御前会議をしましょう
帝都ベルへ。
叛乱軍蜂起の報告がひっきりなしに届き、レオ一派と結託した貴族達と、中立を叫ぶ者達、王弟支持を声高に表明する者達にまず分裂し、虚偽を含んだ情報で錯綜した。
帝都内部でも情勢が不安定となり、帝政打破を叫ぶ市民団体と治安機関が流血沙汰になるなど、まさに混乱の極みといったところだ。
その為に、所属のはっきりしない者には国軍を差し向け武力でもって恫喝し、それでも折れない者達には実力を行使し、帝都圏及び近郊の秩序を強引に回復していく。
やり方が完全に超法規的な措置だが、レオ一派の方が権謀術や外交戦術が上手である以上、こちらも手段を選んでる場合ではない。
味方と信じていた者から、背後から一太刀浴びる事態はなんとしても避けたい現状。
地固めに数週間を要した。
情勢が落ち着き、叛乱軍の情報が蓄積された頃合いを見計らい、ターナー将軍主導で御前会議の場が設けられ、各軍団のトップが一堂に会する。
だが御前会議だというのに、帝国のトップたる皇帝ダニエルは出席せず、名代だけ差し向けて離宮へと引き篭もっていた。
国の大事になんたる体たらくだと憤るも、怒るだけ体力の無駄だと悟り、静かに語り出す。
「ではこれより叛乱軍撃滅の軍議を始める」「各々方よろしいか?初動がなによりも重要だ、こちらが仕損じればあちらは増長する。逆に出鼻を挫く事に成功すれば、あちらの攻勢は頓挫する。奴等に次の矢は放てまい」
「ターナー将軍、私の第3軍に討滅せよと命じて下さい!逆賊レオの首にリボンを添えてお届けします!私達ならやれます!」
「はっはっは、猪突猛進振りが頼もしいなベル将軍。貴公はもっと女らしくあるべきだよ。ただな我々は敵を侮りはしない、全軍で対処する」
「左様で、ございますか…」
「ベル将軍麾下の第3軍の突破力は重要だ。こんな緒戦の緒戦で損耗するべきでない、主戦力は温存し、然るのちに存分に力を発揮してもらう!」
「はっ、閣下!ご期待には必ず応えます!」
「あまり気負うな、自然体で構わない…」
明らかに気落ちするベル将軍を、微笑ましく見守るホフマン元帥。それを横目で盗み見るギブソン将軍は、依怙贔屓だと心の中で愚痴る。
ホフマン元帥は武官に大陸地図を広げさせ、さらに帝都周辺の詳細な地図を用意させ、綿密な防衛計画を立てている。
「…叛乱軍供が取るべき侵入路は二つある。一つはこのスエズス河を横断するヌールベイ大橋を渡り、我々の防衛圏へと殴り込みをかける茨道。もう一つが自然の要害たるアルル山を越えて迂回する獣道、大部隊の行軍すらままならい。本命は前者だろうが、用心すべきだ」
「我々がヌールベイ大橋を死守すれば、敵は自壊するのではないでしょうか?」
「ギブソン将軍、憶測でものを言うな!大橋が仮に抜かれた場合、我々も窮地に陥る。帝都圏の出口が閉ざされ、器に水が溜まるように我々が溺死する。叛乱軍主力はここにくる、そして助攻が迂回路からくると想定すべきだな…」
「迂回路には精鋭を伏せておきましょう。大橋には防御陣地の設営を急がせろ、ここからは時間との戦いだ!敵に遅れをとるな!」
「「おうっっ!!」」
おおまかな行動計画が組まれ、後は国軍全体が動き出すだけとなった時、冷や水をかける様な呟きを漏らす者がいた。
「…手緩いですねホフマン。貴方の戦略は受け身過ぎるわ、敵に先手を譲るなんていつから軟弱な考えに陥ったのかしら?」
「む?…エレノア卿か」
ダニエル王弟の名代として御前会議に出張り、置物の様に沈黙していたエレノア・ハミルトンなる人物が、突然意見を述べてきた。
彼女の肩書きは、名目上は帝国技術局特別顧問となっているが、彼女の言い方が鼻につく。
所詮は文官の戯言だと、言い募る士官達を無視し、ホフマン元帥の表情のみを観察する。
「ホフマン、敵が威力偵察とかふざけた事しているのよ?こちらも同じ事をやる気概はみせてほしい訳よ。軍団の損耗率を気にするなら、私達の手駒を使うから構わないでしょ?」
「…陛下のご意向なら構わない」
「ふふ、ありがとうホフマン坊や。」
言いたい事だけ言って踵を返すエレノア。
彼女の冷たい瞳が戦場をみつめる。




