突破口を探りましょう
開戦してはや半年。
鼠算式に死傷者が増え続ける中、両国の現場指揮官達は難しい舵取りを強いられている。
自分達の命令一つで、毎日数百、数千の命が散り、果てない闘争へと誘うしかできない苦悩。
寝ても覚めても戦場の図面を広げ、見えざる敵と戦い続けている。
大味な戦略を採用する相手の狙いが解らず、戦力配置図に自軍の駒を取っ替え引っ替えする小柄な女将軍。
この天幕には彼女の他に、第3軍の参謀や上級将校が詰めており、議論は白熱しているが結論が出ず、総攻めによる決戦は見送られて持久策が採用されている。
「帝国魂を今こそ見せる時じゃないか?ローグの敵将は、成り上がりの凡庸な男だと聞いたが…」
「あちらも遅滞戦闘を継続中なのだろう?凡庸という情報が偽物だった場合、貴公はどうするのだ?」
「なんと嘆かわしいかな、戦ってもいない相手に怯えて、みすみす勝機を見逃すとは、いやはや。負け犬根性が身体に染み付いているのですかな?」
「…ほほう?私を愚弄するか」
「ほんのアドバイスですよ、アドバイス」
功名心に逸る若者の大隊長と、歴戦の連隊長のベテランが意見をぶつかりあわせている。
あれじゃあ会議じゃなくただの喧嘩だ。
酒場の酔っ払いの方がまだ礼儀がいいだろう。
「いがみ合いも大概にしとけよ?あぁそれと今日も前線に変わりはないのだな?」
「はい副官!…ベル将軍はなんと?」
「まだ結論には至ってない。少し待て」
「現状は待機だ、あちらが仕掛けてきたら適当にいなしておけ、追撃はするなよ?矢の牽制でいい」
「はっ!了解しました徹底します!」
【この配置ならこうだ】
【いや、逆にこの辺に伏兵がいるかも?】
【シンプルに考えろ、これだと我が軍が窮地になると仮定するならば、私はこの点を線で…】
【なら点を突破したら、こちらを逆包囲して…】
【……、だぁ〜〜わからないわ!】
ベルヘルミナ帝国側は完全に攻めあぐねていた。
ローグ連合が開戦当初から、組織的な遅滞戦闘を継続しており、こちらの誘いものらりくらりと躱し、決戦は避けて亀の様に塹壕に篭っている。
そのくせこちらが油断していると、連隊規模で夜襲やら遊撃戦を仕掛け、こちらの出鼻を挫いてくるいやらしい戦法を採用している。
忌々しい青地に星の国旗が、今日も誇らしげにたなびかせ、一定のリズムで安眠妨害の大砲のメロディーを奏でている。
夜中なのにご苦労な事だ。
気分転換に一服煙草を咥えていると、ドタドタと荒々しい足音が近づいてくる。
「ご報告しますベル将軍閣下っ!」
この無駄に熱苦しい伝令は、レイノルドが指揮する第4軍の伝令だろう。
彼も敵の戦術に頭を悩ませているのかと、なんとなく顔が綻んだが、それは的外れだった。
「…何、本当なの?」
「はっ!」
「…戦死判定の者達が復活して、前線に舞い戻っているだと?君、お酒の飲み過ぎか?」
「閣下、それが事実なのです!」
「それも大隊規模ぐらいの相当数です!皆孤軍奮闘で前線をこじ開けつつあり、ローグ側も対応に苦慮しておりましたが…」
「続けなさい、敵の異能が現れたのだろう?名のある奴か?私と直下の部下達で黙らせよう。場所と人数を教えて、それから特徴も頼むわね」
「いえ、そうではありません閣下!」
「ローグ側からも似た様な奴等が現れて、我々の進撃を阻んでおります」
「……」
怪我人が起き上がり、元気になって敵を乱していたら、ローグ側からも似たような奴らが湧いた。なんとも奇妙な報告だ。
本来ならこの虚言君は、営倉にでもぶち込んでやるとこなのだが、この伝令の他にも次々と似た様な報告が上がってきている。
この一連の奇妙な動きが敵の策なら、お粗末過ぎて陽動にすらならないが、遅滞戦闘の一環で敵の異能という可能性もなくはない。
「私が出よう、レイノルドは動いているか?」
「はい、ギブソン将軍は只今作戦行動中でありまして、ベル将軍の助成を心待ちにしています」
「まったく、いいわ君の口車に乗ってあげるわ!案内なさい!」
「はっ!」
伝令の松明の火の後をついてまわるベル将軍と、彼女の直轄部隊が周りを護衛する。
その部隊は彼女が部隊長の頃からの馴染みで、数十の
戦場を経験しており、10代の頃から寝食を共にした真の戦友達だ。
がむしゃらに戦場だけを駆け抜け、トントン拍子で手柄を立てて、気がつけば将軍という遥かな高みへ到達した。私の後ろには大勢の部下達がおり、護るべき対象が増えてしまった気もする。
別に偉くなりたいとか、血に飢えた獣とかでもない。私達は至って健全であり、健康だ。
兵士不足で臨時徴発された村の仲間達が、よくもまぁこれだけ生き残ったもんだと感心するケイティ。
「いよっケイティ!また戦働きする気かい?私らの獲物もしっかりと残して頂戴よ!」
「それは約束できないかなバネッサ。勝負は時の運ともいうでしょ?だから競争よ!」
「あんま凶暴だと、いよいよ嫁の貰い手がつかなくなるぞケイティ?たまにはお淑やかにだな…」
「ハハハハ無理な相談よ、それに前も言ったでしょ。私の恋人は戦場なの、それ以外に興味はないわ」
「まったく、これだよ」
ガヤガヤと騒ぎながらも、自分達の装備や鎧の具合を確かめ、首や肩をポキポキと鳴らして陣中を闊歩する姿は、どこか毅然としている。
怯えとか恐怖なんてなんのその。
運がよければ生きるし、悪ければ死ぬ。
彼女達の日常はそこしかなく、抜け出せない。
死神に魅入られてしまった者達が歩き続ける。




