明日に向かって進みましょう
ヌールベイ大橋に解放軍の決死隊が集結する。
その目的は、スエズス河を同志が渡河するまでの時間を稼ぐ事。また可能なら大橋を突破する事にあるが、どこまで進出できるかは未知数だ。
それでもムツキは意気揚々とした様子だ。
なり損ない達を整列させ、演台で饒舌に語り始めている。戦闘前にしては異様な光景だ。
「お前達の目の前には何が見える?」
「お前達の瞳には何がいる?」
「未練や妄執、憤りや恨み妬み、この世の理不尽に対する様々な感情が渦巻いているだろう」
「人にも戻れず、怪人にもなれず、お前達はこの世で死にぞこなった。だが私達は悪鬼の群れよ、大橋には地獄の獄卒達が手ぐすね引いて待っている!しかしだ、私達こそが強者だという事を教育してやれ、突撃用意!」
「再び死にぞこなってみせろ!」
「「ウゥオオォォウゥオオォッッ!!」」
盛んに鬨の声を上げ、槍を盾に打ち付けて、規則正しいリズムを刻んでいる。
その戦意の高さはどこか病的だ。
矢避けの大楯を斜めに構え、それを隙間なく前へ突き出し、次の列の者達が空いたスペースへ盾を構え、また背後の列が続き魚の鱗のような形となる。騎兵は的になるので全員下馬している。
ムツキはなり損ない達と共に最前列へ陣取り、コモレビとシズネがその後ろへ。
ジェフとタイチョー、ゼンは中列の辺りだ。
数は増強されたとはいえ、こちらの兵数は数千人規模に対し、王弟麾下の国軍は先陣だけで数万規模の兵数だ。
「…先生、この人数で大丈夫でしょうか?」
「シズネ?出来る出来ないは水掛け論よ、私達はただただ先に進むだけ。ベルヘルミナをぶっ壊すんでしょ?貴方の力期待しているわ」
「…任せて下さい先生!私が先生に受けた恩は、まだまだ返済できてません!立ち塞がる有象無象は、全部私が焼却処分してやります!」
「シズネ、肩に力が入ってるわ?」
「わっ!脇腹はずるいですよ、先生!」
「うりうり、可愛いぞ〜シズネ!」
なんだか微笑ましい光景が目の前で広がる中、後ろではガチガチに緊張したゼンを、タイチョーとジェフが甲斐甲斐しく世話している。
ゼンにとっては初陣でもあり、何度も装備を確認し、甲冑の金具留めを点検し、故郷から持ち出していつも首から下げている御守りを握りしめて、深呼吸を繰り返している。
「ふー、ふー…ふー」
「なんだか危なっかしいなゼン」
「君の能力は回数に制限がある。ここぞという場面以外は使用するな?いいな?」
「…は、はいジェフさん!」
「あとな、矢が飛んできたからといって盾の中から飛び出したらダメだ。この中の方が遥かに安全だ、外は敵のキルゾーンだからな?」
「はいっ!」
「乱戦になったら俺とタイチョーの側にいろ。ケツ持ちぐらいはしてやる!」
「うぅ、うぅぅ!」
ゼンの肩を荒く叩くタイチョーとジェフ、なんだかんだであの3人は結束力が高い。
兄弟の末っ子を溺愛する兄達みたいな構図だ。
ジェフは愛剣を軽く触り、タイチョーはお気に入りの仮面を被り直す。
弓矢の風切り音がしたかと思うと、一拍おいて矢の雨が降り注ぐ。大楯があまりの矢の数にキシキシと嫌な音を上げ続けている。
なり損ない達を先頭にゆっくりと前進を続け、じりじりと大橋方面へと歩み寄る。
「さぁ、やるかムツキ!」
「言われなくてもよ、コモレビ!」
盾の上方を開け、こちらからも弓矢を射かけながら前進を続け、敵が目視できる距離になると、盾の隙間からシズネが身を乗り出し、自身の持ち得る最大火力を前面に射出する。
反動で仰け反らない様に、なり損ない達数人でシズネの身体を物理的に固定する。
「燃えろ、帝国の屑共が!」
爆炎の奔流が帝国国軍を襲い、悶え苦しむ兵士達で前線は壊乱状態だ。
灰になった兵士はまだマシだ、直撃を免れてもその余波で大火傷を負い半死半生の兵士達は、生きながら地獄の業火に苦しんでいる。
大橋の入り口に隙間が空いた瞬間に、解放軍が雪崩れ込み、そうはさせじと帝国国軍も穴を塞ごうと死力をつくしている。
宴はまだまだ始まったばかりだ。




