暴力を撒き散らしましょう
自分の目の前には、一見すると平凡な主婦の様な外見のバネッサが佇み、戦斧を握る彼女は堂々とした武人の姿だ。
コモレビ達が敷いた陣の内側へ乱入すると、後続の為に開口部を死守せんと暴れ回る。
「さてさて」
「あんたらは魔女の私兵なんだろ?どれぐらいやるのか、私にみせてみなよ」
「お優しいな、僕にチャンスをくれるなんて。よほど腕に自信があるのかい?」
「御託はいい、きな坊や」
「吠え面かくなよ、国軍の姐さん」
戦斧を一回転させると斜めに構え、バネッサはこちらの動きを見守る構えだ。片手を突き出して、こちらを手招きして挑発している。
粗野な言動だが、律儀な人だ。
わざわざ愛馬から下馬し、こちらと同じ土俵で戦う姿勢を示してくれている。
突飛な行動ばかりする身勝手な相棒とは違い、なかなか好感がもてる。
敵に好感を抱くのも妙な話だが、僕はこのバネッサという兵士に親近感を感じている。
自分の技がどこまで通用するか…。
相手は重量級の武器でいずれも必殺の威力だ。
ならばこちらは手数の多さと速さで勝負だ。
踏み込んだ勢いで上段から振りかぶるも、バネッサはひらりと躱し、横薙ぎの連携も読まれてかわされてしまう。
勢いがなくなった瞬間を狙っているのだろうと、相手を見ていると、彼女の戦斧が危険な唸り声を上げながらこちらへ迫っていた。
「っし!」
あんな巨大な斧を、生き物の様に扱う彼女は、国軍の絶対的なエースの一人だ。
異能を使っている素振りもなく、腕力だけであれを扱っている。愛刀に当たったら柄以外が砕け散って、無惨な姿になりそうだ…。
交差法気味に、バネッサへ突きを繰り出すも片腕で軌道を変えられ、髪を僅かに切っただけだ。
「やるじゃないか、顔も腕っ節もまずは及第点だよ。まだやれるだろう?」
「喉を狙ったんだけどな、片腕で防がれちゃ僕のプライドが傷つくな」
「アッハハ、いい啖呵じゃない。決めた、あんたの首は私が落とすわ。他の奴にはやらない」
「あいにくと売約済みでね」
「契約を反故にすると、相棒が怒るのさ」
「妬けるね、ほんと…」
陽気に笑っていたバネッサの顔から人懐っこい表情が消え、猛然とコモレビへ迫る。
腰の手斧を投げ、その手斧に反応した直後の超反応だ。唐竹割りの要領で、自分の脳天へ戦斧が迫るも、兜を犠牲にその凶刃をなんとか躱す。
兜は原型がわからないほど粉々だ。
お返しとばかりに、コモレビも長剣のコンビネーションをバネッサへ浴びせるも、最低限の動きで回避され、場数の違いをみせられた。
時折鋭い反撃もあり、肝を冷やす。
「あんたが、どの位の歳から戦場にいたか知らないが、私らはもう10年近く戦場を彷徨い歩いているのさ。何度叩き切っても、何度斬り伏せても、モヤシみたいに生えてくる叛乱分子供相手にね。だからかな…、一騎討ちが趣味なのさ私」
「趣味、ですか」
「あぁそうさ、三度の飯よりもだ」
「それはあまり自慢できる趣味じゃないなバネッサ、ただ貴方の憤りはわかる気がする…。貴方も継承戦で人生が狂ったのですか?」
「さぁね、忘れたよ昔の事は…」
「そうですか」
それっきり唐突に会話が止まる。
武器を振るう音、鎧が擦れ合う音、お互いの息遣いだけが響き、鮮血が辺りを濡らす。
混戦は収まる気配をみせず、激しさを増す。
遠くで上がるシズネの火焔がただ虚しく響く。
………
シズネは現在進行系で燃える都市の城門を注視する。噴煙の晴れたそこに、卵の殻の様な不自然な土砂が堆積していたからだ。
コモレビさん達が都市に突入した時は、あんな物は存在していなかったはずだ。
「何、あれ…」
「念の為油を撒いて、隈なく燃さないと」
辺りの土砂を抉って積み上げた様な、歪なオブジェクトに更に攻撃しようとすると、その卵の殻が砕け、シズネとその周辺のなり損ないを巻き込んで攻撃してきた。
「…くぅ、なんだっ!!」
あまりに一方的な暴力だ。
身体が宙に浮き、数メートルも後方へ吹き飛ばされ、シズネを庇ったなり損ない達が捻れた団子状の肉塊となって転がっている。
卵の殻の中からは小柄な女性が顔を出し、土壁の様に積み上げた土砂の背後から、続々と都市の防衛隊の兵士が這い出てくる。
「敵の異能持ちは私の獲物だっ!」
「お前達は周りの奴等の掃討よ、いけっ!」
「「おおおおっっーー!!」」
揃いの紅い甲冑を着込んだ騎兵の群れに、シズネの部隊が飲み込まれていく。
まるで濁流に浮かぶ小舟の様に、みるみるその数が削られていく。
紅い兵隊蟻を統率し、その群れの主が悠然とシズネへ近づく。後頭部を強打した影響で、直ぐに立ち上がる事ができない。
もぞもぞと藻搔いていると、肩に刺すような痛みを覚える、その痛みは徐々に左腕へ広がる。
「あぐぅ…」
「可愛いお嬢ちゃん、レオ皇太子の居場所を教えたら一思いに殺してあげる。庇い立てしたり嘘をついたら、その度に痛みが増すわ」
「お嬢ちゃんはどっちがいいかしら?」
「それは困るな、彼女は私の大切な戦友なの。悪い子は私が直々に躾けてあげる」
「…先生、ごめんなさい…」
「謝らないでシズネ、後は任せて」
暗がりからはムツキが散歩でもするように現れ、シズネを折檻するケイティを睨む。
対するケイティも、ムツキに警戒心を抱き、全力で異能の力を行使する。
だが、彼女の身体はぬいぐるみのワタの様に軽やかで手ごたえを感じなかった。
「そうか、あんたがヤハウェの魔女か」
「えぇ、以後お見知り置きを」
怒りの瞳でケイティを睨むムツキ。
自身の能力に全く怯まない相手にやや動揺の色をみせるケイティ。
人外同士の直接対決が始まる。




