもう立派に成人を迎えている年だ。あの子は子どもじゃないし……」


「だから自分よりずっと幼い人に魔王を倒してもらいに行って、あんた達はぬくぬくと村に住み続けるってことか。冗談じゃない。未来のある子どもにこんな事背負わせるもんじゃない! あんた達みんな気が狂ってるよ!」


「マーサ、落ち着きなさい。私達には何もできないじゃないか。聖剣に選ばれたのはあの子だ。あの子にしか魔王は倒せない。それに……言いたくないが、あの子はリカでもないんだぞ。落ち着きなさい」


「リカじゃないなんて事、私がよくわかってるわ! 大人として、こんな対応はおかしいって言っているだけだ!」


 おばさんの泣き叫ぶ悲痛な声が苦しくて、私は集団をかき分けておばさんに抱き着いた。おばさんは急に現れた私に一瞬驚いた後、力強く私を抱きしめた。


「光……光、なんで聖剣になんか触ってしまったんだ……」


 そう言うと、おばさんは静かに涙を流し始める。その涙が自分の頬に落ちてきた時、私も胸がいっぱいになって涙が溢れ出てきた。そんな私たちの背中を、おじさんがそっと支える。


「光、すまない。私たちは君を娘の様に思っていたんだ。とても君のことが大事なんだよ。できれば、魔王退治にも行ってほしくない。そんな事は君に任せるような事じゃないと思うんだ。王国には兵士だって沢山いる。聖剣を求めにきた屈強な男たちだっていっぱいいる。君みたいな女の子がする事じゃないと、とても動揺してしまったんだ」


 おじさんは低く小さく震える声でおじさんとおばさんの気持ちを話してくれた。

 私はただ涙を流しながらその声を聞く。散々騒がしかった周囲の声はしんと静まり返っていた。


 私だって魔王を倒しに行きたくなんてない。

 でも、魔王を倒さなければココカラ村だっていずれ襲われる。おじさんおばさんが傷つくことなんて絶対に嫌だ。そして、私はこの国の未来をほとんど知っている。魔王を倒すまでは出来なかったけど……。


 でもきっと、ルークと聖剣が……そして仲間たちが必ず魔王を倒す。

 だから、おじさんとおばさんと私の為にも、旅立たないといけない。


 私はおばさんから体を離し、涙で溢れた目を腕でこすった。


「おばさん、心配かけてごめんね。でも、安心して。強力な助っ人を連れてきたの」


 そう言って、私はルークの居る方を指差した。人込みがさっと人波を分け、その先にルークを現した。ルークは真剣な表情で私たちを見つめている。


「彼、すごく強いの。仲間思いで優しくて、強くて、本物の勇者……みたいに。ハジマリ村からココカラ村まで1日で走ってこれちゃうの。私を担ぎながらね」


「まぁ……」


 私の話を聞いておばさんはようやく顔を上げた。

 周りもルークの実力を聞いて、小さな声で歓喜しているのを感じる。ルークは複雑そうな表情のまま、ただこちらを見ていた。


「でも、どうしても光が行かなければならないの? 誤報だったって事にしてしまえばいいさ、いつかまた聖剣を抜ける奴らに任せたって王国の人達に任せたっていいじゃないか」


 おばさんはそう言って、また強く私を抱きしめた。いつも豪快で明るいおばさんの体は小さく震えている。


 村の人の言う通り、少し娘さんと重ねている節はあるんだろう。

 おじさんから聞いたことがある、私くらいの年の女の子を昔亡くしたと。

 だから、遠慮なくうちにいてくれて構わないって。それだけしか話は聞いた事がなかったが、私のサイズの服がすぐに出てきたことや未だにひっそりと飾られている小さな女の子の写真を見た時から、そんな背景がある事は薄々気付いていた。


 おばさんに二度も”娘”を失わせる訳にはいかない。

 そして、魔王たちによって娘さんの大事なお母さんを失わせる訳にもいかない。


 私は、抱きしめられたまま力強い口調で繰り返し言った。


「私、絶対帰って来るよ」


 何度もそうおばさんに言うと、おばさんは少しずつ落ち着きを取り戻したようでしばらくして私から体を離し、ようやく私の目を見てくれた。


「決意は……固いのね」


 諦めたような口調で、ぽつりと言った。

 私はおばさんを励ますように、安心させるように明るい口調ではっきりと言う。


「うん、というか本当にルークが居れば大丈夫なの。詳しくは言えないけど、私には分かってるの」


「あはは、そんなに信用できるんだね、この子が。……ごめんね、おばさん取り乱しちゃって。光はこんなに勇気と覚悟を持っているのに……」


 おばさんはそう言うと、指で涙を拭いながら笑った。

 おじさんはずっとおばさんの肩に手を添えている。


「その覚悟を持たせてくれたのは、おばさんとおじさんだよ。私、おばさんとおじさんと暮らすのすごく幸せだった。その生活を守りたいんだ。それに、ルークが居るもん。大丈夫だよ」


 私がそう言うと、おばさんはもう一度私をぎゅっと抱きしめて、改めてルークを見る。


「光……ルークさん、光をよろしくお願いします」


「は、はい」


 おばさんとおじさんは二人揃って丁寧にルークにお辞儀をした。

 それを見て、村の人もばらばらにルークに小さく頭を下げる。

 ルークはそんな様子に少し戸惑いながらも、受け入れてくれたようでたどたどしく返事をした。

 

 おばさんは急に自らの両頬をパァンと力強く叩いた。

 そして、立ち上がり、村の人たちにいつもの調子で大声で話をし始めた。


「さぁ! こんな幼気(いたいけ)な子に魔王を倒させるってのに、あんたたちは何もしないつもりかい! ほら、道具屋も武具屋もさっさとあんた達の店の一番良いものを持って来な。せめてそれくらいしたってバチは当たらんだろ! 他の皆も旅の支えになるようなもんがあれば持ってきてやっとくれ!!」


 そう言うと、ハッとした表情ですぐに武具屋さんと道具屋さんが急いで家に戻り、村の人たちもそれぞれ考えながらも家に戻っていった。

 おばさんは改めて私とルークに向き直る。


「光、すぐ出るのかい? もう日も落ちてきているし、今日は最後にゆっくり皆で食事を取れないか? ルークさんも。1日走りこんで疲れただろうし、うちで一泊してから出発されませんか」


「あ、俺はなんでも……」


「そうする! ルーク、村まで連れてきてくれてありがとう。今日はゆっくり休もう、それにおばさんの料理とっても美味しいんだよ」


 そう言うと、ルークはお腹が減っていたのか少し嬉しそうな表情をした。

 今日は張り切って作るからね、とおばさんが腕をまくる。私はその腕を取って、手伝うよと笑った。


 ココカラ村での最後の夜。

 おばさんとおじさんの家は沢山の笑い声と話し声で溢れていた。

 ここの世界で味わう一番あたたかくて切ない夜だった。


何かあった時、子どもよりもまず大人が出るべき、と私は思っています。

子どもが子どもらしく居られるように、未来のある子が豊かになれるように大人が尽くすべきだと。

きっとそういう大人も中には居たり、自分の子を送り出すことに耐え難い悲しみを持つ親も居るはずだとそんな背景を書いてみました。


読んで頂きましてありがとうございました。

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