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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
下剋上の狼煙
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憎しみを増長させましょう

帝国の役人の館から、今日もまた火の手が上がる。民衆の蜂起でも叛乱でもなく、最近噂の義賊共だ。ヤハウェの魔女の私兵とも、継承戦を戦い抜いた皇太子派の残党ともいわれている。


彼らには容赦がなく、一回きりの降伏勧告に応じない場合、敵対する全てを破壊する。

無論命乞いする者や、武器を捨てた者はその対象外にはなるが、彼らの活動は勢いづくばかりだ。


奪った食糧や金は全て民草達へと還元し、彼らそのものも霞の様に姿をくらます。

追撃隊を組織しようにも、彼らに触発された不平分子共が勝手に義賊を名乗り、第2、第3の暁の水平線団となっている愉しくない状況だ。

遊撃戦や襲撃戦をローテーションしている。


【朝露団】

【ベルヘルミナ解放戦線】

【反王弟血盟団】

【帝国愛國団】


などなど、あげればきりがない。

ヤハウェの魔女達に続けと、燻っていた国内の叛乱勢力が一斉に産声を上げ、外様大名扱いの辺境貴族達の元へ参集している。

業を煮やし即時殲滅を唱える王弟ダニエルだが、ローグ連合と対峙している国軍にとって、第3・第4軍は動けない今、帝都近郊に出張る第1・第2軍のみで対応せざる得ない状況となる。

そして王弟は火に油を注ぐ行動をとってしまう。

辺境貴族達の人質を独断で処刑し、風の便りで事の真相を聞いた貴族達が奮起し、一斉に叛乱へと舵を切る。それは山火事にも似た現象だ。


「もはや一刻の猶予もなし!」

「人の皮を被りし獣を処断せよ!」

「巨悪は帝都にあり、参集せよ愛国者よ!」


次々に白地に赤獅子のベルヘルミナの軍旗を破り捨て、何者にも染まらないという黒字の軍旗を掲げ、帝都近郊へと進軍を開始する。

図らずもローグ連合との共同での二正面作戦が展開され、辺境貴族達は合同で正統ベルヘルミナを宣言し、その周辺の領主や県令を巻き込み伝搬していくこととなる。もはや止める術はわからない。


第2次継承戦争の幕が切って下された。




ムツキは激変する情勢にホクホク顔だ。

帝国という巨大な怪物の胴体が二分して、お互いが共喰いを始めようとしている。

それに比べて険しい顔のままのコモレビ。


「…ムツキ、君の狙いはこれだったのかい?」


「なんの事かな?私はきっかけを与えただけよ。焚火の種火を灯しただけ、勝手に燃え広がったのは予想外だったけどね」


「説得力に欠ける言い草だな…」


「あはは…」

「時代が血を求めて、闘争を望んでいるのよ?もっともっとと駄々を捏ね、大地に血の川が流れて大きな血溜まりになるの。そこから私達が溢れ落ちるのよコモレビ、私達はそういう存在なの」


彼女の顔が一瞬だけ色を失った様に真っ暗なものになったが、コモレビは彼女の瞳を見つめ返す。

彼女が人なのか化物なのか時々わからなくなる。自分に復讐の力を貸してくれるパートナーだが、手綱がきかない暴れ馬の様に振る舞う癖もある。


「ぞっとするな、確かに人々の歴史に争いはつきものだけど、僕達には意思があり、自制する心があると思いたいな…。そんな時代がきたら、際限なく争い合って最期には誰もいなくなってしまう。それは哀しい結末だよムツキ」


「そうかしら?」


「あぁ…」

戦乱が戦乱を、更なる悲劇と苦痛を、怨嗟の声が満ち溢れ、帝国という地獄の釜が開きかけている。彼女の笑顔が晴れやかなのが皮肉だ。

現実は非情で理不尽だ。誰かが笑う一方で、誰かが悲しみに暮れている。


彼女が思い描く未来が到来するかもしれないが、自分がそんな事はさせない。

憎しみの連鎖を断ち切り、誰かを赦す心も必要だ。その手段がわからないが…。





「縦列横隊から散開!続けて射撃体勢用意!」


「三斉射の後に、目標に向かって槍隊前へ!中心に厚みを持たせ、目標に隙をだすな!」


シズネやゼンがなり損ないの教練に熱を上げ、なり損ない達が普段の緩慢な動作とは真逆の、機敏な動作をみせる。一方のジェフはなり損ないとの意思疎通が難航し、にっちもさっちもいかず途方に暮れる。


「槍はこう突き出すんだよ!その振りだと、返す勢いで槍がすっぽ抜ける!こうだ、わかるか?」


「…ゔぅ?」


「だっー、違う違う!それだと逆だ、逆手握りになってるんだ。得物をこうで、握り手を持ち直して柔らかく、こうだ!やってみてくれ」


「うっ?」

「……、わかった一回休憩しよう休憩」



ジェフが高らかに休憩と叫び、不貞寝を敢行しようとするも、命令のないなり損ない達はその場で待機状態となり、ジェフの指示待ち族と化していた。

だが、そんな様子をどこか懐かしく思うジェフ。


「なんだかなぁ…」

「昔はこんな風によく軍事教練の真似事をしたっけか?先輩が後輩へ、戦場のいろはを教えて、新入りをどやし、生き残ったら酒や飯を食い散らかす。全ては生きたいという想いからきた善意、か」


「あんたはどう思います仮面の旦那?」


ジェフが寝そべっている横では、タイチョーと呼ばれるなり損ないが静かに佇み、ジェフの教練を観察し、動向を見守っていた。

このタイチョーだけは他のなり損ない達と違い、自由に動き回り、自分の考えで行動する節がある。


なんとなく愛嬌がでて、仮面の旦那と呼ぶジェフだが、彼は自分の言葉を発せない。

その代わりに身振り手振りで伝えてくる。


木の棒を拾い、自分の身体をチクチク刺してくる。


【あぁ、サボるなって事かい?】

【律儀な人だな、まったく仮面の旦那は】


「悪かったよ旦那、また再開するさ」



ジェフなりの軍事教練が再開されると、タイチョーは木の棒を捨て、また静かに佇む。

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