限界を超えてみましょう
ムツキとケイティの生存競争が熾烈さを増す。
当初は異能が通じない事に焦りを覚えたが、相手が人外ならば、致命傷を与えるまで何度も異能をぶつけて、再起不能にしてやればいいと考えを転換し、魔女に全力で異能を行使する。
ケイティによってムツキの身体は捻れて歪み、四肢をねじ切り、身体の骨格すらバラバラにして、彼女を圧倒していた。
地面には螺旋状の傷跡が刻まれ、絶えずムツキの身体を傷つけ続けている。
『どういう理屈で身体が再生し、どういう法則で身体が分裂しているのか知らないが、動かなくなるまで粉微塵にすればいいのよ』
『狼男には銀の弾丸、吸血鬼には心臓に杭を、起き上がりは陽の光と弱点がある。じゃあ目の前の魔女には何が有効なのだろう?』
『情報がなさすぎも考えものだわ』
「貴方変な身体ね…、帝都の技術局の変態達がみたら、小躍りして喜ぶと思うわ」
「嬉しくないわ、どうせなら好きな異性に身体を見せつけてやりたいものね。違う?」
「ふん、そりゃあそうよね」
あらゆる物体を歪めて圧縮するケイティの異能に対し、ムツキは軟体動物の様な動きで回避し、彼女の側へ肉薄しようとするも、ムツキの周辺の土砂ごと異能を行使され、行動が制限される。
土砂は徐々に密度が増し、自分を圧殺せんと圧力をあげてくびり殺そうとしてくる。
とてもやりづらい相手だ。
「どう、苦しい?痛い?」
「ベルヘルミナに、帝国に楯突いた事を後悔しながら死ね、魔女!これは私達の怒りだ!」
「うーん…」
なんだか悦に浸り、饒舌に語っている。どうもむこうさんは、完全に勝ちを確信している節がある。相手の鼻っ柱をはたきたい衝動に駆られるが、ここは大人の余裕をみせないと…。
『面倒臭い相手だわ、ああいう奴は苦手だ』
近距離も遠距離からもこちらに対応でき、応用力のある異能に、反則だと駄々をこねる。
だが土まみれになりながらも、ケイティ攻略の糸口を模索するムツキは、色々と浮かんだ方法を試す事にしてみた。
まずは数で圧倒する策。
土砂の塊から抜け出したムツキは、自分の分身体を大量に生成し、ケイティに向けて波状攻撃を仕掛けてみたが、この策は不発だ。
丁寧に分身体を刈り取られ、一人一人異能の力をぶつけて対処してきた。
一対多数の相手をやり慣れた熟練した動きだ。
「へー凄い凄い、一人軍隊だ」
「ちっ、次ね」
奇策は通じない。
なら正面から挑むまで、自分の腕を触手の様にくねらせ、その触手をさらに細分化し、ケイティの周りを何重にも包囲するが、その囲いを涼しい顔で突破してくる。
暗闇に紛れ、自分の気配を絶った奇襲もいなされ、ムツキの策を実力で破ってくる。
ケイティは理詰めで戦うタイプではない、本能的に戦いを愉しむタイプだ。こうまで上手く事が運ばないと、彼女に賛辞でも送りたくなる。
「さぁ魔女、次はなんだ?次はどうする?」
「あーやだやだ、こんなの徒労だ」
ムツキの策は不発続き、対するケイティの異能も傷痕をムツキへ与え続けているが、有効打が与えきれない悶々とした時間が過ぎてゆく。
個人的にはまだまだ彼女と闘争の時間を堪能したいが、全体を考えれば撤退するべきだろう。
相手側の戦力が息を吹き返し、混乱状態から復帰した兵士達によってこちら側の被害が増している。少数での攻勢は速度が命だ。
その攻勢が頓挫した今、我々は退くしかない。
悔しいけど仕方ない。
常勝の軍団など存在しないが、最期にこの戦争の勝利者になればいいのだ。
『……オットー君、撤退準備!』
『宜しいのですか、ムツキさん?』
『侮ったつもりはないが、今回はここまで。負傷者達と一緒に後退して!私は都市内部に突入したコモレビ達を拾ってから、合流するわ』
『わかりました!』
念話で会話するオットーとムツキ。
後詰めで待機していた部隊が退がるのを確認してから、ムツキはケイティへ捨て台詞を吐く。
「帝国の将、貴方の名前は?」
「ベルヘルミナ帝国第3軍、軍団長ケイティ・ベルだ。魔女、あんた名前はなんていうの?」
「私はムツキよケイティ、また会いましょう」
ムツキの実像がぼやけ、霞の様に立ち消えるのを、黙って観察するケイティ。
この先何度も戦うであろう好敵手に、今更ながら手が震えている。自分の理解が及ばない相手は、どうしようもないか…。
部隊の損害具合を確認すべく、ケイティは踵を返して、その場を後にした。




