面談しましょう
吹き抜けの階段を昇って長い廊下を歩き、連絡通路をいくつも渡り、山城の奥へ奥へと案内されるムツキ達。なかなか堅牢そうな造りだ。
岩壁を削り出した様な無骨で無機質な印象だが、周囲の空堀は深く、その下には乱杭が無数に並び立っている。落ちたら痛そうだ…。
乱杭には黒ずんだ血の跡が点々としている。
出入り口は正面の正門と裏門が存在し、一見攻めやすそうな裏門には、正門以上に尖塔や高台が密集しており、力攻めしたら相当な血を流す事になりそうだ。地形的にも攻め辛く守りやすい、名も無き名城といったところだろう。
寡兵で大軍を受け止めることができそうな感じがひしひしとする。兵士達の練度も相当だろう。
先導してくれている兵士も並ではない。
先程から殺気を当てても躱され、なんでもないかの如く歩いていて、肝が太くていらっしゃる。
剛胆な方だわ是非戦ってみたくなるが、私達の立場が怪しくなり、またお尋ね者の烙印を押されるのも腹立たしいし、我慢しよう…。
だけど想像はしてしまう。
【もし私が背後から抜刀したのなら、彼に手傷を与えることが出来るかもしれないが、そうすると私以外の誰かが犠牲になる。彼も必死に抵抗するだろうが、目の前にいる兵士の他にも多数の蠢く様な気配や視線を感じる】
【博打打ちにしては味気ないし、結果のみえたギャンブルほど興醒めするものはない。わざわざ楽しみをふいにするなんて、それこそ享楽主義の私にとってナンセンスでありえない】
【だから我慢、我慢】
【でも…、どうしても好奇心が勝ったら、その時はその時だ。欲望に忠実に、素直に】
ムツキから時折漏れるこもった笑いに、隣を歩くジェフや先導役の兵士は、戦々恐々としている。彼女は狂人の類か、その親戚だ。
波風を立てない様にしなければ、何をされるかわかったものではない。更に歩く事数十分、目的地である広間へと到着する。
小粋な調度品の側には観葉植物などが植えられ、なかなかにお洒落だ。硝子の水差しに、果物がそっと添えられている。
それを遠慮なくなり損ない達と食べ、お腹を満たすムツキと、気後れ気味なジェフ。
対照的な二人だ。
「ジェフは食べないの?」
「自分は結構です。どうも性分なのか、他人から恵んでもらう物に、必要以上に警戒する癖があるんですよ。だから遠慮なく…」
「そうなんだ。無理強いはしないけど、なかなか酸味があってジューシーなのに、勿体ない」
リスのように頬袋いっぱいに果物を食べ、数秒後には果物が消えている。手品かなにかだと、勘繰りたくなるような光景を眺めていると、広間の奥からお目当ての人物が現れた。
広間の中央にある椅子に案内され、木目調の長机を挟んで対面するムツキとジョバンニ卿。
彼の執事が出してくれた紅茶を口に含み、カップの淵を指でなぞりながら一見すると爽やか風を吹かした好青年の彼を観察する。
「一ーーー!ーーーーーー!」
色々と感謝の言葉を述べているが、あまり頭には入ってこない。彼の心配事は他所にあるのか、心ここに在らずといった具合だ。
飢えで苦しむ事以上な関心事、自分の身内、それもとても距離感の近い家族の事。
それなら納得だ…。
この真面目そうな彼にはすこぶる有効な手だろう。外堀を埋めて身動きを封じ、雁字搦めにされた手足の上に、更に何十にも帝国という枷が重く、深くのしかかっている。
ほっとけば窒息する様なぶ厚さで。
『助けたければ奉仕しろ!』
『意思など持つな!』
『命令だけ聞く操り人形の様に振る舞え!』
『お前は人じゃない、帝国の所有物だ!』
そんな声が、彼からした気がしたムツキ。
だから色々と謝辞を述べるジョバンニ卿の言葉を遮り、彼女はいきなり核心に触れた。
「ジョバンニ様、貴方は家族かとても親しい方が、帝国に虜囚の様に捕らわれ、動きたくても身動きがとれない状況でしょうか?」
「肯定なら首を縦に、違うなら横に…」
すると彼は力無く首を縦に振った。
認めたくない事実を思い出し、彼としても蓋をしておきたい事柄だった様で、何故気づいたのかという表情をムツキへと向ける。
「独裁者ならよくやる手ですよ、人質は簡単にみせしめにできるし、何もしなくても人質をとられた側は、不安と焦りで自滅する。今まさにジョバンニ様がそんな風にみえます」
「…凄いな、人間観察が達者なのかい?それとも僕の顔に描いてあったかな?ムツキさん、君の言う通り妻と子供が王弟側に捕らわれている」
「監視の目もあり自由に行動できず、唯々諾々に要求を受け入れていたら、こうなったと?」
「そういう事さ。笑えるだろ?」
渇いた笑みを浮かべるジョバンニに、ムツキは黙ったままだ。一気に力を削ぐのではなく、飼い殺しにして手脚を抉り、自滅を待っている。
こういうところは、発想の着眼点としては参考にしたい。私達にはない考えだ。
彼の攻略はこの話を種にしようと、心の中でほくそ笑み、笑い転げるムツキがそこにはいた。




