進軍しましょう
「えー、おほん」
「本日もお日柄もよく、晴れやかな天候で…」
「「…………」」
ジョバンニ卿の居城に隣接する、広大な演習場の演台で、一丁前に咳払いしたものの何をどうすればいいか頭から抜け落ちたコモレビ。
事前にムツキやシズネが、熱心に演技指導や情熱的な演説の指導を受けたが、人前で話す機会などこれまでの人生で皆無だったコモレビ。
【うわぁ…あれは…】
【掴みが肝心なのに、コモレビさん…】
【あの沈黙俺は無理だな、絶対無理だ!】
【頑張って!頑張って!】
【うぅっ!】
背後から皆の心の声が聞こえた気がした。
緊張からか、必死に一夜漬けした草案を忘れ、頭からアドリブで話そうとするも、義勇兵達の沢山の視線に晒され、挫けそうになっている。
だが第1印象が大事だ、ここで舐められたらそのまま信頼関係は築けないと、奮起して草案を思い出す。一つずつ言葉を選ぶ様に、丁寧に。
「先ずははじめまして、僕はコモレビ」
「…ここに集まってくれた皆は同志であり戦友だ。そこに明確な上下関係を線引きをするつもりはないし、皆だって嫌だろう。しかし、僕達はある一つの事に団結し、今行動を起こそうとしている。僕達の帝国を再建する事だ!」
「やり方はどーするんで?」
「王弟の走狗たる国軍を一掃し、不貞の輩の巣窟たる帝都を制圧するのは荒療治だろう?」
「無血開城は無理だ、血の制裁を!」
「そうだ!そうだ!」
思い思いの事を言い募る義勇兵達を手で制し、コモレビは更に自分の考えを呟き続ける。
彼らはまるで過去の自分そのものだ、目先の復讐に囚われ、毎日毎日その事だけも目的にして執念が暴走している。暗い顔つきだ。
「…故郷を焼け出された者、大事な家族や友人を国軍に徴発されて還らぬ人、食糧を無理矢理供出させて村ごと生き地獄を受けた者、高すぎる税を払えず家族が離散した者など理由は様々だろう。ここに集まった皆はそんな帝国の理不尽に復讐してやりたい者が大多数だろう。だが、帝都の全員が悪ではない。王弟とその側近連中こそが諸悪の根源なのだから、そこをどうか履き違えないでほしい。やられたらやり返す、それは間違いではないが、無用な争いの火種ともなる!」
「僕達の目標はあくまで帝国の現体制の打破、及び皇太子レオ殿下の皇帝即位と、帝都と首都圏の解放だ!断じて侵略戦争ではない!」
「いいね?僕等は国軍とは違う!力無き民に変わり正義を為す、高潔な軍団だ!」
「「おぉぉーーーっっ!!」」
ムツキは一時はどうなる事かとやきもきし、最悪途中で演説を引き継いで自分の意見を述べようかと思案したが、余計なお節介だったようだ。
【純粋な想いや願いが、人の芯に迫る…】
【…コモレビ、君自身気づいていないけど、君は人を惹きつける才が突出している。場を高揚させ、人の心に火を灯す、狂騒の才がね】
【君が望めば、王弟にだって成り代われる才能があると思うのに、まぁそれは追い追いね】
【今やるべき事は…】
今や演習場はかつてない戦意に満ち溢れ、盛んに鬨の声を上げては、隣の者達と肩を組みあい、円陣を組む者達も出る始末だ。
これなら一芝居打つ必要もないだろう。
「シズネ予定変更、臨機応変でいくわ」
「はい先生!」
「ジェフとゼンは、なり損ない達をここに誘導して整列させて。なるべく急いで!」
「…は、はいムツキさん!」
「よしきた!」
コモレビと入れ替わる様に演台へ上るムツキ、すれ違い様に労いの言葉をかけ、優しい手つきで肩を叩き、憎まれ口を叩く。
「お疲れ様コモレビ、後は私が引き継ぐわ!せっかく用意した台本が、君のせいで御破算よ。けど、及第点だと思うわさっきの演説!」
「ありがとう、僕も必死だったからね!」
ジェフとゼンがなり損ない達を完全武装で整列させ、高らかに軍旗を掲げている。
それに倣って、他の義勇兵達も居住まいを正し、装備を確認してから整列している。
機は満ち、行動するなら今だろう。
幸い皇太子様は足並みを揃えてくれれば、義勇兵一派はある程度なら自由に動いていいとの下知を受けている。食えない人だ。
「これより帝都ベルへに向け、威力偵察を行います!本軍とは協調路線ですが、独断専行は慎しむように!では、前進始めっ!」
黒い軍旗の軍団が歩き出す。
蟻の巣から這い出た行列のように。




