互いの武を競いましょう
シズネの爆炎を合図に夜襲を開始するムツキ達。
火焔の光は真昼の様に辺りを煌々と照し出し、照明弾の役割を果たしていた。
こちらが500弱なのに対し、あちらは1000人以上はいるだろうか。彼我の戦力差は歴然で、攻め手が防衛側よりも少なければ、その作戦は実を結ばない。失敗を前提にした作戦など下の下だ。
指揮官は略式法廷で縛り首だろう。
…だが、彼女達は普通ではない。
人であって人でない怪人達が集い、その首魁たるムツキが手塩にかけた兵隊達だ。
多少の数的不利は関係ない。
むしろ望むところだと、戦場を跋扈する。
なり損ないに守られながら、コロトコルという辺鄙な都市へ近づくシズネは、身体中の熱を指先へと集中し、全神経がひりつくような感覚すら楽しみだしている。
脳を酷使している影響か、身体が悲鳴をあげているのかもしれないが、少女は御構い無しだ。
『先生に褒めてもらう為』
『先生に必要とされたい為』
『先生の願いは、私の願いで…』
『邪魔する奴が悪い、全部消し炭にしてやる』
「焚火の種火供が、派手に逝っちゃえ!」
彼女の能力である人体発火が、人為的に一部分へと一極集中し、逃げ場を失った大量の熱が前方へと噴出し、少女の前方に轟音が轟く。
何度も実践で試射し、その一連の動きは洗練され、少し時間をおけばまた発射できる。
人間移動砲台と化していた。
都市を防衛する為に、城壁や防塁に籠る王弟派の兵士達は瞬間的に身体を蒸し焼きにされ、燻製肉の様な状態でローストされる。
声もあげれず、炭化した黒い身体と染みを残し、兵士だった者達が音を立てて崩れる。
左右に散っていたタイチョーにゼン、ジェフとコモレビがタイミングを見計らって、崩れた城門から都市内部へと侵入するが、目立った抵抗らしい抵抗がまるでない。
住民や兵隊達もいない、閑散としたゴーストタウンと化していて、どの家も家財道具一式に、城壁にいた兵士達は逃げる為の時間稼ぎにされたのかと疑う。だが、…そうじゃない。
都市内部には明確な敵意、いや害意か。
自分達以外は認めない。
自分達こそが官軍、他は賊軍で唾棄すべき。
強烈な個性を感じる。あくまでも勘だが…。
コモレビが手汗を強引に拭い、ジェフと背中合わせになり、タイチョーに小声で指示を出す。
「…コモレビの旦那、どうも様子がおかしい。俺達は眠れる獅子の尻尾を踏んじまったかもしれねぇ。一度離脱しますか?」
「手合わせせずに降参したら相手に失礼だろう。やれるとこまで粘ってみたい。逃げ支度はそれからでも構わないだろう」
「長生きしませんぜ、旦那…」
「覚えておくよ」
「タイチョーはゼンの側に、最悪の事態になったら抱えてでもこの街から離脱だ!」
「うぅっ!」
「僕を戦力に数えないで下さい、ね?」
「相変わらず締まらないな、ゼンは」
「そこは彼らしいと思う…」
がらがらがら…。
何か金属質な物を引き摺る音が響く。
コモレビ達は陽気な会話を切り上げ、ハンドシグナルで全周囲防御に切り替え、部下達にも臨戦態勢を整えさせる。
鞘から剣を取り出し、槍を中段に構えて、盾持ちの者が前列を担当する。
がらがらがらがら…、がら…。
やがて音が止んだかと思うと、静寂が場を支配する。相手が何を狙っているのか?
こちらが何をすべきか?
色々と考えていると、機先を相手がとった。
「ベル隊各員、突撃っ!!」
国軍の騎兵隊が突然と湧き、コモレビ達のいる区画へと雪崩れ込んでくる。
「…っ!、槍衾用意、敵を入れるな!」
反応が遅れたコモレビは、部下達に指示を送るも、咄嗟の事に反応が遅れた。
その刹那の時間、前列にいる者へ手槍や手斧が投擲され、槍衾の一角が崩れ、敵騎兵隊の前衛集団がこちらの内側へ入り込まんと、馬に鞭を入れて急加速をかける。
あまりにも無茶な突撃だ。
普通なら成功しない、普通ならば…。
前衛の更に先頭を走り、一騎駆けする騎士が自分の身の丈以上の戦斧を構え、勢いそのままに振り下ろすと、前列のコモレビ隊が吹き飛んだ。
臓物が辺りに散らばり、身体の肉片が降り注ぐ。
その戦斧の重量が規格外なのを物語っている。
謎の金属音の正体はこいつだ。
崩れた点を塞ごうと、コモレビ隊とベル隊がはやくも乱戦状態となり、コモレビは自分の愛刀をゆっくりと握りなおす。
対する相手は、戦斧についた血を払うと辺りを睥睨し、狙いをコモレビへと定める。
「先ずは名乗らせてもらうわ」
「ベルヘルミナ第3軍麾下、ベル隊バネッサ。貴方がこの集団の指揮官で相違ない?」
「ベルヘルミナ解放軍、コモレビだ」
圧倒的な有利な状況下で、騎士道精神に則り名乗り合いをする敵将。
余裕の表れなのかはわからないが、相手はただの凡将ではないのだろう。
腰に下げた手斧を無造作に投げると、狙撃を試みた部下の一人の脳天に直撃した。
「野暮はなし、あんたと命のやり取りがしたい。純粋に、単純に、正々堂々とね」
「まったく、熱烈だね」
命のやり取りなんてもう何度目だろう?
死線を彷徨う者に、安息はあるのだろうか?




