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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
理想と現実の狭間で
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小瓶の中を覗きましょう

狂騒薬と名付けた液体が瓶詰めされ、量産化される体制が着々と構築されてゆく。


昼夜関係なく、二交代制で労働者達や街の工場の職人達も動員され、混ぜ合わせや梱包作業が急ピッチで進められ、なんとか形だけは揃いつつあるが、職人達は自分が何を作成しているのかわからず、単純動作の割に給金に色がついてるので、深くは考えない様に手だけを動かしている。液体は有毒で、素手に革手袋と口に布を巻いた職人達がずらりと工房で並ぶ作業は異質だ。


給金がいいのは危険手当だろうか?


赤い液体に黒い液体を数滴垂らし、混ぜ合わせまた次の瓶詰め作業へ取り掛かる。

これは何だろう?


「待ってくれ!別に俺たちは盗むつもりなんかなかったんだ。ほんの出来心で、なぁ?」


「…退廃主義者め、こっちだ」

「帰れるよな?返したら帰れるよなっ?」


「さぁ?それは上が決める。我々は関知しない事柄だから、何も答えられん」

興味本位で液体を懐にくすねた街のゴロツキ崩れ達が、問答無用で秘密警察達に引き摺られる様に連行されていく。

荷馬車に物の様に乱雑に積まれ、暗い監獄へと繋がれて、数日経っても彼らは戻ってこなかった。

この液体は国家絡みの危険な薬品なのだろう。


「…この赤い液体は、やっぱり血なのかな?」


「滅多な事言うな、奴等に連れていかれるぞ」

「いや冗談っす、冗談!」


黒い制服を身に纏い、国家よりその思想に忠誠を誓う統一亜人党の面々が警棒を持ちながら、不心得者がいないか工房内を警邏している。


「三人程抜けた穴を、この班のノルマに追加する。この箱も埋めろ!」


「はっ、はい!」


骸骨の腕章を付けた役人が、雑談にうつつをぬかしていた職人達にペナルティを課す。

彼らの前では、この国の警察や法も意味を成さない。彼らこそが規律であり、法であるという超法規的な機関なのだから。


そんな理不尽の塊達を引き連れて、進捗具合を確認するウナウルとホトホル。

横にはムツキ達も出張り、生産工場と化した工房を見学している。普段のおちゃらけた態度を封印し、黒の詰襟に制帽姿のウナウルが鋭い目つきで辺りを見回している。


「同志ウナウル、如何しましたか?」


「君、彼等の疲労が濃いのがわからないの?これじゃあ生産効率も下がるわ、二時間程大休憩を挟みましょう。話はそれからね」


「御言葉ですが、彼等に怠け癖がつく事は避けるべきかと、まだ本日分のノルマがっ…!」


「彼等は機械ではないわ」

「同じ国の同胞であり、仲間であり、戦友なのよ。職務熱心も大概にしときなさい」


「ですがっ…!」


「ふーん、貴方上官に逆らうの?退廃主義の輩が今日は満員御礼ね。私が貴方を捕まえた方がいいのかしらね?どうしようか?」


尚も言い募る秘密警察の一人を、至近距離で諭すウナウル。顔は笑顔そのものだが、目が微塵も笑っていない。人殺しの瞳だ。

彼も空気が変わった事を敏感に察知し、きびきびと敬礼し、その場を後にした。


「全員作業やめー!作業やめー!」


詰め寄られた彼は、必死な形相で金切り声を上げながら、自分の職務に邁進している。

男装の麗人の様な姿で、現場監督する姿はなかなかに眩しかった。横のホトホルは詰襟の留め具がはまらずに、大胆に胸元が露出していたが…。


【あぁいう顔もするのね】

【ふん、嫌味な奴。本当に…】

【彼女は形から入るタイプじゃないかな?】

【街の服飾屋に似た様な服あるかな?】

【…うっ】


バラバラに考えを巡らすムツキ達。

量産体制が軌道に乗り始めたのなら、各陣営の野戦病院に陣中見舞いと称して、狂騒薬をばら撒こう。それで事態は加速度的に動き出す。


片方だけでなく両方に肩入れすれば、被害は益々増すばかり、怪我人が怪我人を量産する。

これは愉快痛快な事になりそうだ。その混乱の中で怪人探しを本格化させるのも一興だろう。



小瓶が悪意を乗せて運ばれてゆく。

絶望の戦場へ、少しずつ少しずつ。

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