挨拶しましょう
ムツキとコモレビの自己紹介を受け、ジェフは矢継ぎ早に彼女達の仲間と面会する。
自分は上手くやれるだろうか?
そんな彼の心配をよそに、綺麗過ぎる少女が自分に握手を求めてきていた。
この子も自分と同じ境遇なのだろうか?
「どうもこんにちはジェフさん!」
「私はシズネ、能力は人体発火です。ジェフさんの怪人としての能力は何でしょうね?とても興味があります!」
「人体発火?」
「怪人としての、能力?」
「生前に経験した…、いや語弊がありますね。人だった時に経験した記憶が、怪人としての能力に影響します。自分の欲や記憶が、そのまま形となると考えて下さい」
「後は身体が勝手に反応してくれます」
自分より遥かに歳下な少女に、抽象的な説明を受けたジェフは、頭のモヤモヤがとれないでいた。
説明するより見せた方がはやいと判断したシズネは、この中年男性に自分の能力を実演した。
腕を前方に突き出し、指先から火柱が上がる。
その火柱を引っ込めると、今度は全身から炎が吹き上がり、圧倒的な存在感を放っている。
口から火を噴く大道芸とは訳が違う、これは本物の焔だ。とめどなく身体から漏れ出る火焔を手で弄び、空中に円を描いている。
少女が人だった時どれほどの苦難があったのかと、ジェフは生唾を呑み込む。
一通り実演し終えると、シズネは得意げにジェフへと微笑みかけるも、やや照れている。
「こんな感じです」
「…自分にはこんな芸当できませんよ」
「あぁそれとジェフさん?」
「はい?」
「もしムツキ先生に悪戯したら、私がジェフさんの尻の毛まで消炭にしますから…」
「覚えておくよ」
愛嬌ある少女の顔が、瞬時に冷たいものへと変化する。彼女の行動基準は、ムツキさんを中心に動いているのだろう。
隣の少年と仮面の男性も、少女の様な怪人という名の化け物なのだろうか?
「君はどんな能力持ちなんだい?」
恐る恐る隣の少年へ質問するジェフ。
興味と恐怖が彼の心に渦巻くが、少年の答えは意外なものでやや拍子抜けだった。
「…僕は自分の能力が解らないんです。だから今のジェフさんと同じ無能力者です」
「そうかい、隣の仮面の旦那は?」
「…うぅ!うっ!」
「?」
「彼はなり損ないの中のなり損ないですよ。言葉は不自由ですが、意思疎通はとれます」
「そうなのかい?」
自分の知らない専門用語が飛び交い、ますます混乱するジェフだが、色々な謎を一旦保留にして、のんびりゴートレニア観光にでも繰り出そうとしたが、そうはならなかった。
「うっ!うぅ」
仮面の男性、タイチョーと名乗る彼から木刀を受け渡され、構えろとジェスチャーされた。
挨拶がわりに模擬戦だと、そんな意思を感じた。
剣術稽古なんて久方ぶりだ。
自分は有名な流派にも属さず、特定の人物から教えを請うていた訳でもない。
ただの喧嘩殺法の我流剣術しか知らない。
街中での喧嘩が彼にとっての学び舎であり、ステゴロや騙し討ちには自信があった。
ただ相手もどうやら我流らしい。
両腕をだらんと脱力し、木刀を寝かせている。
実践剣術よりも喧嘩殺法だ。
なんだか嬉しくなるジェフだが、この男性はべらぼうに強かった。
仮面で視線や先読みができず、しなやかな肉体からは、振り子の様に木刀が飛んでくる。
たらまずに後退すると、密着するかの如くタイチョーが肉薄攻撃を展開してくる。
そして捌ききれなくなってくると、頭にいいのをもらうジェフ。目の前が暗転するほどの痛打。
そんな彼等を、剣術馬鹿たるコモレビが見逃すはずもなく、キラキラした瞳で混ざっていく。
束の間の休息を楽しんでいた。
だが、色々と身体にガタがきている中年男性にとっては、この生活は過酷すぎた。
【俺は何でここにいるのか?】
【安穏と生活したところで、いなくなってしまった仲間や部下は戻らない。そればかりか怪人とかいう訳わからんものになってしまった…】
【…俺がここにいる意味はあるのか?】
来る日も来る日も、軍事訓練の様に繰り返される剣術の稽古にとうとう嫌気がさし、街中に繰り出しては酒をあおっては徘徊するジェフ。
半分自暴自棄になりかけている時、年端もいかない少年ゼンに情けさい姿を晒す。
「ジェフさん、貴方は何がしたいんですか?」
「うるへぇーよ、まへガキが」
酩酊状態で口がまわらず、酒瓶を持つ手も怪しい。
こんなガキに何がわかる。
したり顔なのが腹がたつ…。
どうせ生き永らえた命なら、自分勝手に生きてやる。誰にも邪魔はさせない。
「ジェフさん、ここにいる皆はどこか心に傷を負った人ばかりです。僕やシズネちゃん、コモレビさんやムツキさん、タイチョーもです」
「うるへぇーよ…」
「なにか縁があるから、僕等は出逢った!違いますかジェフさん?皆が心配しています!」
「うるへぇー、俺に指図するなっ!」
ジェフは激昂すると、懐からナイフを取り出す。
子供相手に我ながら大人気ないとは思うが、苛立ちを解消する手段が他にわからない。
「子供は大人の意見にへーこらしてればいいんだよぉ!この野郎がぁ!」
「やめてくださいっ!」
ゼンが叫ぶと同時に、黒い球体の様なものが彼から放出され、数分空中を漂ったかと思うと辺りの地面や外壁を掘削し、やがて黒い球体が自壊した。
出鱈目な能力だ。
周囲はちぐはぐに掘削され、喰い散らかした様な不可思議な光景が広がっている。
ゼンの能力は酷く燃費が悪いのか、一回のこの攻撃で、彼は身動きがとれなくなった。
激しい飢餓感と、目眩、どんなきっかけで彼の能力が発動したかわからないが、少年をこのまま放置するのは彼にとっても寝覚めがよくない。
「まったくついてねぇ」
「世話のやける奴だよ、ったくよぉ〜」
仕方なく背中に拾いあげ、彼等の拠点となっている宿屋へ踵を返すジェフがそこにはいた。




