箸休め 新たな仲間を迎えましょう
「〜〜♪、〜〜♫」
ジェフと名乗る男性を怪人化させ、彼の仲間達をなり損ないへと堕とし、ホクホク顔のムツキを余所に、彼女の気紛れに付き合ったコモレビ達はやや疲れた表情をしていた。
ムツキが予定外の事をするのはいつもの事なんだが、氏素性のわからない赤の他人を次々に味方に引き入れるのはどうしたもんかと考える。
拾ってきたペットを飼うのとは訳が違うのに、彼女が別に気にする素振りはない。
度量が広いのか、考え無しかは判らないが、奇妙な同居人達がまた増えた。
食費に生活費、その他諸々の雑費を引き算すると、活動資金が益々淋しい感じになる。
あれを切り詰めて、缶詰をもう少し安い物に切り替えて、あとは内職でもしようかな。
そんな所帯染みた家計簿をつけるコモレビに、横目でみていたシズネがクスクス笑う。
「なんだがコモレビさんって、主婦みたいですね!私の母さんもよく月末の給料日前は、頭を抱えて険しい顔をしていましたよ」
「…会計士でも雇いたい気分だよ、この頃収支と支出がトントンだ。このまま赤字経営だと、あまり贅沢はできないな」
「仕事を増やしてみたらどうです?」
「そうだね、ゴートレニアで求人募集の張り紙を見て回ろうか。まぁ仕事があればだけど」
「あとは、そーですね…」
「癪ですが、ウナウルさんに話を聞くのもありかもしれませんね。色々と斡旋してくれそう」
「仕事漬けにされそうだけどね」
「それはおっかないです」
コモレビとムツキが愉しげに会話を弾ませる中、彼らの話に耳を澄ましていたゼンは、違った恐怖に襲われていた。
【食事が1日1食に、いや2日・3日に1回になるかもしれない…。クズ野菜のスープは塩水に、白パンが硬い黒パンになり、最終的には自給自足の生活になるかもしれない…】
【それは嫌だ、絶対断固阻止だ…】
ゼンはゼンで難しい顔のまま、彼女達の後を追って、タイチョーの横を歩いている。
そうこうしている間にウナウル達と指定した廃屋で待ち合わせ、ゴートレニアへと帰還していく。戦争を長引かせるという当初の目的を果たし、溜まった疲れが眠りへと誘う。
馬車の適度な揺れの中。
ムツキとタイチョー以外の3人は、穏やかな寝息をたて、なり損ない達が規則正しく行進する。
コモレビは夢を見る。
いつか見た夢の続きを。
辺りは一面闇の世界。
今日はあのおかしな道化はいない、その代わり自分自身がカンテラ片手に佇み、質問してくる。
【また君か…、何か答えを得たかい?】
【わからない】
【そうかい、君はまだこの暗闇の中を彷徨い歩いているんだね。自分の道を見失い、他人が指し示した道を一生懸命辿る君の人生】
【自分の意思はないのかい?】
【……僕は、あいつを殺す!あいつを殺すまでは自分の人生に意味なんかない!】
【空虚だねぇ、あまりにも】
【目的を果たしたら、どこかに消えてしまいそうなか細い光だよコモレビ】
自分と同じ顔の人物が、どこか辛辣な物言いをしてくる。ただどこか嬉しそうだ。
以前と同じ問答をした者だろうか?
僕の知ってる人だろうか?
【そんな君にヒントをあげよう。●●●●●●●●●の真似事をしてみることだ。そうすればこの暗がりも晴れ、希望へと満ちることだろう】
肝心な部分が不明瞭で、聞き取れない。
なんだろうと考えていると彼の頭が揺れる。
それに辺りが騒がしい。
あの夢に意味はあるのかな?
「貴方達はここで解散、次の仕事まで休暇を楽しんでいてね。私は野暮用があるから」
ウナウル達は上役達への経過報告やら、事務仕事があるからと言って、めんどくさそうにその場から離れていく。
ウナウルは励ましてほしそうにチラチラと何度かこちらに振り返るが、ムツキ達は笑顔で見送るだけで、なんともいえない表情をしている。
寝惚け眼のコモレビは状況を把握できず、至福の二度寝を敢行しようとしたが、構ってちゃんと化したムツキにより無理矢理起こされた。
「起きろー、起きろーコモレビ!」
「…せっかくの休暇を満喫してもばちは当たらないだろムツキ、だから寝させてくれ」
「そしたら私の話し相手が減るじゃない!それは由々しき問題よ、だから寝させなーい」
「起きろー!」
今日も厄日だ…。
暇を何よりも恐れるムツキは、コモレビを前後に揺すり、毛布を剥ぎ取って物理的に起こしにくる戦法を採用している。こうなると狸寝入りもできず、身体をゆっくりと起こすしかなくなる。
ゼンとシズネは起こさず、自分にだけという身勝手さが目につくが、言っても聞かないだろう。
「…えーと、どういう状況で?」
そして何の前触れもなく覚醒したジェフが、現状を説明してほしそうにムツキ達を眺める事で、ようやくムツキの夫婦漫才が沈静化した。
「ふふふ、起きてしまったのねジェフとやら。あのまま眠ったままなら恐怖はなかったのに、貴方の血も肉も、魂までも私の物よ」
「さぁ、どうしてくれようか?」
「……っ!?」
芝居掛かった言動で、ジェフの反応をみてはケラケラと笑顔なムツキ。
まったく、彼女の悪い癖がでている。
「気分はどうだい?」
「彼女はムツキ、僕の契約相手で相棒さ。僕はコモレビ、今後ともどうぞ宜しく!」
「ジェフと申します、宜しく旦那」
「ん〜、なんだかなぁ…」
「私達に明確な主従関係はないわ、皆が戦友であり同志であり、家族な訳よ!だからもっと砕けた態度で接してほしいなぁ、ジェフちゃん」
「…ちゃん呼び、ですか?」
「だめかな?」
上目遣いでみつめるムツキに、ジェフの心が早くも陥落しそうになっている。
ムツキの人身掌握術が、ますます磨きがかかっている事に嫌な汗をかくコモレビだった。




