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「村に案内して下さるのですか?」


 朝、いつもの時間に来て挨拶を終えたところで騎士様からそんな提案がされた。


「まだ行ってないだろう? 必要なものもあるだろうしな」

「え、ええ。そうですね……」


 道順すら知らない私には願ってもない誘いだが、さっきその村から来た彼にまた引き返させるのは少し申し訳ない気分になる。けど、私の監視が仕事なのだから目を離すわけにはいかないだろう。

 相手の言葉通り、今日は必要物資を買いに村へ行こうと思っていたのだ。

 生活のために必要なこともあって、私はその誘いに甘えることにした。


「では、案内お願いします」

「ああ」


 昨夜に用意した買い物リストとお財布を忘れていないかチェックし歩き出す。

 すると、こちらを振り向いた彼が手を差し出してきた。


「なんでしょう?」


 目の前にある大きな手を見つめ、首を傾げる。相手は苦笑している。何かを求められているのだろうか。


(あっ……もしかして、案内してやるからお金払えってこと?)


 意外とちゃっかりしてるなあ、もう令嬢じゃないんだからそんな足下見ないでほしいのだけど。一応お金は渡されてるけど、できるだけ節約したいのに。

 世知辛いと思いながら財布を取り出すと、相手から慌てたような声が聞こえた。


「お、おい。どうしてそこで金を出すんだ」

「え? ガイド料の徴収でしょう?」

「そんなわけあるか! どうして俺があんたから金を取らなきゃならないんだ!」

「では、何を――きゃっ!?」


 出された手の意味を聞こうとして、最後まで言葉が続かなかった。

 急に身体を持ち上げられ、彼の馬に乗せられたのだ。驚く私の後ろにすぐさま騎士様が跨がり、手綱を持ってよろめく身体を支えてくれる。


「い、いきなり何を……」

「あんたが見当違いなことをするから説明するのも億劫になったんだ。さっさと行くぞ」

「でしたら手を出せと言ってもらえれば良かったのに……」

「普通は言わなくてもわかるだろう。ガイド料という発想の方が異常だ!」


 そんな呆れたように言わなくても。だって、嫌いな女を愛馬に乗せてくれるなんて思わないじゃない。


(犯罪者は歩け! 少しは苦労を知れ! ……みたいなもんじゃないの?)


 そういえば、先日馬車から降りた時も彼はわざわざ馬から降りて付いてきてくれた。女の私が歩いていたから、合わせてくれていたのかもしれない。

 進み出し、馬の蹄の音を聞きながら景色に目を向けると普段と違う風景に思わず見入った。


「……貴方はいつもこの景色を見ていらっしゃるんですね」

「ああ」

「風も気持ちいいですね。私も乗馬を習っておけば良かった」


 馬もよく訓練されていて私が乗っていても暴れる様子はない。大人しいのをいいことに軽くたてがみを撫でても大丈夫だった。


(たてがみもさらさら。毎日ブラッシングしてもらってるのね)


 私達が会話をしていると、馬の耳がこちらを向いて聞いているのがまた可愛い。

 村まで運んでくれてるし、お礼にニンジンをプレゼントしたいな。


「あの、お名前はなんというのです?」

「クロードだ」

「クロード……男の子ですか?」

「は?」

「え?」


 驚く反応に私も目を瞬かせ相手を見る。それでもわかってないのか、私は馬の方を指した。


「あの、この子……」

「あ……」


 短い沈黙の後、お互いに合点がいき騎士様の顔が目に見えて赤くなったのが私にもわかった。口元を押さえたかと思うと、恥ずかしかったのかあからさまに目を背ける。


「うっ、馬の名前はルーシアだ。お、雄で間違いない……!」

「すみません……。ちゃんと馬のことだと言えば良かったですね、失礼しました」


 なんだかこっちまで恥ずかしい。

 でも、おかげでこの人の名前がわかったので少し嬉しかった。


(とはいえ、名前呼びは馴れ馴れしいからしない方がいいよね)


 相手も私のことは“お前”と“あんた”としか呼ばないし、ちゃんと意図を汲んで合わせないと。


 やがて森から抜けると開けた場所に出た。少し先に集落らしき家々を見つけ、思わず身を乗り出す。


「あれですか?」

「ああ。リーゼ村だ」


 入口の前まで来ると騎士様ことクロード様が降りて手を伸ばした。さすがに私も理解しているので、その手を借りて地面へと着地する。

 やっぱりパンツスタイルで良かった。スカートだと鞍や鐙に引っ掛かったりしたら大変だものね。


「ありがとうございます」

「村は小さいので店は少ない。生活用品なら雑貨屋、食品なら隣接している食材屋に行くといい。そこにあるから先に行っていろ」


 指された先には雑貨と書かれた看板が掛かっており、小さく頷く。その間に彼はルーシアを繋いでくると言って去っていった。


(私の行動見張ってなくていいのかな……? まあ、クロード様がいいならいいか)


 言われた通り雑貨屋に入ると、木彫りのアクセサリーの装飾品から日用雑貨、食器類など色んな品物がところ狭しと並べられていた。

 奥にいた店主らしき中年の男性は不思議そうに私を見て首を傾げる。


「あんた、見ない顔だな。旅人や行商……には見えないが」

「初めまして、レイラと申……いいます」


 もう貴族ではないので口調も平民風にして軽く頭を下げ、名前を名乗る。スカートだったら令嬢の癖でカーテシーが出てしまうところだった。危ない危ない。

 これからお店にはお世話になる機会も増えるだろうし、挨拶はきちんとしておかないと。


「近くに越してきたんです。それで、生活用品を揃えようかと思って」

「近く?」

「森の中にある一軒家です」

「あー、空き家だった。あそこか……」


 そんな会話をしながら壁際に置いてあるキッチン用品の元へ行く。

 大体の調理器具は家に置いてあったからいいとして。食器もあったけど、どれも高そうで普段使いには厳しいから普通の食器が欲しいのよね。

 見ると、木製のお皿やスプーンなどがあった。ログハウスの我が家と同じ色で親近感があるし、何より木製のフォークやスプーンは可愛い。


(これ一度に持って帰れるかしら……)


 他に食材も欲しいし、一気買いは帰りがしんどいから最低限に留めた方がいいかもしれない。この世界に台車なんてあるかしら?


(普通なら荷馬車よね……)


 クロード様ならルーシアに積んでくれそうだけど、彼を当てにしてしまうのも悪い気がする。犯罪者と監視役なのだから、そこら辺の線引きはしとくべきよね。


(なるべく本編のキャラに関わらず生きていきたいし……)


 クロード様は作中に名前は出ないけど、青色のマントからルミナートにある四騎士団の中の第三騎士団の副隊長だったはず。私がまだ侯爵令嬢だった頃に専属で護衛をしてくれた人だし、副長クラスなら実力もある。

 そんな人を私の目付役にしてしまうのは国の守備的にいいのだろうかと心配になるけど、それだけ私が要注意人物ということでもある。それほどレイラ・ルーリエは信用されていない。


(彼が早く国に戻れるよう、静かに暮らそう……。私が無害だと証明できれば、クロード様もこの任務から解放されるよね)

 

 長い道程に知らずため息が出る。

 すると、クロード様が戻ってきた。店内で一人しかいない私にすぐ気付き、歩み寄ってくる。


「買うものは決まったか?」

「はい。けど、選別に迷っていて……」

「選別……?」

「一気に全部買うと帰りが大変なので、どれを優先して買おうかなと」

(ルーシア)に乗せれば――」

「それはダメです」


 最後まで言わせず手で遮り、頭を横に振る。

 どうして、と言う前に私は改めてクロード様を見上げた。


「お手伝いしてもらえるのは助かります。が、そこまでしてもらう義理もありません。私も貴方に頼ろうとは思っていませんし、どうかご自分のお仕事だけなさって下さい」

「だが……」

「お気持ちだけ、有り難く頂いておきます」

「……わかった」


 強調すると渋々、といった様子で頷く相手を確認し商品に顔を戻す。

 自分で持てる分の食器を持って会計に行くと、最初の会話以降黙っていた店主さんが口を開いた。


「あそこからまた買い物に来るのはしんどいだろ。荷馬車があるから運んでやるよ」

「え、いいんですか?」

「客なんてほとんど来ないしな。嬢ちゃんの細腕で全部持てるとも思えないし、途中転んでケガするのがオチだぞ」


 ひどい言われようだけど否定できない。最初は見知らぬ私を不審がっていたようだけど、荷物を気にしなくていいならと生活用品一式をまとめ買いしたら結構値引きもしてくれて、とても気前のいい店主さんだった。


「あの、食材も一緒に乗せてもらってもいいですか?」

「ああ、構わんよ。帰るときは声を掛けてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 荷馬車もタダでいいってもらえたし、値引きもしてもらったからだいぶお金が浮いたわ。雑貨屋のおじさん優しい!

 足取り軽く店を出ると、一緒にいたクロード様の仏頂面が横目に見えた。


「……お顔が怖いですが、どうかしました?」

「別に」

「そうですか……」


 絶対別にって感じじゃない。けど、変に突っ込んでますます不機嫌になられても困るので、それ以上触れないことにした。


 日持ちするものをメインに隣接した店で食材を買い、雑貨屋の店主さんが店の外に用意してくれた荷馬車に積むとクロード様は怪訝な表情で食材と私を見比べた。


「何か?」

「料理……できるのか?」


 ああ、そうよね……。掃除に続いて令嬢が炊事できるのかって思うわよね。

 前世では一人暮らしだったし、簡単なものくらいは出来るんだけど説明できないし。


「以前に本で読みまして」

「料理の本を?」

「はい、まあ……気まぐれに」


 心底意外だと顔に出ている相手に心の中で苦笑していると、私達の会話に気付いたらしい店主さんが出てきた。


「買い物は終わったのか?」

「はい。お願いします」

「そこの兄さんも一緒か?」


 その視線につられ、私もクロード様に目を向ける。

 このまま家に戻るけど、彼もついてくるのかしら? もう遅い時間だし、私が家に戻るのを見届けてからまたこの村に帰ってくるから二度手間になるけど……。

 そんな考えを察したのか、クロード様は勿論、と頷いた。


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