連携しましょう
「ギブソン将軍!第3軍各隊、突撃を開始いたしました!中央には赤備えのベル将軍の隊も確認しましたが、援護にはどの隊を?」
「いかがいたしましょう?」
「んー、こっちも確認してる」
望遠鏡を覗き込む士官に、第4軍の指揮官が気怠げに対応する。彼は自由過ぎる同僚の女性に嘆息していた。曰くまた勝手におっぱじめたと。
何時も気紛れで物事を進める。
軍功を上げ続ける為に、自分達の上司たるホフマン元帥からはなんのお咎めがないので、それが彼女達を増長させる原因にもなっている。
【彼女は戦場に燻る匂いに敏感だ】
【嗅覚を研ぎ澄ました彼女は狩人なのだ】
ギブソンが理由を尋ねた際に、ホフマン元帥はしたり顔で説明したのだが、彼女を甘やかしているのは明白だし、自分の息子の嫁に欲しいと常々側近に吹聴しているのだそうだ。それに比べ、いつも俺が損な役割を演じなきゃいけない、これは悲劇かなにかだ。
元帥は口を開けば僕への批判ばかりだ。
どうにも冷たい気がする…。
【…援護が遅い】
【自殺願望でもあるのか?配置を修正せよ】
【お前は異能だけの一芸野郎だ】
思い出すとお腹が痛い。
ターナー将軍は自分の苦労に、一定の理解を示してくれているのがせめてもの救いだ。
しかしあの突破力には毎度毎度惚れ惚れする、手で紙を破く様に真一文字に敵陣を横断している。
赤い軍旗が縦横無尽に戦場を駆け回る姿は、絵本にでてくる物語の英傑そのものだ。
昔から知ってるから贔屓目は多少あるが。
「だが、ケイティにも困ったもんだ」
「いつも俺達第4軍を国軍の愚連隊とかなじる癖に、自分が率先して無茶するからな。異能を過信している節がある」
「…なら我々はいつも通りに?」
「あぁ、俺達は戦術も戦略も疎い。ターナーの旦那やホフマン元帥達の、教本みたいな優雅な動きはできないのさ。だから俺達は俺達なりの学のない無鉄砲な作戦でいく」
「派手に頼みますっ将軍!」
「いってこい!それでなるべく生き残れ!」
ニヤニヤと笑うギブソン将軍と愛想笑いを浮かべる脳筋な彼の部下達。
付近に潜ませていた彼の部隊を、瞳を閉じて行き先をイメージする事で任意に前方の戦場へピストン輸送する。勿論転送する人数が多ければ多いほど、若干のタイムラグが発生するが、数千人規模の部隊が纏めて転送できる出鱈目な力は脅威そのものだ。
彼は自分の事を過小評価しているが、実際は帝国に数多いる上級士官の一歩先を行く存在だ。
光の粒子に包まれたかと思うと、そこは最前線。敵の目と鼻の先に自分達がいる。
第3軍の直掩部隊にまわる者達もいれば、陽動へと動く隊、別方向から挟み込みをする隊など実に様々な動きをみせる。彼らも慣れたもので、動きに無駄がなく転送直後から役割分担して、後続へ繋ぐ。
予備動作もなく、移動に準備時間もない。
戦術家泣かせの第4軍ご自慢の集団転移戦法。
どんなに策を練り、強固な陣を構築しようとも、彼らは御構い無しに突き進む。
ここがダメなら、むこうへ。
そこも抵抗が強固なら、更に奥地へ。
陣の中だろうが、外だろうが右へ左へ。
飛び石の様に軍団が跳ね回る。
第3軍が猪突猛進型なら、第4軍は技巧型だろうか。直感に頼る彼らを推し量るのは難しく、従来の定石や奇策を用いない。
変化し続ける軍団だ。
………
ローグ連合国から軍団を預かる軍団長が頭を抱えている。遅滞防御に努めようにも、陣地帯は根こそぎ耕す勢いで荒らされ、ベル隊を中心とした烈火の如く苛烈なる攻めに対応できていない。
本国からは可能な限り帝国をこの地に留め、疲労してきた際に返す刃で帝国の首を刎ねよというが、そんな瞬間なんてはたしてあるのかどうか。
帝国の第3軍・第4軍による波状攻撃に前線はジリジリと下がり、なんとか我が軍は誇りと矜恃で踏ん張っているが、それももう時間の問題だ。
ベル本人も厄介だが、彼女が手塩にかけた直下の隊も凶悪そのものだ。
【流麗】のアレクサンドロスが、ベル本人を迎撃に出撃したが、彼の考えはわからない。
彼には国の為とか、名誉の為とかの信念が希薄だ。ただなんとなくベルと戦いたかった。
そんなところだろう。
だが対抗できるカードの内、彼は最高の絵札だ。
彼の異能に、ベルの異能は効果がない。
のらりくらりと戦闘が長引けば、本国からの増援もある事だろう。
「やってやる、この戦は勝って終わらせる!歴史の浅い国の尖兵供の好きにさせるかっ!」
軍団長は決意を新たに陣頭指揮に熱を入れる。
彼は自分が凡庸であるのは、誰よりも理解している。だから自分がこんな大戦に抜擢された事に、未だに夢見心地な気分だが、凡人にも意地がある。
「ルッツ部隊長が敵の異能者であるベルを封じ込めている!予備軍を全部出せ、本陣の備えは最低限でもよい!急がせろ、帝国は待ってくれんぞ!」
「「はっ!了解しました!!」」
アレクサンドロス・ルッツ。
移民の国でもあるローグ連合国で生を受け、移民の子として健やかに成長していたが、突然十代の半ばにローグ国軍へ志願兵として加わり、以後異能を開花させてからはより戦いへとのめり込む。
そしてその異常性も顔を出してくる、敵をわざわざ苦して殺したり、無抵抗な者達を嬉々として惨殺するなど精神的に病弱だ。
ローグの国軍より与えられた流麗という二つ名からは程遠い彼は、加虐のルッツと呼ばれている。
彼にとって好敵手という存在は心が躍る。
標的が己の技量の全てをぶつけ、自分を打倒しようとする姿は、日常の生活には興奮だ。
身体を液状化し、ベルの身体を包み込んで溺死させようにも、彼女は平気な顔で包囲を突破する。
身体を細分化し、彼女の中へ侵入しようとしても、服の汚れを払うみたいにいなされる。
やっぱり彼女だ!彼女こそ僕の、僕のっ!
「ぶっはっは、はははっ!」
「…っこの!水玉野郎がっ!」
今日何度目かわからない異能を行使するベルだが、相対するルッツに目立った致命傷はなく。
平然とその場に佇んでいる。
きみわるい笑い声が余計腹立たしい。
決着もつかず、辺りは既に夕暮れだ。
先行していたバネッサ達に拾われ、夜戦を避ける形で両軍が引き潮の様に軍団を整理し、睨み合いながらゆっくりと後退する。
次こそは、奴を圧縮してバラバラにしてやる。
彼女は怨敵が遠ざかるのを無言で遠ざかる。




