義憤にかられましょう
ヨセフ・ジョバンニ卿は考える。
領地にいる騎士団達に、領民の16歳以上の男子は残らず軍に動員し、帝国本軍はまだ足らないと底意地の悪い笑みを浮かべ、大金をはたいて近隣の傭兵団達もいくつも同行させた。
国軍の徴兵官は不服そうに顔をしかめながら、大義であると呟き、戦地へと赴く。
いつもの嫌がらせにしては度が過ぎている。
元々他人の領地を恩着せがましく受領し、自分達ジョバンニ一族が先祖代々開墾した領地がまるまる王弟側へ強奪され、自分の最愛の妻に子供まで人質にとられた。
それでもこんな辺鄙な所へ配置換えに、苦楽を共にした臣下に民達と乗り切り、ようやく軌道にのった矢先にこの仕打ちである。
これで王弟に未来永劫の忠誠を誓えとは、天地がひっくり返ってもごめんだ。
これでこの地を護る者達は、居城に住む近衛と警備兵くらいだ。総数は500にも満たない。
露骨な叛乱対策だろうが、残された領民の家族達だけでは、生活もままならない。
今年の冬を越す薪や食糧、暖をとる暖炉もまるで足りない。今は居城にある倉庫を解放し、自分達の食事を切り詰めているが、それもいつまで保つかわからない。
近隣からの避難民達もじわじわと増え、備蓄の数と戦う毎日だ。自国にいるのに、兵糧攻めにでもあっているような錯覚さえ覚える。
領民や自分の顔は瘦せこけた土気色、眼は落ち窪み、手脚にいたっては先細り、肋骨が浮き出て、歩く死人の様だ。
継承戦争の時よりも状況は最悪だ。
皇太子様の勢力に加担し、自分の家の血筋を護る為に、王弟に身を翻した自分はなんと愚かか。
皇太子様が隠遁生活から脱し、帝国奪還の聖戦を開始したならば真っ先に戦列へと加わり、その先陣で先駆けする覚悟があるのだが…。
皇太子様方の勢力が動き出す事はなく沈黙し、王弟が私利私欲を満たす欲望の装置と化した今の帝国は見るに堪えない。
自分と同様の扱いを受ける貴族は数十人存在し、隣国の国境線や荒野、他国の係留地へと左遷された者達からは、王弟への叛乱の檄文が出回っており、王弟を打倒した後に、正当な後継者たる皇太子様を玉座へとお迎えすべしとの連盟書が届いているのだが、どうすべきか。
【会戦には第3軍と第4軍が出張し、帝都近郊とその周囲には、後詰めという名目で第1軍と第2軍が亀の様に貼り付いてる】
【仮に僕達が一気果敢に帝都へ迫っても、まず挟撃されるし、王弟はそれを手ぐすねひいて待ち焦がれている。内乱の芽を潰したいんだろう】
【計画こそ素晴らしいが、詰んでいる…】
【叛乱を起こしたら最期、王弟がエスコートしながら、私達を断頭台へと案内する未来しかみえない。先のない戦いだ、助成がなければ】
執務室で蝋燭の灯りを灯しながら、思案するヨセフだが、考えれば考えるだけどつぼに嵌る。
すると規則正しく扉がノックされ、長年執事を勤める爺やが報告してくる。
「失礼します」
「御当主様、お客様がおみえです」
「私にか?叛乱の誘いの使者ならお断りせよ。今はまだ時期尚早だ、我々に勝機は薄い」
「いえ、今夜は別の方々です。暁の地平線団と名乗る義賊の方々が、馬車10台分の食糧を私達に供出してくれるというので、お話だけでもと思い、城内の広間に案内しております」
「暁の地平線団?あまり聞かない名だな。しかし有り難い申し出だ、直ぐに会う!代表の名前はなんと言うのだ爺やよ?」
「ムツキと名乗っていました御当主」
「…ムツキ?」
「どこかで聴いた名前だな」
「例のヤハウェ騒乱の際に、魔女と呼ばれた女性だと記憶しております。王弟の金庫番と呼ばれたヤハウェに壊滅的な被害を与え、その後各地を転々とし、ここまで来たのでしょう」
「なるほど!彼女もこの現状に納得しない人物の一人か、爺やこれは吉報だな!」
「ええ、誠に」
共には爺やと数人の近衛をつけ、客間にいるムツキなる人物に想いを馳せるヨセフ。
どの様な面構えなのか?
どの様な反骨精神でここまで戦ってきたのか?
是非ともご教授願いたい!
「待たせて済まない魔女殿!今回の件、どんなに感謝の言葉を重ねても足りないくらいだ!」
「そんなヨセフ様、魔女かどうかわかりませんが、人としての当然の行いです。王弟は断罪すべき輩です、それに困っている方々を見過ごすなんて真似は、とてもできません」
「おぉ…、なんと高潔な!」
にこやかに謙遜する彼女は、私に笑顔をむけている。魔女と呼ばれる者だから、必要以上に警戒していた自分が恥ずかしい。
ムツキはムツキで、ジェフの雇用主たるジョバンニ卿をどう籠絡するか算段を巡らせる。




