戦場へと歩み出しましょう
【取り扱い注意!天地無用!吸引するな!】
梱包された荷物に、亜人語ででかでかとした注意書きが書かれている。こんな物が大量に山積みされた倉庫があるのは、中立国としてはどうなんだろう?倉庫の周囲には秘密警察や軍人、憲兵達も立ち並び、規制線まで張られた厳戒態勢だ。
ウナウルがコネと人脈を最大限に活用した成果だろう、今王の従者達の無用な横槍を入るのを嫌って、念には念を入れた。
表向きは、脱獄囚が集団で逃走したという名目だが、そんな情報工作は直ぐに露呈する。数日中には別の隠し場所を探すつもりだ。
荷馬車に小瓶を満載し、ベルヘルミナ帝国・ローグ連合国の両陣営を目指す。
ムツキ達はベルヘルミナ、ウナウル達はローグ連合国を担当し、頃合いをみて離脱する手筈だ。
主戦場がゴートレニアから離れてる事もあり、途中までは連れ立って行動する。
片道だけでも十日程かかるので、その間にお互い情報交換と共有の時間に費やしていた。
「緩やかに離脱がベストだけど、やむを得ない状況になったらこの待ち合わせの山小屋は避けて、この辺りの崩れた城門跡に集合で。それも難しいようならこの廃村跡に潜伏してて、工作活動は慎重さが肝要よ?ワンマンプレーは駄目」
「…強引に突破するのは?私達は戦うのが仕事でしょ、そんな障害は実力でさ」
「それもだめ…」
「戦いは極力避けて、敵に無用な警戒心を抱かせ、兵力が集中した時点で作戦は失敗よ。私達は目立たず騒がず粛々と仕事するの。いい?」
「あーい」
「露骨に残念がらないでよムツキ」
「ちょっとコモレビ!あんたあの子の彼氏でしょ、なんとか宥めなさいよ!」
仕事前だというのに、荷馬車でだらんと両手足を投げ出すムツキに、困窮したウナウルがコモレビに助けを求める。
ムツキは自分の思い通りにならない状態に直面すると、時々ああなる。何事にも無関心と無気力になり、小さい駄々っ子みたいになる。
旅の途中でシズネとコモレビ、ゼンも何度か目撃した事がある。小さな子ならあやしたり、お菓子をあげたりすれば機嫌はなおるが、彼女は気紛れでそれも難しい。
「いやいや僕は彼女の契約相手であって、そんな間柄じゃないよ。なぁシズネ?」
「そうですね…、仮にコモレビさんと先生がそんな恋仲関係になったら、実力行使してでも邪魔するから覚悟して下さいね」
「善処するよ…」
少女の顔が怖い。
普段は聞き分けもよく機転が利くのだが、ムツキ関連の話題になると途端に視野が狭まる。
コモレビは常識人のゼンへと話題を振り、どうにかこの難局を乗り切ろうとする。
「ゼンならどうする?」
「僕ですか?そーですね、ムツキさんは甘いお菓子が好きなので、奮発していい物をあげればあるいは…。けど、今回は時間かかりそうですね」
「あぁ、そうだね」
ウナウルがあの手この手で興味深い話をいくつも披露しているが、ムツキの表情はピクリとも変わらず、終いには不貞寝を始めた。
ちょっと彼女が不憫だ。
結局ウナウル達とは別行動となり、彼女の機嫌をよくしといてと密命を受けたが、自分達もお手上げ状態なのは変わらない。
やがて荷馬車を山の麓に隠蔽し、戦場へと近づくムツキ達。ゼンとムツキは荷馬車でお留守番し、シズネとコモレビは二人組で行動する。
黒い外套の内側に、狂騒薬の小瓶を持てるだけ持ち、コモレビは愛刀を携えて戦場を見渡す。
鬨の声に悲鳴、金属が擦り合う音、時折大砲が出す風切り音まで響き、前線から離れているにも関わらず戦場の匂いがたちこめる。
コモレビにとっては忌むべき匂い。
シズネにとっては辛い記憶が蘇る匂い。
少女の顔が曇るも、コモレビ達はベルヘルミナ側の野戦病院へとさらに近づく。
怪我人達の糞便は垂れ流され強い悪臭と刺激臭がする中、目的の場所へと辿り着く。
軍医達から治療の余地なし、手の施しようなしの烙印を押され、申し訳程度にベッドがわりの藁へ寝かされている重篤患者達。
彼らの側には従軍している神父や牧師達が付き添っており、生前の懺悔や告解を聞いている。
「シズネ、…やれるかい?」
「大丈夫です、コモレビさん」
少女は自分の頬を一度叩いて気合いを入れ、勇気を振り絞って歩み出す。
「皆さん、この世は理不尽で満ちています」




