第四話 仮勇者
私が聖剣を持って呆然と立ち尽くしていると、後ろから人混みをかき分けておじいさんが来た。
「な、なんと。光! 本当にお前が……」
「ち、違います! 何かの間違いです!!」
私は慌てふためき、思わず聖剣を落としてしまった。
カラン、という音が洞窟内に響く。
「そりゃそうだろ。こんな嬢ちゃんが聖剣に選ばれるかよ。どうせ、その前の男たちがほとんど引き抜けるくらいまでやってたんだろうよ」
そう言って、私のすぐ後ろに居た屈強な男が意地悪そうな笑みを浮かべながら、聖剣を拾おうとする。私はそれを見て、控えめに屈強な男に留まるように制止しようとした。
「あ、それ持っちゃ……」
「う、うああああああああああ」
聖剣に触れた瞬間、男は電撃が走ったように痺れ、倒れた。
そう……聖剣は選ばれた者以外、しかも善良でない者に触れられると尚の事、このように攻撃性を高めるのだ。まさに魔物退治に打って付けの攻撃力抜群の剣という訳。
「……これで、光が本物だと言うことが明らかになったな」
おじいさんが一部始終を見て、神妙な面持ちで呟いた。
やばい、このままでは本当に勇者に仕立て上げられ、魔王を倒してこいと言われてしまう。
しかも、本当の勇者はルークだ。私ではない。
私はおじいさんに必死に否定をした。
「いや、だから本当に違うんです。本当は私なんかじゃなくて、ルークが……」
「魔王が復活したのも、お前がこの聖剣のあるココカラ村に急に現れたのも、神の思し召し。お前が勇者だったのか、光」
「私魔王なんて絶対倒せないよ!! 見て、このか細い腕!」
「勇者光、装備を整えて魔王を倒すべく旅に出るのじゃ!」
「おーい、急に耳遠くなりましたかおじいさーん!! 私勇者でもないし、魔王も倒せないって言ってるでしょ!!」
怒鳴って言っているのに、おじいさんの耳には何も聞こえていないようで、おじいさんは明後日の方向を拳を握りながらキラキラとした目をしている。
記者だと言う人間は勝手に私の写真を撮り始めた。やめろ、と言ってもシャッターの音は鳴り続ける。これはやばい、どんどん事が大きくなりそうだ。
「光さん、聖剣に選ばれ、勇者となった今どんなお気持ちですか?」
「だぁかぁらぁ!! 私は勇者じゃないの、仮みたいなもんなの! ちゃんと本物の勇者を連れてくるから、下手な事書くんじゃないよアンタ!」
「ふむ、仮勇者様……謙虚な方が勇者様になられたようだ」
ビシィっと記者を指差すも、写真を撮り続け、私の発言を良いように解釈し、メモを取っている。だめだ、このままここにいてはいけない。
とりあえず、この場から離れる事。そして、ルークに会いに行き、聖剣を持たせる事。
今大事なのはこの二つだ。
私は走って群衆から離れ、洞窟の入り口まで戻る。
「と、とにかく……勇者は私ではなく、他に居るの! 連れてくるから、ちょっと待ってて!」
私はそう言って、走り出した。
ハジマリ村。あそこにルークが居るはず。とにかく、ルークに聖剣を渡して、魔王を倒しに行ってもらおう。私は全速力でハジマリ村へ向かって走り出した。
***
なんとか走ったり、荷馬車に相乗りさせてもらって、ようやく二日かけてハジマリ村に着いた。
村に着くまでに低級モンスターに何体かあったが、とにかく思い切り聖剣をふるって倒して、レベル2から3くらいにはなった気がする。いや、ゲームみたいに表示がある訳じゃないからわからないけど。
ハジマリ村に着くなり、村の人に駆け寄り必死の形相で尋ねる。
「すみません、ルークはどこですか!?」
年配の女性は私の尋常じゃない様子に引きながらも、答えてくれた。
「な、なんだい。あんた……ルークならこの道をまっすぐ行った一番奥の家に住んでるけど……」
「ありがとう!」
「ん? あんた、その腰の剣……それに……」
女性が言い終わる前に、私はルークの元へ走っていく。
時間がないんだ、ごめんおばさん。このままじゃ私が勇者に仕立て上げられてしまう。私が勇者になったら、この世界は破滅する! 私に魔王は倒せない!
私はこの世界でのんびりおばさんとおじさんと暮らしていきたいのだ。私がこの世界で生きていくのに目指すのは勇者としての過酷でも華やかな旅路じゃなくて、穏やかにおじさんとおばさんと庶民として暮らしていくスローライフ。
だからルーク。ちょっとゲームより早い展開だと思うけど、さっさと魔王を倒しに行ってくれ!
全速力で走った私はルークの家を見つけるなり、扉をバンっと開けた。
「ルーク居ますか!!」
「きゃっ、誰ですかあなた!」
ルークの妹だろう。急に入ってきた私に驚いて小さく悲鳴を上げる。
主要キャラ以外はドット絵だったからよくわからなかったが、ゲームの取扱説明書に描かれていたルークによく似ている。10歳くらいの少し小さな女の子だ。栗色の髪を一つの三つ編みにして、少し灰色がかったワンピースを着ている。テーブルに食事をセッティングしていたところのようだった。
しかし、そんな事は関係ない。こちらは命がかかっている、自分の。
私はルークの妹に半泣きでしがみついた。
「ごめんなさい、大事な用なんです! 急用なんです!」
「えっと、どなたでしょうか……」
「光と申します」
「いえ、知りませんし……兄の友人ですか?」
「これからなる予定です!!」
「おにいちゃーん!! 不審者がきたよー!!」
ルークの妹、アイナが叫ぶ。
アイナの叫び声を聞いて、何やら走ってくる音が聞こえると裏口らしき戸がバンっと開いた。
「アイナ、大丈夫か! くそ、こんなところにもモンスターが出るようになったか……って、誰?」
「お兄ちゃんとこれから友達になる人だって」
息を切らせて、ルークが一番殺傷率の高そうな農具ピッチフォームを担いで入ってきた。
アイナは私を汚いものでも触るかのように私の首根っこをつまんで、ルークの前に乱雑に投げる。
ドシンと尻餅をつきながらルークの目の前に座り込む。
これが勇者と私『仮勇者』の初めての出会いだった。
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