骸拾いをしましょう
嫌に静かな夜がくる。
両軍共に夥しい戦死者を出し、負傷者達は戦場へと置き去りにされ、自力で自軍の陣へ戻れない者には緩やかな死が待ち受ける。
松明の火の群れが、戦場を幽鬼の様に彷徨い歩いている。当然味方ではない…。
欲望に目が眩んだ人の姿をしたけだもの共だ。
「おい見ろよー!コイツいい鎖帷子つけてやがるぜ、そっちはなんかあったか?」
「…金の指輪と首飾りくらいか」
「あとでくれよ?な?」
金目の物を狙う兵隊狩りなどが、暗がりの中をひたひたと歩いて進む。
目視できない分、生き残りの兵士達は心が恐怖に塗り潰されてゆく。
傭兵や兵士とも違う、野盗が徒党を組み、分け前を取り決め、まだ息のある者達にも容赦なくトドメをくれている。
盗品は等しく血に塗れ、使い込まれた麻袋に入れて悦に浸っている兵隊狩り達。
彼らにとって、戦死者達は宝の山であり、まだ息のある者達はなんの障害でもない。
余興を楽しませるただのスパイスだ。
「先輩…」
「…何だ?死体が喋るな、俺達は死体だ」
「…足音が聞こえます。数十人くらいでしょうか?ただ乱暴な感じはしません」
「お互い距離をとれ、固まるとまずい…」
息を潜め、草むらに身を隠し、嵐が過ぎ去るのを待つ生き残り集団に、兵隊狩りとは違う一団がにじり寄ってきている。
彼らは生粋の騎士ではなく、金で雇われ賃金の繋がりでしか敵味方を色分けできない人種だ。
生きていれば再起する機会は巡る。
味方の団員は随分と減ったが、減ったならまた団員を募集すればいいのだ。
だが非情にも、正体不明の一団に取り囲まれ、その包囲の輪はゆるゆると狭められている。
その一団の荷馬車には誰かが指示を出し、一団を統率しているようだが、正常な精神の集団ではないのだろう。目と目でアイコンタクトする先輩と、新参者の自分。足音がより近づき、何やら辺りを物色している様な物音が間近に近づく。
いよいよ年貢の納め時か…。
心音がけたたましい音を上げ、何者かに抱き上げられたかと思うと、身体の状態や傷の程度をまじまじと観察された。
「貴方、まだこの世に未練がある?」
…………
戦場の近くの森にいたムツキは、帰ってきたシズネとコモレビに上機嫌に対応する。
いつの間にか機嫌も直り、コモレビにしなだれかかり、シズネをこれでもかと撫で回している。
「先生!髪がボサボサになります…」
「いいじゃない、いいじゃない!無事でなによりだわ二人共、首尾は上々のようね!」
「あぁ、待たせて悪かったなムツキ。ウナウル達と合流してこの地域から脱出しよう」
「少し寄り道していいかしら、戦場には救いを求める負傷者達が大勢いるのよ?それを見過ごせなんて、私には出来そうにないわ…」
「あぁ…、可哀想な兵士さん達」
「「………」」
妙に芝居がかった仕草で、猫撫で声みたいな普段絶対言わないであろう台詞を呟いている。
コモレビはシズネを、シズネはゼンを交互に見て、お互い何も聞いていない意思表示する。
ムツキが呼び寄せたなり損ない達を見て、彼らも否応なく理解する。
また彼女の悪い癖が出てきたと。
「何をするか聞いてもいいかいムツキ?」
「慈善活動よ、失礼な人ね」
面倒なので、それ以上の追求はやめた。
彼女と初めて逢ったガーフィール家でも、ヤハウェで囚人達を使った時と一緒で、新たな怪人達を欲しているのだろう。
本人は否定するだろうが、それは彼女の根源的な欲求でライフワークの一環だ。自分達の存在を証明したい、数が足らないならより多くより沢山に。
なによりも、自分を理解してくれる人を、寂しさを埋めれる存在を求めているのだろう。
歯止めもタガも外れ、もはや病だ。
そう思いながらも、彼女の行いを肯定的に承認する僕も、タガが外れているんだろう…。
帝国憎し、王弟憎し、現体制の全てが憎し、民草達を喰いものにする支配者階級が憎し。
ここまで走り続けてきた僕もまた、どこか独善的で違う病にかかっているのだろう。
治す術は知らないし、治すつもりはない。
これは僕の復讐の原動力だ。
皇太子にも王弟の首は譲らない。
あいつの首は絶対僕がおとす…。これだけは。
絶対に、譲らない。譲れない。
その障害になる奴らも悪だ。
「…コモレビ」
「怪人になりたい時はいつでも声をかけてね、貴方ならきっと素敵な怪人になれるわ。貴方の憎しみや願望、全てが刺激に満ちているんだから」
「どうしようもない時は頼むかもしれない」
「ただ僕は人のままでありたいとも思う。他の誰かを憎む、それで楽になるなら苦労しないさ」
「贅沢な悩みよね、それも君らしいといえば納得だけどさ。傍観者に飽きたら言ってね?」
「約束よ」
「あぁ、覚えておくよムツキ」
「それとね…」
「さっきのコモレビの顔つきは、俗物的でとっても欲まみれだったわ。冷たい横顔もまたいいね」
「君ほどではないさ」
「本当、捻くれてるなぁー」
夜の風の音がただ聞こえ、満点の星空には遮るものがなく、あの暗闇に吸い込まれてしまいそうだ。
僕らはどこまで堕ちればいいんだろう?
漠然とした想いが満ちてゆく。




