首の品定めをしましょう
「ねーバネッサ」
「私達、皇太子の軍勢を追ってたわよね?」
「そうね、追っていたはずよケイティ」
「じゃあどうして見失ったの?」
「さぁ…、隠れんぼが得意なんじゃない?」
「軍勢を細分化して、散り散りに逃げられて、挙句主力の痕跡さえ消えた。はっきりいってお手上げ状態よ、鮮やかなお手並みだわ」
「追いかけていた連中は、軒並み圧殺してやったけど、肝心の皇太子がいないんじゃ、自慢にもならないじゃない!嫌な奴だわ」
帝国国軍第3軍を統べる将軍のケイティ・ベルは、悔しさを全身で爆発させ、自身の異能の力を樹木に行使した影響で、茶色毛玉がより固まった様な不思議なオブジェクトが散乱している、奇妙な光景が広がる。
小柄な女性が駄々をこねる様子はなんとも愛くるしいのだが、彼女の部下達でさえも近づく事を躊躇するほど荒れている。
ただ、彼女の親衛隊兼直下の部隊であるベル隊だけは、和気藹々としている。
「荒れたって始まらないだろケイティ」
「だってさ、悔しくない?」
「最後に勝てばいいじゃないか」
「釈然としないな…」
「自分の仲間を見捨てて、自分だけ雲隠れして、私達を翻弄しているつもりでいるそのやり口。捕まえたら必ず潰す!」
「自分を中心に世界を回している気になっている。それは独善的過ぎるわ、自分の立場をまるでわかっていないわ、ただの落伍者風情がっ!」
「まぁまぁ、怒ると余計に体力使うよ。ほら、不味くてパサパサの乾パンでも食べて」
「いただくわ、バネッサ…」
ぶすっとした表情のまま、乾パンを口に押し込むケイティ、それを慈愛に満ちた表情で見守るバネッサ。腹も膨れれば、癇癪も収まるだろう。
あとは勝手に本軍を離れ、独断専行した申し開きをどう行うかだが、どう頑張ってもお咎めなしはありえないだろう…。始末書か、あるいは反省文か、数日の営倉入りとかだったら最悪だ。
うんうん唸る副長のバネッサを尻目に、ケイティは討ち取った敵の首を検分する部下達に声をかける。呑気なものだ。
「有名どころの首はあった?」
「これは見覚えありますか?ベル将軍」
「ん〜あんまりパッとしないわね。農村出身の志願兵っていったところかしら、皇太子の話に騙されたのね可哀想に…」
「将軍、ではこちらの首は?」
「顔に古傷や切り傷が集中しているから、傭兵かその類でしょ。自分の命を、金銭のやり取りだけで賭けるのは関心しないな」
「熟練というだけで、あんまり価値はないわ」
「…そうですか」
兵士達の戦場での娯楽の1つに、敵兵の首の実況検分がある。有名な騎士や兵士を討ち取れば、その場で褒賞が手渡しされるが、あくまでも現場指揮官の裁量だ。
これは他人の空似、これは一般人。
これは新兵、これは非戦闘などなど、直感に頼った下知を下す事もしばしばだ。
つまり褒め過ぎも、褒めなさ過ぎも御法度なのだが、兵士達のやる気を削がない努力が必要だ。
多くの首を持ち帰れば手放しに賞賛し、背中に傷を受けた者には、卑怯者と罵りながらによく染みる塗り薬を施す。
第3軍の実況検分が続く。




