Chapter・・・001 眠った近道
その草むらは、駅までの道だった。
舗装されていないだけで、特別な場所ではない。
晴れた日は、草の匂いがして、朝露で靴先が少し濡れることもあった。
それでも、多くの人々は、そこを通っていた。
変化が起きたのは、ある年の夏。
最初は偶然と思った。通勤時間に誰も草むらへ入っていかなかった。
次の日もその次の日も。気が付けば誰一人としてその草むらを、通らなくなった。
"立ち入り禁止"の看板など辺りを見回しても、ない。ロープを張られていたわけでもない。草は伸び、道だけが残っている。
私は理由を知らない。
ある日、何気なく足を踏み入れた。草は以前より高く伸び、靴につる草が、絡みつく。それだけだった。何も起きない。もし、何か起きたら、それこそ、怖い。
駅へ着いた時、後ろから声をかけられた。
「あの、草むらの道、通ったんですか?、靴に草が付いていたので、もしかして・・・」
振り返ると、同じマンションの人だった。私は頷いた。
「大丈夫でしたか?」
その聞き方が、少しおかしかった、何も危なくないし、禁止でもないのに、"大丈夫"という、語句が疑問を生んだ。
「何が、ですか?」、そう言い返すと、
相手は一瞬、言葉に詰まり、
「いいえ、何でもないです」
そオ以来私は、数人に同じ質問をされた。そして、同じように聞き返した、けど、誰も詳しく話さない。
"行かない方がいい・通らない方がいい"と言うだけだった。
理由をたずねると、決まって「昔ちょっとね・・・」、『ちょっと』っという言葉は気に留めさせる言葉に感じる。ちょっと、何?ちょっと話せない。
なんて、いろんなニュアンスを表せる。誘導接続詞みたいだ。
草むらの前で子供たちが言った。
「ここ、通っちゃダメなんだって」
「なんで?」
「大人たちが、みんな言っているんだぁー、理由なんて知らないよ」
それ以上の理由はなかった。
数週間後、草むらは、整備され、草は刈り取られ、安全できれいな遊歩道に変わった。
でも、人は通ることはなかった。自然界の鳥たちさえも、なぜか、近づかない。
私はその日からその道を使わなくなった。
怖いわけでもなく、危険でもない。理由を知るのがコワイ気がして、知らない方が楽と思ったから。




