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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
下剋上の狼煙
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主義主張をぶつけましょう

ジョバンニ卿の居城の大広間で、暖炉の前を囲む様に、レオ皇太子と各貴族達が意見交換の場を設けて、軍議が連日連夜繰り広げられている。

書類の山が辺りに並べられ、各方面への密書や檄文の作成、内偵書類、渡り役達への手紙やその報告書、勢力地図の作成や敵味方の区別など、文官や武官が廊下を駆け回っている。


まるで戦争前夜だ。


「カルナック卿は我が方に恭順の意をみせました。早晩彼の居城と、周辺の関所の門を開け放つと密書が届きました」


「彼の忠誠心は揺るがないものだな」

「レイブン卿は動向はどうだ?」


「あの者は先の継承戦争の時も、日和見主義だった。動乱の大勢が決するまでは静観姿勢だろう。彼の兵に気を配りつつ、刺激しないように領地の横を通り過ぎるが吉かと」


「薮蛇なんてつまらないからね」

「帝都方面は?」


「難航しています。王弟派が脇を固めていて、買収工作も不発に。防衛力強化にも本腰を入れていて、帝都方面への街道は全て封鎖し、拠点の修繕に整備、国軍が順次配備されています」

「また我々の動きを監視する為に、国境線沿いの各軍団に、外敵への備えを厳とせよとの触れがだされています。牽制行為かと」


「…ふー。玉座の椅子に固執しているのか、血塗れの王冠がそうさせるのか、これがダニエル王弟の手腕だろうな。帝都への渡りは危険だ、軍団の侵入経路の策定と再編を急がせてくれ」


「「はっ!最善を尽くします!」」



「…ジョバンニ卿?少しいいかい?」

「はい陛下!何用でしょうか?」


「奥方と御子息の件まだ希望を捨てないでほしい、王弟側の虚言の可能性もある。彼は不安や恐怖心を植え付ける事に長けた技巧派なんだ、その手口には私も随分とてこずらされたものだ」

「…だからまだ諦めないでくれ!」


「ありがとうございます陛下!そのお心遣いだけで、私の気持ちも楽になります!」


「そうか…」


曇りない目でみつめる彼の表情は眩しい。

心中はけして穏やかではないはすだ、彼と同じ境遇ならば私はあそこまで高潔だろうか?


レオ皇太子は廊下を歩きながら、行き交う部下達を観察しながら物想いにふけている。




………



「貴様らは我々貴族の矢避けの盾にすぎんのだ!我々の血と、貴様らの血とでは価値が違う!」


「そもそも民衆の人気とりの為だけの貴様らが、我々に意見する事が間違いなのだ!」


「ほー、下賎な身分の者共はいくらでも死ねと?いかにも貴族様らしいお考えで、大層立派な血なんでしょうね。私にはあんたとあの種馬王弟の血は似たように感じますがね?」


「あんたらのお高い衣装や食事、趣味嗜好に使うお金はどこから沸いたんで?全て私達の血税あってだろう!我々を舐めるな!」


「はん、犬畜生の分際が!」

「へっ、飼い主は自分で選ぶさ!それにてめぇに首輪をつけた方が面白そうだな!」


「…なんだと、貴様!」


「あんたの下げた刀がお飾りじゃないなら、俺と一騎打ちの決闘でもするかい?好きなんだろ、名誉とか誇りをかけるのが?」


「後悔しても知らんぞ小童がっ!」

「小童にやられるあんたは何者だろうね?」


義勇兵のリーダーと皇太子派の貴族筆頭格が、一触触発の危うい空気を孕んでいる。

皇太子派の貴族達と、ムツキ達を中心とした義勇兵一派。行動方針や目的の違いからたびたび衝突を繰り返していた。

貴族達の悲願は、元所領の安堵と復権。帝都中央圏へ返り咲く事で、木っ端役人で終わる事をよしとしない、執念がある。

だが、それはあくまで個人的な話だ。


反対に義勇兵一派は、民衆の暮らしに影を落としている高すぎる税金の引き下げと、連座制と呼ばれる重い刑罰の撤廃と無用な法律の是正。

法整備の改案を第一としている為、皇太子派が再び王弟達の様な蛮行を繰り返すなら、剣を振るい続ける覚悟がある。

個人ではなく全体を意識した考えだ。


そこへ騒ぎを聞きつけたジョバンニ卿が、その場を大音声で一喝する。


「これから王弟を打倒するというのに、身内内で潰し合うなど愚の骨頂である!互いに主義主張があるのは当然だ!ならば、互いを尊重し敬う姿勢こそが重要だと何故わからない!」


「武器を納めよ!この場は議論する場だ、暴力で相手を屈服させる考えこそ愚かだ!」

「恥を知れ、痴れ者共がっ!」



「…ぬっ、致し方あるまいな」

「…ハイハイ、スイマセンネ以後自制シマス」


「両者を一晩独房へ入れろ衛兵!」

「はっ!拝命しました!」


肝を冷やした義勇兵の一派と、皇太子派の貴族達。下手に剣を抜き放っていたら、冗談が冗談でなくなる。面子というのは時に命より重い。

名誉だとか誇りの為に、命を賭ける度し難い生き物なのが貴族という職業病だ。


ムツキは落胆顔で事の顛末を見守り、コモレビは額の汗を拭っている。


「ムツキ、その表情は変だろ?仮にも彼らは味方なんだ、誰もいい気分はしないよ」


「うんうん悲しいね、同族同士で蔑み罵倒し、あらん限りの悪態をつく。なんて悲しいのかしら、私もう観てられなかった」


言動と表情が一致しないムツキを他所に、シズネとゼンも心中穏やかではなく、ジェフに至っては逃支度の途中だった。


「人が集まり過ぎるのも困りものですね…」

「僕は、面倒事はやだな」


「…ジェフは、なんというかぶれないな」


「…や、やだな旦那!命を守る行動ですよ!」



そんな時、ジョバンニ卿からの使いがコモレビへと歩み寄り、爆弾発言をかましてくる。


「…義勇兵の一派を指揮してほしい?僕が?」


予期せぬ事態が続く。

天候の読めない春の嵐のようだ…。

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