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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
下剋上の狼煙
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歓迎会をしましょう

数週間もの長丁場での待機の命令に、帝国国軍の兵士達はすっかり弛緩した空気が漂う。

歩哨達も腰を屈め、スエズス河へ釣りをしたり、川遊びに興じるなど、どこかピクニック気分だ。

国境防衛の任や、賊の討伐に比べれば遥かに楽な仕事だと、高を括っている。

季節外れの長期休暇の様な認識なのだろう。


そこを偵察から戻った伝令が、人馬共に息も絶え絶えで帰還してくる。

だが、それでも兵士達の活力は萎えたままだ。


「…急報!急報っ!」


「なんだ?故郷の恋人に振られでもしたか?そいつは残念だ、酒でも飲めよ!」


「駆けつけ一杯で呑んでいけ〜」

「ほらほら、馬にも振る舞ってやれ!」


どこまでも戯けた態度の酔っ払い共に、業を煮やす伝令。雑な対応に憤慨しつつも、己の職務を遂行しようとするも、この第4軍の気風はどうにも馴染めない。荒くれ者だったり、懲罰部隊がたむろする吹き溜まり。行き場のない奴等の受け皿と化している。

私は軽蔑すらしている。

呑んだくれの給料泥棒共だ。

だが、第4軍の元締めたるギブソン将軍にそんな風土を改善するつもりはさらさらなく、真面目に不真面目な姿勢を貫いている。


第1軍は規律重視で高潔。

第2軍は堅物集団で。

第3軍は悠々自適で。

第4軍はこのありさまだ…。


人事局に告発しても、改善はない。

これは体質なのだろう。

現場の誰々指揮官に取り次げやら、管轄外だどこそこの奴担当やら、長々とたらい回しにあう。

ようやく話を聞く奴が現れたかと思うと、生欠伸をしこたまかます下士官だ。つんと酒の匂いが香る。


「……」

「あんた眉毛がへの字だな、面白いな」


「そんなんじゃない!」

「数日間対岸にて動きのなかった叛乱軍の一部が動きだした!規模は大したことないが、侮れる数ではない!将軍達に報告を、早く!」


「まぁまぁ慌てなさんな、用件はわかった!あんたは後方で寛いでいてくれ!」

「おいギブソン将軍に報告、駆け足っ!」


「あいよ」


「おらお前ら休暇は終わりだ、敵さんが来る歓迎準備だ!血だるまにしてやれ!」


「へいへい、おっかねぇな」

「仕事中毒者に戻りますか、仕方ねー」

「酒瓶持参でいいか?」

「うへー、疲れるな」

「臨時ボーナスはあるのか?なー?」


酒呑みの続きでもするように、手早く戦闘準備に取り掛かる第4軍。外敵と戦い続けてきた性質上、彼らにとって戦いは日常だ。

朝の散歩の様な気軽さで、あっという間に臨戦態勢へを整え、バリスタや野砲を準備し、陣形を組んでいく。惚れ惚れする素早さだ。

そこにいる兵隊の誰もが、歴戦の兵士の顔へと様変わりし、伝令を驚かせている。

すっかり場にのまれてしまった。


「…あ、あぁ御言葉に甘えさせてもらう」

「おう、任せな!」


伝令が駆け込んで数刻、叛乱軍が大橋へと雪崩れ込み、前方部隊と激しい消耗戦となっている。

叛乱軍共を槍衾で串刺しにし、バリスタで直接照準して鎧ごと撃ち砕くも、敵は死体を乗り越えて、前へ前へと病的に迫ってくる。

ユメミ草を濫用し、神経を昂らせているのだろうか?だとしたらまともではない…。

四肢欠損しようが、頭が潰れようが、どこまでも迫ってくる。恐怖はないのだろうか?


それに数はこちらが上回っているが、あちらの戦意が異様に高いのが気になる。

兵士の扱いに長けた有能な将かもしれない。


「あちらさん随分気合い入っているな、驕るなよ!こちらも必勝の構えで臨む!」

「弓兵、撃ち方始め!」


「「おうっ!!」」

バラバラと撃ち出された弓矢は、生者を求め、血を求めて叛乱軍へと降り注ぐ、勿論流れ矢が国軍にも少なくない数が当たるが、彼らは弓矢を射る事をやめない。ただがむしゃらに、ただがむしゃらに、余計な思考には蓋をする。




前線の混迷具合が増していく。

開戦してまだ時間も経っていないのに、防御陣地帯の内側に一部の敵が入り込み、敵を誘導する様な動きを盛んにみせ、狭い陣地を奪い奪われ、掲げる旗がひっきりなしに入れ替わる。

赤獅子の国軍の旗と叛乱軍の黒い軍旗が乱立し、陣取り合戦の様な泥仕合になっている。


敵の気概は賞賛するが、彼等は決死隊だ。

囮であるはずなのに、彼等の瞳に諦めはない。

どいつもこいつも反骨精神に満ちている。

こういう手合いは総じて手強い。

現在は第2軍と第4軍共同で、侵入してきた敵の掃討任務中なのだが、時折戦場から聴こえる爆炎はなんなのだろうか?敵の新兵器か異能か?


なんにしても面倒だ。


「…戦況は?」


「敵が防御陣地帯各所に侵入し、後続を誘引しております!現在こちらも対応中ですが、なかなかしぶといです。残飯漁りする黒いあれみたいです」


「へー、笑えない冗談だ。敵の異能も数人混じっているんだろう?橋の攻勢は助攻だ、敵はスエズス河を渡河する時間稼ぎが狙いだ。だが、手加減してやるつもりもない。奴等の増援には限りがある」

「前後の流れを堰き止めてやれ」


「はっ!」


「いやぁ堅実な戦法ですなギブソン将軍、私達の出番があればよいのですが、いやはや…」


「アノニム技師かい?あんたらのお人形さん方はまだ待機でいい。しかしだ、あれは役立つかい?」


「今回は実用試験も兼ねておりますので、当面は長い目で見てもらえれば幸いですがね」


白衣を羽織った長身の技師が、ギブソン将軍へゆっくり近づく。王弟肝いりの帝国技術局の技師だが、ありゃあなんて言うバケモンか…。

連中の奇妙奇天烈振りは、今に始まった事ではないが、今回は冗談が総動員したような代物を、技師付きで寄越してきた。頼んだつもりもないが。

ありゃあ金持ちの道楽などではなさそうだ。


苦しげに呻く巨人の異形を睨みながら、ギブソン将軍は不快気に鼻を鳴らす。


「…だといいがな」

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