役者の演目を眺めましょう
レオ・ベルヘルミナの帰還。
その一報は瞬く間に帝国全土へと駆け巡り、辺境貴族達の元へと到着するや否や、元皇太子派の旧臣達がこぞって参集し、その軍事力はもはやただの義賊共と一蹴する事が出来ないレベルだ。
日に日に兵士達の数は鼠算的に増え、帝国国軍からも離反者が相次いでいる。
これに慌てた王弟側国軍は、本腰を入れて皇太子側との決戦に臨むべく、ローグ連合国との仮初の休戦協定を締結し、戦時捕虜の返還。係争地からのお互いの軍の撤兵、及び空白地帯の設置。
両国に存在する互いの財産の保証など、帝国側がかなり譲歩した形だ。
しかしあくまで政治的な話で、根本的な解決にはなっていない。平和条約でも、軍縮条約でもないただの休戦協定。
しかも戦いの図式は変化せず、王弟擁するベルヘルミナ帝国国軍と、レオ皇太子の後ろ盾となっているローグ連合国。
直接的な闘争から、間接的な代理戦争へと姿を変えただけにすぎない。
今迄姿を見せず、執拗な王弟の魔の手から逃れ続けてきていた王弟にとっては宿敵。
だが国民感情的には、ダニエル王弟こそが帝国に巣食う病巣そのものであり、先代皇帝の血縁たるレオこそが正統であると考えている。
その皇太子本人は近衛に身辺を守られながら、整列した兵士達に手を振りながら愛想をふりまいている。
演台に身を乗り出し、拳を突き上げて情熱的に訴えるレオ皇太子に、兵士達は期待に満ちた表情だ。
「皆、苦労をかけてすまない。だが、雌伏の時は今日までだ!私達の帝国を、私達の愛した帝国を取り戻すぞ!王弟の首は私がとる!」
「思えば私の半生は苦難との闘いだった。信頼する仲間に先立たれ、罪人の様な逃避行生活…。しかしだ、しかし諸君らが再び私を奮起させた!現状を打破せんとする君達と共に、私も闘う!」
「レオ皇太子殿下!」
「我々が不甲斐ないばかりに、不自由をおかけして恥じいるばかりです!」
「貴方様の御身の為に、どこまでも!」
「ありがとう皆、君達の想いが私をどこまでも強くしてくれる!まずは帝都攻略の前哨戦として、この辺りの地盤を固めていく必要がある。誰かこの辺に人脈があって、渡り役になってくれる者はいないか?」
「でしたら私が!」
「いえ、私に御指名を皇太子殿下!」
「この辺りは元々が殿下支持の土地柄です、もっと欲をかくのも悪くないかと考えますが…」
「そうか、より積極的にか」
「一一一一一」
舞台俳優が舞台の上で演技する様な、聴いてるこっちがこっぱずかしくなる台詞をスラスラ紡ぐ皇太子に、面白くないムツキ。
彼の人気は疑いようもなく、私達は演劇の演目をただ眺めているだけの様な疎外感。つまりは暇。
この時間をどうにかしたいムツキは、隣にいるコモレビへと雑談を振り、時間潰しをする。
「うーん…」
「なんだかなー、清廉潔白な私に皆付き従え!みたいな副音声が聞こえるのは気のせいかしら?あれが演技じゃなくて素なら、大した役者よ」
「…レオ皇太子は立派な人格者だよ。誰にでも平等で、産まれや性別で区別しないから人気者なんだよ。だから偶像崇拝みたいになるのは、ある意味自然だと思うけどな」
「なんかさ胡散臭いのよね彼、まぁ私の僻みややっかみも勿論あるけどね。その点、泥臭いコモレビ君の方が私は好みだけどね!」
「…そりゃあどうも」
「ふふ、照れてる照れてる」
金髪の髪をなびかせ、ニヒルな笑顔で人心を掌握する策士にみえるレオ皇太子に毒づく。
コモレビはムツキの話を聞きながら、周りの兵士達を見渡していると、粘つく視線を感じる。
敵ではない、もっと身近な…。
自分の背後にいる、…シズネだ。
少女の見た目こそ笑顔だが、その表情はひきつき口の端が微妙に上下している。
彼女はムツキの事になると途端に視野が狭まり、物事の捉え方や判断が極端になる。
つまりはヤキモチという嫉妬だ。
「コモレビさん?先生は何て?」
【私の前で先生と、よくもまぁ…いちゃこらと。けどいけないわ、我慢よシズネ。短気は損気、これは神が与えた私への試練。甘んじて受けなければ…】
【あんなに楽しそうな先生…】
【いいなぁ、いいなぁ、いいなぁ…】
「まだ具体的な事は何もだね。シズネもムツキと相談した方がいいよ、うん」
そんなシズネの心の声を察知したコモレビは、対応を誤れば危険と判断し、その場からそそくさと退散し、ゼンやジェフ達のいる場所へと退避する。
その様子をジェフとゼンは茶飲話の種にし、遠くの方から生暖かい視線を送る。
「ゼン、君の苦労がわかった気がする。今迄よく無事に過ごしていたな。俺は無理そうだ」
「僕は成り行き任せで、こういう時は逃げに徹するか、タイチョーの側にいって遊んでました!」
「…今は危険な空気かい?」
「そうですね、物凄く。シズネちゃん本人は否定しますが、執念深いんです。この前も彼女が晩御飯を残していると勘違いして、代わりに食べたらどうも最後に食べようとしていたみたいで…」
「…なり損ない達のいる場所までいって、嵐が過ぎ去るのを待ちましょうジェフさん」
「あぁ、そうしよう」
戦略的撤退をはかる二人に、相変わらず鳥の止まり木と化しているなり損ない達。
いつもの日常が始まるようで始まらない。
そんな日。




