第五話 聖剣に選ばれた者
「ありがとう、ごはんまで食べさせてくれて……」
「もう、泣きやみなよ。こんなのが勇者だなんて、本当になんであなた聖剣に選ばれたのかしら……」
私は泣きながらアイナが作ってくれたスープとパンをいただいている。
アイナが私の背中を摩り、ルークはそんな私の様子を気の毒そうに見ていた。
「……ん? なんで私が勇者とかこれが聖剣とか分かったの?」
「だって、ほら。急報って事でこんなの出てるわよ」
そう言って、アイナは私に新聞を手渡した。
開かずともわかる。表の一面に私の写真とこんな文章が書かれていたのだから。
――勇者現る! 今度の勇者は可愛らしい謙虚な女の子
〇月✕日。ココカラ村の聖剣が永い眠りから目覚めた。聖剣に選ばれたのはなんと弱冠十六歳の女の子。彼女に聖剣を引き抜いた時の気持ちを尋ねると「自分はまだまだ未熟な身です。勇者と呼ばれるのも烏滸がましい。それまでは私は仮の身として、勇者という名に相応しい人間になれるべく邁進して参ります」そう言って、彼女は風の様に走り去っていく。今度の勇者は謙虚で心優しい女の子のようだ。この世界に平和が戻ってくる日も近い。
私は読み終わると、わなわなと震えだし、顔を上げた。
「……何これ……何これ何これ何これ!!」
「お、俺に言わないでよ」
新聞をバシバシとルークに叩きつける。
私が暴れるものだから、アイナは私からそっと新聞を奪い去り、テーブルの上に置いた。
私の怒りはとどまる事を知らない。私はアイナがそっと置いた新聞を更に手に取り、改めて新聞を睨みつける。
「……あんの記者、好き勝手に書きやがって……あいつをまずこの剣の錆にしてやる」
「勇者らしからぬ発言だな」
「あなた本当に勇者なのよね……?」
凶悪な顔でぐしゃりと新聞を握りつぶす様を見ながら、ルークは呆れ、アイナは疑問の声を上げている。
この記者のせいで変な誤解が広がっているという訳か。全く、面倒くさい事をしやがって。
本当の勇者はルークだ。私は改めて、ルークに事情を説明する。
「とにかく、誤解なの。本当の勇者はルークのはずなの。なんか手違いで私が引き抜いちゃっただけなの。さ、ルーク。これあげる。魔王倒してきて」
「そ、そんな無茶な。俺にそんな事出来るはずないよ」
「って思うでしょ? ところがどっこい、ルークは魔王を倒す勇者になるの。仲間だってできるし、一人で倒す訳じゃないのよ。安心して」
「君と他に誰か仲間がいるってこと?」
「ううん、私は行かないけど。これから仲間ができるって事、あなたに」
「うーん……よくわからないな」
ルークが私の話を聞いて首を傾げる。
あぁもう! 聖剣を引き抜いてないから展開がややこしくなっちゃったじゃない!
私はイライラしながら、聖剣を手に取り、ぐっとルークの方へ突き出した。
「あぁもう! これ、握ってくれた方が話早いから! さっさと握って! 選ばれし者なら、触ってもなんともないはずだから」
私がずいっと出した聖剣を戸惑いながら見つめるルーク。
私はため息をつき、彼の目の前に聖剣を置く。ルークはテーブルに置かれた聖剣を見つめながら、ごくりと息を飲み、そっと聖剣に手を伸ばした。
しかし、聖剣に触れた瞬間バチっとルークの手を弾き、聖剣はゴトリと重い音を立てながらテーブルから落ちた。
「大丈夫!? お兄ちゃん!」
「ちょっとビリってしただけだけど……やっぱり、俺聖剣なんて持てないし、勇者でもないみたいだよ」
……ルークが聖剣を持てない?
そんなはずがない、そんなはずがないはずだけど、今明らかに聖剣がルークを拒絶した瞬間を目にしてしまった。
つまり、ルークは聖剣を持てないという事。つまり、私が魔王を倒しに行かなければならないという事……どういう事なの。ゲームと全然違うじゃない。
私は腹を立てて、聖剣を手に取り、思い切り何度も床に叩きつけた。
アイナはその様子を見て、私に慌てて声をかける。
「ちょちょちょ、ちょっと! 聖剣をそんな扱いしちゃだめでしょ!」
「いいの! こんなポンコツ! なんで私を聖剣の主に? バカじゃないの! 間違えてんのよ、コイツ。本当はルークが勇者になるはずなの、飼い主の手嚙んでんじゃないないわよ! めっ!!!」
「ちょっと、落ち着きなさい!」
アイナはコップの水を思い切り私にかけた。
私はぽたぽたと自分の顔から落ちる水滴を感じながらも、呆然と座り込む。
そして目から涙が溢れ始めた。その私の様子を見て、ギョッとするアイナとルーク。私はもうどうにでもなれと言わんばかりに、床に大の字で寝そべり、小さな子どもの様に足と手をばたつかせながら大泣きした。
「うわぁあああああん、やだやだやだ! 魔王なんて倒しに行きたくない! ルークせめて一緒に行ってよぉぉぉもうやだよぉこんなの!」
二人はそんな私の様子を気の毒そうに見つめる。
そりゃそうだろう。勇者とはつまり、死地に向かわせるという事。
そもそもこんな幼気な少女によくもまぁ、魔王倒しに行けなんて許すな大人も! 大人は子どもを守るもんでしょうが!
もう何を泣き叫んでいるかもわからないまま、私はずっと子どもの様に泣きじゃくった。
しばらくして、アイナが深くため息をつき、ルークに話しかける。
「お兄ちゃん、可哀想だから行ってあげなよ」
私はその声を聞き、ぴくりと動きを止めた。
「え、だってお前1人になるじゃないか……」
「大丈夫よ、村の人たちも居るし。おばさんももっと頼ってって言ってくれていたでしょ。この人、可哀想よ。こんなに泣きじゃくって……」
10歳の少女に憐みの目を向けられるのは少しこたえるが、もうなんでもいい。せめてルークが来てくれないと嫌だ。もう全部嫌だ。仮に魔王を倒しに行くならルークが居るのは最低限必須ラインだ。
私は寝そべったまま、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔でルークを見つめる。
ルークはしばらく考える様子を見せると、大きくため息をついた。
「……わかったよ。光が俺に何をそんなに期待してるか分からないけど、アイナもこう言ってるし。仕方ないから一緒に行ってあげるよ」
ルークはそう言って私に手を差し出し、床から起こした。
仲間を一人ゲット。勇者ルークがパーティーに加わった。
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