粗悪品を量産しましょう
両国の戦争を長引かせる。
言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。
本来なら指揮系統を分断し、補給路を寸断して、各部隊を孤立させるのが正攻法だが、時間も人手もこちらには圧倒的に足りない。
私達が使えるのはなり損ない達数十名にゼンとタイチョー、コモレビにシズネだけだ。
決行当日に支援があるとしても、息のあった連携などは難しいだろう。
ウナウル達が帰宅した後、宿屋の一室でカンテラを囲み、長机に身を寄せあいながら家族会議の様に五人が語り合う。
タイチョーは相槌専門係となっているが。
「具体的にどうしましょうか先生?」
「こちらの数が少ないのなら、むこうの兵隊さん達で数を補填しましょう。けどいくつか手順を無視するわ、なり損ないもどきを創るのよ」
「なり損ないもどき、ですか?怪人やなり損ないとはどういった違いがあるのですか?」
「私の血は他人に効果があり過ぎるの、受け付けないからその器から溢れて死んでしまう。シズネやゼンみたいに、順応するには確固たる欲がないと、だからそのその効能を意図的に落とすわ」
そこまで言うとコモレビが暗い顔をする、ヤハウェの囚人に行った人体実験を思い出し、辛そうに眉間に皺を寄せて意見を出す。
またここでもその再現をしようとしている。
あれは人の行いとかけ離れた畜生の所業だ、ゼンも当時の様子を振り返り青くなる。
「効能を落とすというが、そんな事簡単にできるのか?ゴートレニアでヤハウェの続きをするのには、僕には抵抗がある」
「コモレビ、早合点しないで。」
「ウナウル達に情報提供の見返りに、面白い物と交換したからそれで臨床実験するだけよ」
部屋の隅に梱包された荷物を、無造作に紐解いてくムツキを、見守る面々。
ゼンとコモレビはシズネを見つめるも、自分もよく知らないと、ぶんぶん首を横に振る。
食塩水に動物の血液、人の血液の瓶詰め。
透明色や白濁色の小瓶に、その他用途不明な物が露店商の様に机に並べられていく。
最後に籠に入った小鳥数羽置くムツキ。
その並べた小瓶に、自分の指先を切り数滴ずつ垂らしながら変化を待ち、小瓶を順番に小鳥へと与えていく。小鳥は餌だと思ったのかピーピーと、可愛らしい鳴き声をあげている。
「これは違う、…これも違う。こっちはただ毒性が増しただけ、これは効果なし…」
黙々と作業に没頭するムツキと、その経過観察をメモするべく筆を走らせるシズネ。
小鳥達は燃やされたり、衰弱したり、苦しげに嘶いたりと徐々に数を減らしていくが、彼女は手を休める事なく、臨床実験を続ける。
そして遂に満足いく結果がでた個体にであえた。小鳥は羽根が千切れんばかりに羽ばたき続け、なんの前触れなく息絶えた。
「…やっぱり人の血が馴染むみたい。私の血数滴に対して、人の血液がコップ三杯分くらいかしらね?後は効果時間の確認と、保存の方法ね!」
「先生、これは人為的に身体能力を向上させる代償に、その生物の生命力を糧にする劇薬でしょうか?この小鳥の様に、命尽きるまで…」
「そうね、不安定と言わざるを得ないわ。命の蝋燭を急激に燃やす薬」
「さながら、狂騒薬かしらね」
二人が淡々と成果を出す様子に、ゼンは恐ろしい光景に目が釘付けとなり、タイチョーに項垂れかかっている。コモレビはいつのまにか部屋を出て、屋上へと寝そべっていた。
あんなものが戦場に蔓延したらどうなるか?
あんなものが跳梁する軍隊が組織されたら?
兵士達は駒から消耗品となり、本人達の意思の宿らない混沌とした時代が到来する。
【僕達はもう度し難い存在だ。王弟憎し、帝国を正しき国へ導くと心で決めたのに、僕等自身もどうしようもない存在になっている。ムツキの怪物としての本性に同化しているのかもしれないし、僕も怪人になりつつあるのかもな】
一人心地に不安になるコモレビに、背後から声をかけられる。彼女の香りがほんのりとしていて、なんでか心身共に落ち着く様な気がした。
これは憧れとか、恋心なんだろうか?
彼女と初めて出逢ったときからかもな…。
「…コモレビ少しいい?」
「あぁ」
「ん、ありがと」
「皆が幸せになる世の中を創るなら、変革が必要よ。どんな時代でも流血をともわない生温い時代はなかった…。前任者の指導者が後任に蹴落とされ、身内に欺かれ、遠縁が摩り替わり、王族という形のない存在が崇拝されたり、民衆に突然引き摺り降ろされたり、全てを否定する独裁者が生まれては消え、また誰かが国を勃興させる」
「貴方が指導者になったら平和な時代を永く続ける努力をすればいい、けどそれは全部事後の話。これはそうなる為の通過儀礼なの、避けては通れない。誰かがやらないといけない事よ」
「頭では理解しているんだけどさムツキ、僕はどうしようもなく恐いんだ。僕の時間は、小さな納戸の中で震えて泣きじゃくっていた幼少期から止まったままなんだよ。…弱虫なのさ」
「弱虫でもいいじゃない?これから大成し、貴方の悲願を為せばいいのよ。ね?」
「ムツキは強いな、心が高潔なのかもね」
「契約相手が弱ってたから鼓舞しただけよ」
静かに笑い合う二人。
ゴートレニアでの夜が更けていく。




