儲け話をしましょう
翌日。
無断で数日間拠点から脱走し、私達の活動資金にまで手を出して、散々好き放題やっていたのだ。当然私刑的なものを覚悟していた。
鞭打ちか水責めか、蟄居か…。
考えれば考えるほど嫌な結末が浮かぶ。
ムツキがジェフを見下ろす。
他のメンバーが脇を固める中、略式裁判の様な重苦しい空気が場を包む。
どう釈明しても、明るい未来が見えない。
「さてジェフ君、何か弁解はあるかい?」
「…いえ特にありません」
「ふーん、そういう感じなんだ」
「今回君の傍若無人振りは目に余るね、私は君に相応の罰を与え、その罪を償ってもらおうかとも思ったが…、1度目は赦しましょう」
「但し、2度目はありません。規律とは集団を統率する法であり、掟そのものです。禁を破ったその時は、君を豚の餌にしてそれから肥料にします」
「…はい」
彼女は本気だろう。
剣呑な視線に身震いするが、気合いと根性でどうにか踏みとどまるも、時間がゆっくりと過ぎる。
「個人の身勝手が全体に綻びをうみ、その綻びがほつれ、やがては大きな亀裂となる。私の言っている事はわかるかな?理解できてる?」
無言で頷くジェフに、にっこり笑顔のムツキ。
これは彼女なりの哲学なのだろう。
悪党には悪党の、無頼者には無頼者の鉄の掟があり、それを犯す者がいたら淘汰される。
自然界では弱者が強者に、この世界では愚か者と惰弱な者は指導者に粛清される運命だ。
善悪は関係ない、ただ要るか要らないかの二択。
コモレビがこの一団の指導者だが、ムツキは集団の保全責任者的な存在なのだろう。
修繕箇所があれば保全し、致命的な破損には自らメスを入れ、組織が機能不全になるのを防止している。
「ならこの話は終わり」
ジェフの深夜徘徊の件はお咎めもなく、ムツキからは不問とされたが、彼女は別の事に関心があるようで、話はその話題となった。
「ジェフ君、君の雇用主の事を教えてくれる?」
「ヨセフ・ジョバンニ卿という地方の貴族ですが、支払いを渋ったりした事はなかったですよ。まぁ俺達が行方不明になったから、その契約自体ご破算で、それで終わりでしょうが」
「いーや、終わりじゃないでしょ」
「そのヨセフナンタラ様は、本国に蔑ろにされている。だから必要以上に兵力を掻き集め、今回の戦にかけていた。付け入る隙なんてそれで十分過ぎるじゃない?ねぇ、愛しい愛しい旦那様?」
「いつから君の旦那になったんだか…」
「僕等を売り込む作戦かい?ウナウル達が聞いたらあまりいい顔しないんじゃないか?」
「副職に文句は言わないと思うけどね」
「なにより私達はゴートレニア永住する気はないし、飼い殺しにされる筋合いもないわ。私達の進退は、私達自身で決める!誰の指図も受けない!」
「言い出したらいつも頑固だからなムツキは、僕達は契約者であり、運命共同体だ。何処へだってついていくけど、こんどはどこを目指すんだい?」
「ヨセフナニガシ卿の領地、またはその居城に用があるわ。きっとその人、王弟に意向返ししたくてウズウズしてるんじゃないかな?」
「…だといいけどね」
「きっと彼の領地は大変よ…、あれだけの帝国軍の大軍勢だもの。民草達が必死に溜め込んだ食糧を、税収とは別に臨時徴発し、当然若者達も軍に強制徴用するでしょ?馬も家畜もぶん取り、家屋は拠点として住んでた村人を追い出す…。後には年寄りと子供、枯れ木くらいしか残らない」
「そしたらどうなると思う?」
饒舌に語り続けるムツキに、ゼンは自身が経験した惨劇を思い出す。僕が経験した以上の惨禍が現在進行形で進み、村や街は形だけを残した廃墟となり、死んだも同然の状態と成り果てる。
「なんとか止められませんかムツキさん?」
「だから私達は、一時的に正義の味方になるわ」
「「えっ………?」」
働き口を常に求めるムツキ達にとって、これは棚ぼた的な話だ。活躍する場がそこにはある。
王弟派と皇太子派の勢力で激しく火花を散らした継承戦争で、皇太子派から寝返ったヨセフ達の様な貴族達は数多くいる。
実績欲しさに色々と媚をうり、ごまを擦り、国軍と王弟に召し上げられた自分達の領地を返還してもらいたい下心がある。
その心理を巧く操られているとは知らずに、今日も懸命に働くも、冷遇され続けている。
不平不満は膨らみ続け、今にも破裂してしまいそうな危うさを内包している。
そして今はまだ、ローグ連合国という共通の敵がいるが、それが下火になればどうなるか。
「私達は求め続ける…」
「人々は動乱を恐れているが、私達はそれを欲している。これは病そのものだわ」
「行き先は決まったのかい?」
「えぇ…、当然でしょ」
ゴートレニアから、ムツキ達が行方をくらまし、再びベルヘルミナ帝国を騒がすのにあまり長い時間はかからなかった。
自分達は正義の味方とは真逆な存在なのに、義賊の真似事を始めようとするムツキに、コモレビにシズネ、ゼンやタイチョーは思考が追いつかないながらも、自分達の最善を尽くす努力を怠らない。
ただ、僕達は何者になるのだろうか?
後の歴史が判断してくれるかはわからないままに、事態は動き行き、停滞を許さない。




