策を練りましょう
『義勇兵一派を率いてほしい』
ジョバンニ卿の使者が何でもない様に簡単に言ってくれるが、実行に移すの難しい。
だいたいどこの馬の骨だかわからない若僧の言葉に、皆はついてきてくれるだろうか?
不平不満が日々凝り固まり、帝都を目指す途中で空中分解の様にバラバラになったら、それこそ笑い話にすらならない。
切り株の上に胡座をかき、愛剣を磨きながら短く溜息を漏らしている。
【もしもーし、コモレビ!】
【聞こえる?】
【…あぁばっちりね、側にいるみたいだよ】
【それはなによりだわ】
後ろではムツキが微笑んでおり、随分とお行儀がいいなと怪しんでいると、ムツキからコモレビへ念話の様な通信が頭に響く。
芸達者な事だ。
周囲には誰もいなそうなのに、内緒話をする。
【コモレビ、そんなの簡単よ。義勇兵の皆をなり損ないや怪人にしてしまえばいいのよ。そうしたら私達の住みよい世界、理想郷に近づくわ】
【よしてくれムツキ、皆の尊厳を無視して力だけを与えても、皆が変わった後の世界にいなきゃ意味がない。僕達だけじゃ帝国再建は難しいよ】
【欲がないなぁ、言っとくけど無欲が美徳とか語り出したらコモレビの事嫌いになるから。あーあ本当に、せっかく段取りが整ったのに…】
【……どういう意味だい?】
「もう、人生は楽しまなきゃ損って事よ!」
「いひゃいいひゃい」
背後からコモレビの頰を力の限りつねるムツキ。
不機嫌かと思いきや、彼女は笑顔だ。
表情も随分と柔らかくなり、最初に出逢った頃よりも人間味が増した気がする。
こんな事言ったら怒られるかもしれないが…。
「シズネーちょっときて!」
「はい先生!何ですか?」
なり損ない達との教練をしているシズネが、仔犬の様に尻尾を振る勢いで駆け寄る。
ムツキに頼られる、それだけで彼女の心は高揚し、何とも言えない幸福感に満たされていた。
「実はかくかくしかじかで、シズネに一芝居してもらいたいんだけど頼めるかな?」
「お安い御用です先生!先生の為なら、私は不可能な事でもやり遂げてみせます!」
「それで、…かくかくしかじかの後は?」
「そりゃあ勿論、私とコモレビが名演説で、義勇兵達の心を鷲掴みよ!…多分ね?」
…………
『ヤハウェの魔女が義勇兵全体の指揮をとる』
そんな噂が駆け巡ったのがつい先日。
いるかいないかわからない存在を、旅の巡礼者や吟遊詩人達が歌にしたって話だが、義勇兵達も半信半疑だった。
顔合わせ当日も、誰が出てくるかなんて皆目見当がつかないような有様だった。
「ヤハウェの魔女様が貴族のぼんぼんだったらどうする?石でも投げるか?」
「さぁてな、詳しい話は知らん!」
「だがユメミ草の苗床を潰して、ヤハウェを機能不全にしたのは魔女だろ?それにだ、隣国のゴートレニアでは、王弟の手先供を亜人と共闘して討ち取っていたって話だぞ。魔女が貴族なら、そんな面倒な真似できるか?」
帝国の手配書には、償金額が桁違いに高い者達が数名存在している。
手配書の顔は人々が嫌悪するような醜さで、その下の文言は事実とは違う事が書き連ねてある。
帝国の治安機関が血眼になっている証拠だ。
『逆賊皇太子レオ・ベルヘルミナ』
先代皇帝の血縁者を名乗り、継承戦争を生き残った全帝国民の敵。みだりに我が帝国内の治安を乱し、尊きダニエル王弟陛下に敵対した罪。及び国家転覆罪。及び国家叛逆罪。ローグの手先となりし者、生死問わず。金貨一万枚。
『ヤハウェの魔女ムツキとその一派』
豊かな貿易都市ヤハウェで騒乱を起こし、民衆を不安と混乱に陥れた罪。及び貿易品掠奪、都市内での焼き討ちなどの人道に反する罪。及び国家叛逆罪。魔女に付き従い、徒党を組む者も同罪である。生死問わず。金貨五千万。
『百人斬りのダンク』
継承戦争で逆賊皇太子側に加担せし者。
戦争後も民衆や兵士を快楽目的で惨殺し、どこまでも自分本意な考えで行動する。赦しがたい罪。
金貨四千枚。
等々、罪状だけみたらとんでもない輩になるが、こんな手配書を信じる者はいない。
事実はこれと真逆である。
王弟の手先たる治安機関も真っ黒であり、率先して人狩りを行い、ごますりに必死なのだ。
どんな奴なのか?
義勇兵達の思いが一つになる。




