第八話 勧誘
切り株に座って少し回復できた私は、意気揚々とおじさんに教えてもらった教会へと歩いていく。
その私の後ろを、足取り重くルークがついてきていた。
まぁ、それもそうだろう。
おじさんのあんな渋い顔と回答をもらっておいて、新しい仲間だなんだと言われて不安にならないはずはない。
しかし、最後までクリアしていないから分からないけど、多分良い仲になるはずの二人なんだから、そんな顔をしなくても。あぁ、でも恋愛漫画で読んだ事がある。最初に悪い印象な程、恋愛に発展しやすいんだっけ。それなら、私はまさに理想のキューピットだろう。
「着いた! ここかぁ」
「ねぇ、本当に行くの? 僧侶様の中には、魔王を倒すという目的の為に心を砕いてくれる方もいるだろうし、わざわざ変わり者に話をしなくても。それに、時間の無駄じゃない?」
「いいえ! 絶対に彼女じゃないとダメなの」
「あぁ、女性なんだ。マニーって」
私はルークの言葉を聞かずに、教会の扉をバーンっと開けた。
マニーが祈りでも捧げているところかと思いきや、扉を開けた瞬間男性の怒声が響いてくる。
「なんだって治療をしてくれないんだ! それでも僧侶か! ドミニク様ならすぐに助けてくださるのに!」
「それならドミニク様にでも頼んだら良いだろう」
「ドミニク様がお忙し過ぎて対応出来ないからこうやってお前のところに来たんだろう! お前と違って高尚な僧侶様だからな、お仕事が多くおありになるんだ!」
「ふーん、村の人間が困ってるのに忙しくて対応できない僧侶が高尚ねぇ……とにかく、うちで治療するなら金を払いな。それが条件だ」
教会の扉を開いたら、そこは修羅場だったようだ。
どうやら、村の人のご家族かが病気になられて治療魔法を求めているのだろう。
涼しい顔をして拒否をする小娘と、顔を真っ赤にし、わなわなと身体中を震えさせながら怒りを滲ませる中年男性。
なんともまぁ、酷い光景だ。
私はマニーの人格や背景を知った上での修羅場なので、納得しながら見ているが、横にいるルークは絶望の表情をしてその光景を見ている。
そして、チラリと私を見て、お前マジかよといった顔をしていた。
マジもマジ、大マジである。
男性は諦めたようで、くるりと踵を返し、大股でどすどすと盛大に足音を立てながら教会の出口であるこちらに向かってくる。
八つ当たりなのか、避けていたのにも関わらず、私に肩をドンっとぶつけてきた。よろめいた所をパシッとルークに両肩を抑えられ、キャッチしてもらう。
本当にとんでもないジジイだな、と私が睨みつけるが、男性はそんな事に気がついていないのか、元々の人間性なのか、最後に振り返ってマニーに向かって大声で怒鳴りつける。
「……この金に意地汚い守銭奴が!!」
そう最後に怒鳴り声をあげると、男はバンっと乱暴に教会の扉を閉める。
めっちゃ怒ってたなぁ、と他人事感満載の目で扉を見つめ、マニーに視線を戻そうとすると、またルークと目があった。
ルークはまた私をお前マジかよ、といった目で見ている。
……まぁ、出会い頭にこの修羅場は確かになかなか酷いもんだと思うけども。
でも、マニーにだって理由はある。それを聞いたら、ルークだってこんな顔はしないはずだ。
私はマニーに視線を戻した。
マニーは苦々しい顔で扉を睨みつけながら、小さい声で吐き捨てるように言う。
「……ふん、意地汚いのはどっちだよ」
マニーのそんな表情と言葉に、何か訳があるのかと察したルークは再び私を見る。
私は察しの良いルークに対し、ニヤリと笑みを浮かべた後、マニーの元へ歩いていく。
「ねぇ、マニー! お願いしたい事があるん……ダッ!?」
マニーの元へ歩いていくと、さっきの男が踏み鳴らしたせいか木の床が抜け落ちた。
「イッテェ!」
私が泣き叫ぶと慌ててルークが私の身体を引き上げる。
落ちた時と引き上げた時に、木片で足に傷がついてしまった。すっと何本か縦に痛々しい長い傷が出来ており、血が流れている。痛みに悶絶しながら泣き叫んでいると、マニーがこちらに近づいてきた。
「何、騒がしいな」
さも面倒臭いといった表情で私を一瞥する慈悲の欠片すらも感じ取れないひどい対応に私は泣き叫びながら訴えた。
「わかるでしょ!? この教会のつくりのせいで怪我したの!! 痛いの!! めちゃくちゃ! なんとかしてよ!」
「ふーん……3000ルピでならやってやるよ」
「あんたらの整備不良なのに金取んの!?」
しかも、この3000ルピ。大体日本円で30000円くらいで、なかなか高額だ。たったかすり傷をこれだけ直すというのに、ぼったくりと言っても過言じゃない。
私の非難にうんざりとした様子で、大きくため息をつき、マニーが価格訂正をしてくれた。
「じゃあ2000ルピで良いよ」
「たったの1000ルピ!?」
「大体、私らの整備不良というかさっきのクソジジイのせいだしね。私だって被害者みたいなもんなんだよ、この床の修理もしないといけないし」
「たしかに……いや、でもそれで私が割を食うのもまた違くない!?」
ギャーギャーと言い争っているところに、マニーの後ろからひどく痩せた女性がにこにことしながら歩いてきた。
そして、そのまま思い切りマニーの頭をはたく。
「こら! まーた金を取ろうとして! ちゃんと治療してあげなさい!」
先ほどまで生意気な顔をしていたマニーが涙目になって、振り返り女性を見上げる。
あぁ、この女性が……。私はゲームでやってきていた好きなキャラクター達がどんどんと出てくる様子に目を輝かせながら女性を見た。
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