牧師さん達と語りましょう
「なんと罰当たりな…、彼らを再び死地へ送り出すとは!彼らは充分苦しんでいましたっ」
「私達に出来るのは彼らの心のケアなのですよ?何故あのような惨いことをするのです」
「貴方達に信奉する神はいないのですか?」
なにやら従軍していた牧師や神父、修道女達がしきりに私達を非難している。
狂騒薬を飲み込んだ瞬間、怪我人達は猛然と前線へと駆け出し、自分達の身体の状態など御構い無しといった感じだ。
思考能力と痛覚などがなくなっているのか、自分達の血液を撒き散らし、内臓や身体の欠損箇所が剥き出しの者までいる。
だからシズネは腑に落ちない。
生命力や命を代償に、彼らはひた走る。
前へ前へ、ひたすらに前へ。
あれはあれで美しいじゃないか?
兵士の本分を全うし、戦場を枕に討ち死にする。
どうしてそんなにいけないのか?
「なんでそう思うんですか?」
「彼らを中途半端に生かすことの方が残酷じゃないですか?下手に希望を与えるより、彼らは綺麗サッパリ戦場で身を削って、その果てに命をおとす。それでいいと私は思いますが?」
「なんて事を…、君も聖職者の端くれなら、人々に希望を与えるのが我々の責務だろうに、どうしてそんなに歪んでしまったのか」
「あいにくと、私は神様なんて存在は微塵も信じていません。もしいたとしたら許せませんし、赦さない…。私は普通が欲しかっただけ」
「ただ毎日農作業して、畑を耕して、種を実らせて、なんでもない日常を謳歌する。そんな普通が私にはなかっただけ」
「君は…、何を言っているのだ?」
「けどね、悪い事ばかりじゃなかったの!色褪せた私の日常は、先生との出逢いで激変し、私はここにいていいんだって言われた気がしたの!」
少女の呟きはどこか儚げで、視線はどこか虚空を見つめているかの如く表情が暗い。
かと思うと年相応の笑顔を浮かべたりと、彼女の本心がどこにあるのかわからない。
傍らに立つ青年も、黒い外套のフードを目深に被り、表情がわからないままだ。
聖職者でもなく、神の存在を信じないと論ずる不信心者の二人組、なら目的はなんなのか?
異端の類だろうか?
それよりも怪我人達に飲ませていた物はいったい何だったのだろうか?
牧師達の言いようのない不安の視線が少女に集中する。次は我々があぁなるのか?
だが、少女達の興味は別にあるのか、牧師達を置き去りにどこかへ姿をくらませた。
騒ぎを聞きつけた憲兵隊に事情聴取を受けても、要領の得ない発言を繰り返すばかりだった。
「シズネ、一度戻るか?狂騒薬も使い果たしてしまったし、注目を集めすぎた」
「そうですねコモレビさん、何にも知らない人達がいたから、ついムキになりました」
「……」
「どんな存在になろうと、シズネはシズネだ。だからあまり自分を卑下するな、堂々と胸を張って歩けばいいのさ。無理するな」
「変なところでお節介ですよねコモレビさん、そこが先生と違う魅力なのかもしれませんね」
「茶化すなよ、真面目な話さ」
「そう、ですね」
外套のフードを被り直し、コモレビの側へピタリと張り付く少女の肩は、僅かに震えていた。
気丈に振る舞っていても、彼女は女の子なのだ。
コモレビはぽんぽんと頭を撫でていた。
当時の記憶がなんの前触れもなくフラッシュバックする。それはコモレビも経験がある事だから、だから少女の涙を見て見ぬふりをした。




