Chapter・・・002 隔離された庭
その庭は、今もそこにある。ただ使われていないだけ。
事件の前までは、洗濯物が干され季節ごとに、花が植え替えられ、子供の声がしていた。
それがある日を境に、止まったのだ。
最初に変わったのは音、だった。庭先で聞こえていた生活音がすっかり消えた。
噂は驚くほど早く広まった。『庭から何か発見された』誰もそれ以上は何も言わない。何がでたのか、発見されたのか、誰のものなのか、そもそも何なのか不明なのだ。
その後どうなったのか?
聞こうとすると、相手は一瞬だけ言葉を詰まらせ、何気ない感じで、笑って話題を変える。
「そんなこと、もう終わったことでしょー」
"終わった"という言葉は、トップレベルで便利な存在だ。説明・感情・全部まとめて、一束に片付けられることが可能だから。
事件の後、その家族は、引っ越しはせず在住している。
買い物し、挨拶も交わす、普通に生活している。でも、なぜか落ち着かない。
庭は整備され、土は均され、新しい花が植えられた。けれど、一部だけ色が違う。他より少し濃く湿り気を帯びている感じに見える。
誰も近づこうとしない。子供だけは正直で足を止める。理由を聞いても、応えない。
「なんか、ナンカ、やだ・・・」そう言ってその部分を指さすだけだ。
夜になると、庭は、街灯の光が当たっているにもかかわらず、暗く見える。角度によっては、沈んでいるようにも見える。
私は、何度か"事件の事覚えている?"と人に聞こうとして、止めた。
他の人たちは、わざと、口にしないのか、それは覚えているからなのだろうか?
沈黙の中に見え隠れするやさしさ、があるような気がした。
忘れることで、自分の日常を守る。
庭は今日もそこにある。花は咲き、雑草は抜かれ、何もなかったように、整った状態だ。
誰も踏み入れはしない。誰も確かめることはしない。




