第三話 聖剣
この世界が『光の聖剣物語』の世界だと分かってから、数週間が経った。
最初は怖かったけど、おばさんにここには魔物も滅多に来ないし、来ても弱いモンスターだけだと聞いてから肩の力を抜いて過ごせている。
たしかに、ゲームをやっていた時にハジマリ村もココカラ村にも強いモンスターはいなかった。それに安心した私は、おばさんの家畜の世話や畑のお世話を手伝いながら、ゆったりとした日常を過ごしていた。
ここに魔物や魔王がいる世界だなんてことを忘れてしまうほどの、のんびりとした平和な時間。
毎日おじさんとおばさんと仕事をして、一緒にご飯を食べて、本当に幸せな日を過ごしていた。
そうなってくると、今度は小さな冒険心がむくむくと湧き上がってくる。
聖剣を見に行きたくなってきたのだ。
「ねぇ、おばさん。私、聖剣見に行ってきても良い?」
お昼ご飯を食べ終わった後、いつもはおばさんの縫い物や洗濯、家畜の世話の手伝いをしているのだが、今日はそう提案をしてみた。
「あぁ、行っといで。まぁ、本当に剣が一本刺さってるだけのところで面白味もなんもないんだけどね。最近は出店とかも出ているみたいだから、楽しいかもよ」
そう言うと、おばさんは棚からなにやらごそごそとした後、私の元へ戻ってきて硬貨を何枚か握らせた。
「え、いいよ。いらないよ」
「もらっときなさい、ちゃーんとお仕事してくれているんだ。これはそのお駄賃だよ、たまには楽しんでおいで」
おばさんはそう言うと、私にショールを羽織らせて、ドンっと背中を押した。
おばさんの強くて荒っぽい優しさが少し照れくさく感じる。私は笑顔で手を振って、いってきます! と聖剣の場所まで走っていった。
***
おばさんの言った通り、聖剣のある場所に行くと聖剣までの道筋沿いに沢山の出店が出ていた。
勇者の聖剣を模した棒に刺さった飴や揚げ物や串焼き。キーホルダー。お守り。やっぱり抜けねぇなぁ、とか偽物なんじゃねぇのかと屈強な男たちがすれ違う中で話しているのが聞こえる。
どうやら観光スポットのようになってしまっているみたいだ。
ゲームだとドット絵だからこんな様子だとは分からなかった。リアルなゲームの世界、すごい……。
私は興奮しながら、人が帰ってくる流れに逆らって、聖剣のある場所に向かった。自然と足取りは早くなっていく。
聖剣のある場所は岩場の様になっていた。
洞窟の中に聖剣はあるみたいだ。
洞窟の入り口におじいさんが椅子に座っている。受付をしているみたいだ。
「あぁ、光か」
どうやらこのおじいさんも私の事を知っているようだ。
平和なココカラ村に突如倒れてきた私は村の中で噂になっていると聞いている。村人全員が知り合いの小さな村で、私のことは見るだけで分かるのだろう。
「こんにちは」
「こんにちは。マーサは元気かい?」
「うん、おばさんも元気だよ。おじさんも元気」
「そうかそうか」
おじいさんはゆっくりとした口調で満足そうにそう呟く。
そして、私の顔を見て小さく首を傾げながら尋ねた。
「お前さん、もしかして聖剣を抜きに来たのかい?」
「うん、ちょっと見てみたくなって」
「岩に挟まってるだけだけどなぁ。行ってきなさい、もし抜けたら言うんだぞ。ふぉっふぉっふぉ」
おじいさんはそうからかう調子で笑うと、私を見送った。洞窟の中にあるようで、入り口近くにも列ができているのが見える。
「今日混んでるのかな、日を改めようかな」
「最近はずっとこうだ。魔王が現れたってニュースが出て少ししてからな。まぁ、抜けないと分かったらまた人も来なくなるだろうが……今日はマシなほうだぞ」
「そっか、じゃあ並んでみるよ」
おじいさんにそう教えられた私は、少し先に伸びている列の最後尾に並んだ。
奥から出てくる人達が、あれ挟まってるだけだよな……? と話しながら出てくる。
しかし、私だけは知っている。これが本当に聖剣であり、勇者ルークだけにしか引き抜けない事を。
列は思ったよりも短かったようで、自分の順番が回ってくるのは案外早かった。
私の前二人の男性が、それぞれ思い切り岩に挟まった聖剣を雄叫びをあげながら引き抜こうとするもびくともしない。
小さく文句を言いながら、二人は洞窟から外へ出て行った。
いよいよ、私の番だ。
「これが聖剣……」
ゲームのパッケージと一緒だ。
薄暗い洞窟の中に岩に刺さった聖剣に、上から小さな光が降り注いでいて幻想的なあのシーンと一緒。私は感動の余り動けずにいた。
ゲームであんなに振るっていたあの剣が目の前にある……。
「おい、嬢ちゃん。早くしてくれや」
「あ、ごめんなさい」
しびれを切らした後ろの男性からせっつかれ、私は聖剣を握った。
柄の部分は少し古びている感じがするが、美しい剣だ。青く見える宝石が一つ埋め込まれている。
すごい、今ゲームの聖剣を実際に握っているんだ……。
どうせ私には抜けないんだけど、と思わず笑いが出る。私は早々に手を放そうとした。試しに剣を少し上に引っ張ってみると、すっと簡単に引き抜けてしまった。
後ろから何人かの「え!?」という声が聞こえ、ざわざわと騒めき始める。
「え、ええええええ!! ぬ、抜けちゃった……」
どうしよう、簡単に聖剣が抜けてしまった。
私、勇者ルークじゃないのに……。
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